例外が、『孫子』の謂う「戦わずして人の兵を屈する」宣伝&心理戦政略と、そのカウンターである「伐謀」という上策。このふたつに失敗すれば、侵略に抗する側の独立防衛策としては、ぎゃくに長期戦化を狙うしかない。それは消耗戦以外の何物でもあり得ない。
だから、弾薬が大事。それはハイテク正面装備よりも大事。ISRの次に大事(敵を知り、己を知らなくては、策を立てられない)。
火薬や鉄道の発明は真の革命だった。だがそれも戦争を短期化することにはつながっていない。
ハイテク兵器は戦争を短期化しない。『孫子』は兵器を論じていない。戦争が長期化するか短期化するかは、兵器技術の高低とは何の関係もないのである。ここを錯覚させたのが「RMA」というたわごとだ。
1979の中共による対ベトナム戦争、1991デザートストーム、2001タリバン放逐作戦は、孫子の「拙速」を守ったから《一撃離脱》で短期化できた。ハイテク兵器のおかげで短期化できたわけではなくて、政府が出口戦略を開戦前に決めていたから短期化できたのである。そこを誤解させたという点で「RMA」という浅薄なキャッチコピーの罪は深い。今は死語だと信じたいが……。
次。
Hritika Mitra 記者による2023-1-66記事「Russia shells Ukrainian city hours after announcing temporary ceasefire: Report」。
AFPの速報によると金曜日、さっそくロシア軍はウクライナの都市を砲撃した。プー之介が「金曜日の午前9時から、土曜日の午後9時まで、停戦する」と嘘をついてから数時間後のこと。いまさら誰も驚かぬ話。
次。
Sergio Miller 記者による2023-1-6記事「Russia’s withdrawal from Kherson」。
ドニプロ河の左岸、ヘルソン州から、露軍は撤退した。この撤退作戦のスケジュール表をウクライナ軍は入手した。それを解析することで、いくつか貴重な所見が得られた。
露軍全体の中で、「空挺部隊」(VDV)が、ものすごく最上部から信頼されていたのだ。親衛ナンバーのついた機甲部隊などよりも、断然に。
これをわかりやすくたとえれば、VDVは、湾岸戦争のときの「サダム親衛隊」の地位だ。いまの露軍においては「VDV」(約1万人)が大黒柱なのである。
ということは、もしこのVDVをあのサダム親衛隊のように撃砕殲滅してやることができさえしたら、91年のイラク軍がたちまち雲散霧消してしまったように、露軍も即座に全軍が崩壊した蓋然性が高い。
そのチャンスはあった。しかし、宇軍は敢為を欠き、みすみすその長蛇を逸してしまった。
ヘルソンから露軍が出て行ったのは、宇軍が「反転攻勢」したからではない。
河の部分凍結が迫り、補給が切れて孤立する危険があったので、自主撤退したのである。
まず宇軍は、HIMARSによって、ドニプロ河にかかっていた「アントノフスキー鉄道橋」および「アントノフスキー道路橋」(この2つは橋脚を共有していない)と、その70km上流部の「ノヴァカホウカ水力発電ダム」の上端を利用した道路&鉄道併設橋を、精密に打撃し損傷させ続けた。これはもちろん意義があった。
「アントノフスキー道路橋」は7-20に最初のハイマーズ攻撃を承け、それから14週間にわたり、修理のたびにハイマーズ攻撃された。
3つの橋は、おおよそ、8月第一週の週末以降は、露軍が軍用交通路として頼れなくなってしまった。
だが、「アントノフスキー鉄道橋」には石油燃料のパイプラインが併設されていて、そのパイプラインは破壊されずに機能し続けている。
HIMARS攻撃にもめげず、露軍は、重門橋(ポンツーンフェリー)を5箇所に架設して、右岸への支援を続けた。
※記事には浮橋ではなく重門橋と書いている。記憶がさだかでないが、戦車用の浮橋も1本ぐらい無かったか?
