イスラム勢力の出発点はメッカです。そこには駱駝はあったのですが、車両(荷車や戦車)は一切、無かった。
それなのに、イスラム軍は、先進文明大国であるペルシャ(イラン)を征服してしまった。同様にまた、アナトリア(トルコ)まで征服してしまいました。馬や馬車がゴマンとあった大国の軍隊を、ラクダだけで撃ち破っているのです。
まさに謎です。敵国の内訌を利用したという説が有力ですが……。
中世のイスラム教軍の強さを唯物的に究明したければ、アラビアの沙漠にまさしく特化順応していたヒトコブラクダの歴史を知らなくてはなりません。
知れば知るほど、凄い動物です。反面、ヒトコブラクダが放牧状態で繁殖するには、常時「乾燥」した土地と、短期間の「雨期」とが必要で、そんな条件がないところでは、住民による利用も定着しませんでした。
また人為繁殖のノウハウを握っていたのはベドウィン系の一部部族だけで、アラブの都市商人たちも、ラクダを繁殖させたりトレーニングする方法を知っていませんでした。彼らにとってラクダは、育てて増やすものではなく、買うものだったのです。
20世紀のアラビア人たちは、ラクダはじぶんたちの後進性の象徴だと思っていました。それで、恥じるところがあり、誰ひとり、ラクダの歴史なんて研究をしていないのだそうです。そこで米国の東部名門大学の先生が乗り出した。
膨大な手間隙をかけて、利用可能な資料をほぼ博捜して遂にまめられたのが、この本です。
1975年に米国で出版された Richard W. Bulliet 氏の決定版的研究『ラクダと車両』(本邦未訳)。
この書籍をPDFで貸し出している外国の図書館があること等について私に教えてくださった方、この場を借りまして御礼を申し上げます。どうもありがとうございました!
軍隊と交通/運送手段の関係について、興味・関心がある方ならば、この1冊は必読だと思いました。
その内容を、私訳によって摘録しました。
★《続・読書余論》Richard W. Bulliet著『The Camel and the Wheel』1975年刊