夏の海 知った蛙の 戻り道 /二十八

 Zachary Kallenborn 記者による2022-5-12記事「Seven (Initial) Drone Warfare Lessons from Ukraine」。
   各種電子妨害装置や高性能防空ミサイルを国内で調達できる大国の軍隊であっても、敵軍の各種無人機を阻止する手段は現状ではまったく不十分であることが明らかになった。

 たとえばTB2は、開戦いらい数機が撃墜されているが、そのかわりに、露軍が投入した自走SAMの半数近くを逆に撃破してしまった。圧倒的に「歩」が良い。

 またこれら無人機が提供している戦場動画が、SNS投稿を通じてウクライナ側の善戦を世界に強調宣伝することになり、ウクライナ国民を心理的に鼓舞し、それを支持する与国の輿論を盛り上げるという無形の大貢献を果たしている。

 TB2は、ナゴルノカラバフ戦争時とは役割をかなり変更している。
 2020年のナゴルノカラバフ紛争のときは、TB2が、アルメニア軍の戦車120両、APC53両、牽引野砲143門などを撃破したとされる。
 今次ウクライナ戦争では、TB2は対戦車攻撃には全く使われていない。戦車を1両も撃破していないのだ。
 TB2というものがありながら、戦車の撃破は、地上軍のATGMや、安価なマルチコプタードローンからの小型弾薬の投下や、地雷によって分担されているところが、今次戦場の大きな特徴である。

 露軍は過去何年もシリアで、ドローンによる攻撃を受けている。だから、ロシア軍とドローンに詳しいサム・ベンデットは、不思議がっている。というのはウクライナに突入した露軍地上部隊には、対ドローン用のECM装備が皆無であるように見えるからだ。彼の結論。露軍は、敵のドローンなど脅威ではないという間違った評価を、シリアで得てしまったのだ。

 ※それではナゴルノカラバフの最新戦訓をどうして無視したかがちっとも説明されない。アルメニア軍が破壊された戦車やSAMはすべてロシア製だったのだから。この謎は、プーチン体制下のロシア人の「情報適応」によってのみ、説明可能である。独裁者が「嘘による言い訳のプロ」で「自家宣伝中毒症」に懸かっているとき、とりまきの臣下も、被支配者人民も、その宣伝に逆らってはいけないのだ。軍事専門幕僚たるショイグやゲラシモフすらも。

 これについては米軍もあまり偉そうなことは言えないはずだ。将来の戦場で、敵が各種ドローンを多用してきたときに、それをすべて叩き落せるだろうか? 甚だ疑問である。特に米陸軍に顕著なのだが、みずからドローンを多用しようという意欲も希薄だろう。装備や戦術体系を変更する「リスク」を、出世主義の(キャリア上の「減点」をおそれる)将校たちが、皆、回避している。

 対ドローンのECMは簡単な話じゃない。局所においてGPSを妨害することは常に可能である。露軍はそれには長けている。ところがドローンの側では、GPSに頼らない飛行も、いろいろと可能なのだ。

 ※マイクロ波をAESAで一点集中して、ドローンが内臓する姿勢制御チップを短絡破壊させる方式が最も有望視されている。その「地対空電波砲」の装備はしかし未だどの軍隊も制式化すらできていない段階。なにしろ専用のレーダーとセットだから、高額になる。それに、たぶんチップ素材を変更すれば、外からの電磁波をシールドできるようにもなるであろう。

 ※もうひとつのECM回避法として「有線化」が挙げられる。昔の対戦車ミサイルのように尻からワイヤーを繰り出す仕組み。今の光ファイバーケーブルはごく軽くなっているし、マルチコプター型ドローンによる超低空飛翔に限れば、そのラインはすぐに地面にまで垂れて、余計な重さ(抵抗)も生まない。最終攻撃段階で初めて高く上昇させればいい。そして帰路には、ワイヤーボビンを切り離して捨ててしまって、最後に有線のコマンドで受信した帰還点の方位情報(機体姿勢と相関)を記憶しておいて、そこへINS航法(ジャイロ頼み)で飛び戻ればいい。