11月に撤退するまで右岸で露兵4万2000人が戦い続けている。
最終局面では、民間用の車両渡船や自航バージも徴発されて使われている。
フェリーやバージは動くものだから、HIMARSでは当てられない。よって固定橋よりもしぶとく生き残り、活動を続けられる。
※この戦訓からすぐに出てくる結論。重門橋を1発で転覆させられるくらいの、FPV操縦式自爆ドローンが必要である。破壊力は、最低50kg投下爆弾級。
撤退するまでのあいだ、右岸の露軍には「燃料不足」の兆候は皆無であった。果敢な逆襲行動も見られた。
撤退を強いたのは、冬の結氷が迫っていたからだった。平年だと、連続して20日、真冬日が続けば、ドニプロ河は結氷する。
氷は、岸から中央に向けて張り出して行く。こうなると、フェリーや門橋は接岸が不可能になるから、フェリー自体が無傷で存在していても、意味はなくなる。だから露軍はそうなる前に撤収した。
言うなれば、露軍を右岸から追い払ってくれたのは「冬将軍」であった。HIMARSではなくて……。
露軍上層では、虎の子のVDVを、ルハンスクの守備へ転用したいという判断もあっただろう。
これに対して宇軍は果敢に圧迫攻勢をかけ得なかった。リスクを嫌い、遠くから見ていただけだ。
ここは、リスクを取るべき局面だった。プロ軍隊ならば……。
もし4万人がそこで捕虜になればプー之介の屋台骨も揺らいだはずだ。一気に戦争を終わらせられたかもしれないのである。
このとき、宇軍には、VDVを中核とする4万人を殲滅する好機があったのに、宇軍はそれを逃した。
※衛星写真を見ていたすべての先進国軍隊の情報部は、「歯がゆい」と感じたのだろうね。「俺たちなら、ここで全力チャージだ」「突撃喇叭を吹けよ」と。敵の半渡に乗じ得る千載一遇の場面なんだから。それが伝わってくる記事だ。
次。
2023-1-5記事「Ukraine: Getting F-16s is more realistic than creating our own version of Iron Dome
Share」。
ウクライナ空軍のスポークスマンいわく。ウクライナにイスラエル式のアイアンドームを構築するのは資源面で不可能。そんな夢物語よりも、F-16戦闘機を供給してくれさえすれば、現実的なミサイル防衛が可能になるのだ――と。
なぜアイアンドームが非現実的かというと、国土面積がイスラエルとは大違いで、防衛すべき重要資産がその広い国内のあらゆる都市に散在しまくっているから。
カネの上でも問題外。その上、そのシステムに貼り付けねばならないおびただしい人数の専門技能兵と将校たちをどこから集めてくるというのか。ロシアの大軍と熾烈な陸戦の攻防が続いているこんなときに。考えるだけムダな案である。
次。
Defense Express の2023-1-6記事「For a While U.S. Has Been Delivering Weapons to Ukraine By Sea and Railway, and the Scale is Impressive」。
米軍の輸送機関が対宇支援物資をどのくらい運んだかの一端が明かされている。
船で積み出した車両などは、ギリシャのアレクサンドロウポリ港か、ルーマニアのコンスタンツァ港に揚陸して、そこから陸送に接続させているようだ。
空輸は、開戦前はキーウに近いボリスピル空港を使い、開戦後は、ポーランドのRzwszow空港を使っている。平均して毎日3機、武器弾薬満載の輸送機が着陸している。
「ラストマイル」の運搬にはトラックが用いられている。
IDCC=国際寄贈者調整センター という臨時機関が立ち上がっており、そこが受け付けた武器弾薬がそこからどこへ行くかは一切秘密にされている。
※仕事早すぎ! もうブラドリーの援助第一陣が、民間のトレーラーに乗せられてウクライナ国内を走っているのが撮影された。
次。
Defense Express の2023-1-6記事「40 Marder Vehicles by March: Germany Reveals to the Pace of Long-Awaited Deliveries, How Many More to Expect Afterward」。
APの報道ではドイツはマルダーをとりあえず40両、ウクライナに送るという。
次。
Defense Express の2023-1-6記事「Ukraine’s Buk SAM Will Receive RIM-7 Sea Sparrow Missiles, Which Solves the Missile Shortage Problem」。
