独裁者は後継者を指名できないし育てられもしない。とりまきがそっちに集中して体制内決戦になってしまうから。

 ロイターの2022-11-7記事「Ukraine says Russia destroying civilian ships on river in southern standoff」。
   ウクライナ軍は日曜日に非難した。ヘルソンのドニエプル川の岸にもやっていた民間船多数が露軍により破壊されたと。

 また露軍はそれらの川船からエンジンを盗み去っているともいう。

 これが退却の兆しなのかどうかはわからない。

 ※長い塹壕を掘ってしっかり準備していたつもりになっていたが、いざ、敵が小火器間合いに迫ってきたら、もう飛んでくる弾丸が怖くて塹壕の縁から頭も上げられない……。生々しいビデオフッテージが投稿されていた。これは教材として、すこぶる貴重だ。せっかく三脚付きの重機(ベルト給弾式)を据えていたのに、それに取り付いて射撃することができない。なぜなら重機を射撃するためには上半身を地表へ乗り出す必要があるからだ。それが怖くてできない。それでどうするか。じぶんの小銃を天秤棒のように頭上に担ぎ上げて、無照準乱射。あとは擲弾銃。それくらいしか、できることがない。もちろん1発も当たるわけがない。敵の姿すら見えていないのだ。小銃には高価なレッドドットサイトがついているのだが、何にもならない。このビデオのおかげでひとつ、確信を深めることができた。MG用の三脚には、塹壕の深いところから手を延ばして、ただし三脚の下端よりは高く手を上げる要なく、旋回・俯仰・射撃ができる「遠隔操作棒」が必要だ。ユニバーサル・ジョイントの超精緻なもの。とても便利なものになるはずだ。潜水艦の潜望鏡操作のように、両手でハンドルを握って捻る。接合部がユニバーサルジョイントだから、垂直以外の角度であっても手元で自在に操作できる。たとえば塹壕ではない自然地物の右脇に重機を据え、射手は岩陰からそれを操作するということもできる。もちろん、照準は、有線CCDを使って壕の中や岩陰から行なう。この機構なら、装甲車の天井ハッチ上の仮マウントへもそのまま転用が利く。ありふれた分隊軽機を、簡略なRWSにしてしまえるわけ。絶対に売れます。

 次。
 Kamil Galeev 記者による2022-11-6記事。
    ロシアのウクライナ侵略は、ロシアの国内的な欲求からなされているので、外野からこれを交渉によって止めることは不可能である。

 初期の(すなわち2011年より前の)プーチン支配体制は運良くも、国際石油価格の上昇に同期した。ロシアからの石油輸出益が毎年増えたから、連動してロシア市民の生活も毎年景気がよかった。それがまるでプーチンの経済政策の手柄のように擦り込まれた。

 しかし2011年に国際油価は上昇を停止し、ロシア国内は灰色にくすんだ。

 風向きが変わったことを象徴するできごと。2011-10-23にエメリアネンコ対ジェフ・モンソンの試合〔「M-1グローバル」という素手のキックボクシング系の総合格闘技のようで、どうもトーナメント式だったらしい。ユーチューブで確かめるとモンソンは終始優勢で勝っている〕のマッチがあり、プーチンが臨場観戦。

 〔メインイベントの前に?〕エメリアネンコが〔噛ませ犬の?〕米国選手に勝った。そのときプーチンがマイクを手にスピーチ。すると会場の2万2000人がブーイングを浴びせたのである。※この映像は確認できない。

 これ以降、プーチンは催し物に顔を出さなくなった。あちこちに出没しているように見せてはいたがその大半はフェイクなのである。

 2011年以降、ロシア経済は二度と上向くことはなかった。今日まで、悪くなる一方である。

 そもそもプーチンはなぜ総合格闘技イベントなどに出かけようと考えたのか? そのようなイベントの観客層ならば、非フィジカル系のインテリゲンツィア層と異なり、じぶんを強く支持してくれると思い込んだのだ。しかしその思いは裏切られた。

 2011以後、プーチンの頭の中には地政学も外交戦略もない。それは彼が生き残る役に立たないからだ。彼が生き残るためには、ロシア国民が声に出さない大欲求に応えてやる必要があった。それが、対外戦争であった。

 ウクライナ侵略は、大半のロシア人民が心の底から望んでいるから、発生し、持続しているのである。
 プーチンは、国内世論の奴隷となって立ち回っているだけなのだ。2011年以降は。

 NATOは敵であり、NATOとの戦争は不可避である――と考えているのは、プーチンではなく、ロシア大衆なのである。だったら、プーチンとの交渉などでウクライナ侵略が終わるわけがない。

 ロシア人民は一億こぞって、NATOとの全面核戦争へのエスカレーションを、心の底から祈願している。
 プーチンは生き残るためには、このリクエストに応え続けるしかないのだ。

 ロシア人民の要求を拒否すれば、次はブーイングでは済まない。

 セルゲイ・キリエンコが名言を残している。「ロシア国家は《条約》の上になど基礎を置いてない」。

 露軍への補給・充員に必要な時間稼ぎのためなら、プーチンはどんな停戦条約にも署名しよう。しかしロシア国民の望みは対NATO戦争へのエスカレーションなので、その停戦とやらは西側の誰の利益にもなりはしない。この戦争は、平和的に終結することは絶対に見込めないのである。

 ロシア人民は「条約」が大嫌いである。ロシア政府がそれを破ると、そのたびに喝采する。

 アメリカ本土住民の目からは、ウクライナ戦争は他人事のように映るだろう。ところがロシア人民の意識の上では、「対米戦争」の第1ラウンドはとっくにスタートしているのである。そこに米国が停戦を要求するということは、とりもなおさず、ラウンドスコアでロシアが1点勝ったというメッセージにしか、ならないのだ。戦争は、終らない。

 「ウクライナ戦争はプーチンの戦争」だという誤解を捨てよ!
 ウクライナ戦争は「ロシア人民の願望」である。プーチンは「人民の意向」の操り人形となっているにすぎぬ。

 プーチンが病死して後継者が誰になっても、政策の基調は変えられない。誰が人民の意嚮に背いて政治権力を掌握し続けられるものか。そこを考えるとよい。