 ※業務用級のマルチコプタードローンをATGM化できると「逆BILL」が可能になる。すなわち、地面スレスレの高さから、斜め上方に向けて自己鍛造弾を発射するのだ。かつてチャレンジャー戦車の前方下面は、RPGによって貫徹されてしまった(操縦手、重症)。露軍戦車の側面下部は、それよりももっと脆く、すぐ裏側は、カルーセル弾庫である。貫徹ができなかったとしても、履帯は間違いなく爆破できるわけである。シリアとウクライナで、APS防禦装置など何の役にも立たないことが分かっただろう。この試みは世界中の兵器ベンチャーが、考えているはずである。

 2020年9月にホビー用のドローンがロサンゼルス市警のヘリコプターのローターにひっかかって、その有人ヘリは不時着を余儀なくされている。軽量なドローンの衝突には、バードストライク以上の破壊力がある。

 次。
 2022-5-10記事「’I quit the Wagner group after the Kremlin sent me to Syria ? here’s why’」。
   55歳のガビドゥリン氏。元ワグネルの傭兵で、ながらくシリアで戦闘してきたが、2019年に退職した。しかし、今次ウクライナ戦争がスタートする数ヵ月前に、リクルーターから電話で「また現役に戻ってウクライナで戦わないか」と誘われたという。

 その電話のリクルーターは、相手のウクライナ軍は未経験兵の寄せ集めだから楽勝だと語っていたという。ガ氏は、それを信じなかった。

 ガ氏は誘いを断った。

 氏は今、フランスに住んでいて、ワグネルで体験したことを本に書いて出版する予定である。彼は片方の腎臓を手術で摘出してしまっている。

 ※雑報によると、シリアに派遣されていた露軍が呼び戻されている。それは航空部隊も、なのか? 詳細は不明。

 次。
 Andrei Soldatov and Irina Borogan 記者による2022-5-12記事「Putin Pulls Russian Spy Agency Out of Ukraine」。
   プーチンは先週、ウクライナ情報をプーチンに上げる担当からFSBを外し、代わって、GRUに頼ることにした。

 そのGRUのキーパーソンは、ウラディミル・アレクセイエフ。

 ウクライナ情報は従来、FSBの「第五課」の担当だった。「ロシア語を話す住民が一斉蜂起しますよ」などとプーチンに請合っていたが、まったく外れた。FSB長官のセルゲイ・ベセダは逮捕され、悪名高いレフォルトヴォ刑務所に一時ぶちこまれてしまった。

 アレクセイエフはスペツナズ出身で海外(西側)大使館勤務も重ねてきた。2011からGRUを仕切っている。 ショイグが国防大臣に就いたのが2012である。

 ※雑報によると、アゾフスターリ製鉄所に向けて露軍は、240ミリの誘導式の迫撃砲弾を撃ち込んでいるという。地下壕攻撃スペシャルと考えられる。
 また米国がウクライナ軍に、60ミリ軽迫撃砲の「M224」をすでに供給中であることも、写真投稿によって判明した。
 トルコはアゾフスターリの地下の負傷兵たちについて、トルコの船舶にて預かり、終戦まで戦場に戻さない、という提案をモスクワにしたのだが、プーチンが拒否した。
 エルドアンはフィンランドのNATO加盟はまずいようなことを口走っている。NATO30ヵ国のうち1ヵ国でも反対すれば、新加盟はできない仕組みである。

 次。
 ストラテジーペイジの2022-5-13記事。
  警備艇の「ラプトル」型は、サンクトペテルスブルグの造船所で建造されている。開発は2013に成功。
 23トン、全長17m。
 乗員2~3名、お客20名または荷物20トンを載せられる。

 固定武装のリモコン14.5ミリ銃塔。有効射程は2000mだが、光学照準装置は3000mまで有効である。

 他に手動で発射する7.62ミリ軽機がある。こちらは最大射程が1500mだ。

 また、乗員には肩SAMも持たされているはずなのだが、あきらかにバイラクタルの位置までは届かなかったのだろう。だから逃げ回るしかなかった。

 「ラプトル」の窓ガラスはすべて防弾仕様である。人が所在する要所も防弾壁材である。
 航続距離は200km。

 1991年にスウェーデン海軍が、21トンの「CB90」型警備艇をバルト海に就役させた。輸出もされて大ヒット。「ラプトル」はこの「CB90」の模倣品なのである。

 「CB90」は15.9mながら、お客を21人運ぶことができ、武装はリモコン12.7ミリの他、手動の12.7ミリ×2と、40ミリ自動擲弾発射砲。最高時速74km。巡航時速37kmでの航続距離は440km。またウォータージェットによる急旋回もできる。