『ポリティコ』の特だね。米軍はすでに技術問題を解決した。旧ソ連のSAMシステムから、「シー・スパロー」を発射させることができる。ウクライナ軍保有の「Buk」の場合、そのシースパローのバージョンはまったく問わないという。
シースパローは米本土に大量の在庫がある。だからこれは朗報である。
次。
ストラテジーペイジの2023-1-6記事。
ロシアは無計画にも、フィンランド国境付近での大軍拡方針を表明していて、それには同地に30個師団を新規に駐屯させる必要がある。建物も、これから造るという話だが、仮に建物ができても、人が集まるわけがない。ウクライナで喪失した2個旅団の穴埋めすら、ままならないのだから。
ただしプー之介がやっていることには国内政治的な合理性もあって、レニングラード方面ではプー之介の「失政」は有権者からほとんど非難されないのである。政治地盤なのだ。レニングラード管区で徴兵された兵隊がウクライナで大量に戦死しても、他の地方ほどにはプーチン批判の声は上がらない。
次。
Ashish Dangwal 記者による2023-1-6記事「US Nuclear Submarines For Australia Hits Rough Waters; Canberra Confident of AUKUS Deal Despite Leaked Letters」。
豪州に原潜を売るという話に、上院議員のジャック・リード(民主)とジェイムズ・インホフェ(共和)の2名が、懸念を表明する連名書簡をバイデンに送っていたことが判明した。
リードは上院の軍事委員長である。もうひとりのインホフェは引退が決まっている長老で、この委員会内の共和党メンバーの筆頭。
要するに米国内の原潜造船所はパンク状態だから。
余計な注文を入れることで、米海軍用の最新の原潜の調達スケジュールに悪影響が出てしまう。
次。
2023-1-6記事「Army holds combat readiness drill in Chiayi featuring tactical drone」。
台湾の国営兵器開発部門である「中山科学技術研究所」が開発した、シングルローターのヘリコプター型の近距離用物資輸送無人機が、初めて防衛演習で飛ばされた。
演習は、嘉義空港を占領しようとする敵を、機械化歩兵旅団で拒止するという内容。
この無人ヘリは「カプリコーン」と称し、自重25kg、戦闘行動半径30km、高度は1500mまで行ける。滞空60分。
ボーフォート・スケール「6」の強風下でも飛行可能。もちろん夜間にもサーマルイメージで視野が確保される。
ナビ用のセンサーは三重にしてあるので、ひとつが電子妨害を受けても切り抜けられる。
台湾陸軍は米ドルにして2537万ドルの予算で100機を発注。そのうち28機は2022年中に納入された。2024年までに残りが届く。
※米海軍は正月早々、台湾海峡でFONOPを実施していて、士気旺盛だ。
次。
Joseph Trevithick 記者による2023-1-5記事「Mexican Light Attack Plane Strafes Cartel Forces After Arrest Of El Chapo’s Son (Updated)」。
メキシコの麻薬組織シナロア・カルテルの幹部を逮捕しようとするのにメキシコ軍はライトアタック機による機銃掃射が必要であり、それに対してカルテル側が、「.50」口径のセミオート狙撃銃「バレット」で対空射撃しているビデオがSNSにUpされている。こんなムチャクチャな国が合衆国と陸上国境を長々と接しているのである。
ライトアタックの機種が、まだ判明していない。ビーチクラフトの「T-6C+ テキサンII」か、ピラトゥスの「PC-7」だろう。そこに固定武装としての機関銃が搭載されているのである。
メキシコ海軍はテキサンにFN Herstal社の「HMP250」というガンポッドを1個吊るしている。これは12.7㎜のM3P機関銃である。
またメキシコ空軍は、テキサンとPC-9とPC-7を運用する。このうちPC-7には、やはりFNのガンポッドを搭載できる。
どちらの機種もふだんは練習機として使われていて、こういう捕り物があるときなどに、武装して対地直協に任ずることが可能。ただし従来だと、銃撃はヘリコプターからすることが多かった。
(管理人Uより)
2022年度のユグドアへのご喜捨、送金額(若干の出金手数料が差し引かれるのです。ただしユグドアへのマージンというのは無いようです。不思議なサービスです)、メッセージ、Kindleの売上、送金額の報告書を兵頭先生へ送信完了。皆様、いつもありがとうございます。
※簡略化した報告メールは随時、報告書は毎月送信してもいます。兵頭先生もユグドアのアカウントは閲覧可能です。私だけが閲覧・操作できる状態はマズいので。