前線の露兵のあいだに「野兎病」が流行しはじめたようだ。塹壕内の鼠のダニが媒介する熱病。

 『モスクワタイムズ』の2023-3-11記事「Russian Officials Face Almost Total Ban on Foreign Travel」。

    ロシアの国家公務員、ならびに国営企業の職員は、パスポートを公安当局に預けよ、と命ぜられている。これは国外逃亡を阻止するための措置らしい。

 FSBが預かる場合もあれば、単に、休暇中には国外旅行をするなよと口頭で警告されるだけのこともある。その旅行禁止期間については何も教えられない。

 国家公務員が提出を拒否すると、そのパスポートを無効化されてしまうという。
 国営企業は、会社の金庫にパスポートを預かる、とし、断れば、馘だ。

 今回の措置はじつは違法である。現行法では、国家機密を扱う公務員、FSB、そして軍人だけが、自由な外国旅行を禁じられているのだ。

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 Sergio Miller 記者による2023-3-10記事「T-90Ms are appearing on the Eastern front ―― what is the threat?」
    T-90Mは、今次戦争前の単価が1億1800万ルーブル=160万ドル だった。
 ニジニタギルにあるウラル車両工場で製造が始まったのが2020年。

 T-90Mは、T-90Aと何が違うか。サーマル・イメージング・サイトのパーツがすべて国内製だ。

 ウラル車両工場は2020年時点で従業員を2万9748人も抱えていた。その月給は25000から30000ルーブル=350~420ドル。これはロシアの平均給与水準より22%低い。

 その時点でも同社は870億ルーブル=12億ドル の負債に苦しんでいた。

 今次戦争でさらなる制裁を喰らうと、会社幹部は、いまや戦車の国産部品率は90%以上で、不足のチップは中国から手に入るし、だいじょうぶだ、などとマスコミに強気発言をしていたが、実態は逆だった。

 ボギー式懸架装置に必要なローラー・ベアリングを、ロシアは輸入品に依存していたのだ。必要な特殊鋼も入手ができなくなり、新戦車を完成させられなくなった。ラインが止まっている以上、従業員を遊ばせておく余裕はないから、レイオフがなされた。職員給与も「三分の二」に減らされた。そうした苦境を、中央メディアに対しては隠していたが、ローカルメディアは報道した。

 2022-2-24以降、ロステク(ウラル車両工場の持ち株親企業)は4度、T-90Mの出荷について発表した。

 2023-1にロシアの『軍事評論』誌は、堂々と嘘の数字を並べた。ヘルソンのザポリジアに200両の新造のT-90Mを送り出した、というのだ。しかるにドンバスに大量のT-90Mが出現したという報告はその後も無い。ロシアの軍事雑誌は、実数を十倍したと思われる。2022-12から2023-1まで、ウラル車両工場は、20両前後を納品したのだろう。その半分は既存のT-90Aの改修品かもしれない。

 オープンソースでは、2022-12後半に、23両のT-90Mが無蓋貨車に積まれているフッテージがSNSに出た。撮影場所は、ドン河畔ロストフ地方のカメンスカヤ駅。

 おなじ頃、6両のT-90Mがルハンスクの道路上で撮影されている。また重輸送トレーラー上の4両も撮影されている。

 T-90Mの主砲はT-72B3と同じ、「2A46M-5」という。砲身の微妙な歪みを光学的にモニターできるMRSというシステムがついているのが特徴。

 しかしこの主砲の能力を最大にひきだしてくれる最新弾薬「スヴィネッツ」が、十分には供給されていないようである。

 オリックスのまとめによれば、T-90Mはこれまで4両が撃破され、それとは別に6両が、戦場に遺棄されている。

 ウクライナ軍は、2両のT-90Mと、12両のT-90AまたはT-90S(輸出型)を鹵獲した、と主張している。

 大破した4両のうち2両は、砲塔がまるごと吹っ飛んだ。
 また、AT-4、エクスカリバーの破片、ウクライナ製の対戦車ミサイルであるSkifによって損傷して遺棄されたT-90Mが、1両ずつある。

 1両のT-90Mは、ドローンが投下した「RKG-3」という年代物の対戦車手榴弾がターレットの天板に当って、それで内部弾薬に火が着いて全損となっている。

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 Phoebe Grinter 記者による2023-3-10記事「New Tethered Drone Designed for Tactical Communications」。
   エリステアー社の、有線テザード・マルチコプター「オライオン」の新型「HV」(ヘヴィー・リフト)。

 高度90mに4kgのペイロードを吊るして上昇し、そこに50時間とどまることが可能。
 高度50mでよければ、5kgのペイロードを吊るして、やはり連続50時間、空中にホバリングできる。

 このシステムは、それ全体を機動的な「戦術無線アンテナ」とすることができる。
 ノルウェー陸軍が、期待をかけている。

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 Stephen Losey 記者による2023-3-10記事「US Air Force wants to retire all A-10s by 2029」。
    FY2023予算法でやっと議会がA-10の退役開始を承認したので、ことし、空軍は21機のA-10を除籍する。それでも260機がまだ現役に残るが。

 減った21機は、同数のF-16によって埋められる。
 A-10は単機能低速機。F-16は万能機。そのコスパは、比較にならない。

 毎年少しずつA-10を減らして行って、6年後くらいにはゼロにしたい。これが空軍の望みだ。

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 2023-3-11記事「China sends parts for helicopters to Russia despite the sanctions」。

 CNNが2022-11の通関記録からあばいた事実。中共はロシアに「ミル8/17/171」の部品を堂々と輸出している。
 北京の「ポリィ・テクノロジーズ」社が12回以上、発送している。品物には、機上無線機も含まれている。

 多くは「ミル171E」の部品である。

 ※こういうグレーゾーンで様子見しながら、もし米国人が反応しなければ、なしくずしに武器弾薬を売ろうという魂胆だ。西側はノートレランスで対支制裁するしかないだろう。

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 2023-3-10記事「Ukraine may acquire Japanese weapons as Japan considers export options」。
    『ニッケイ』によると日本政府と自民党はウクライナ軍への武器供与を検討中。

 自民党代議士・佐藤まさひさは、陸自がFY2029までの廃用を決めているMLRSをウクライナへ送れと主張している。
 将来の有事で他国に武器弾薬の供給を頼まなくてはならない立場の日本が、どうして現在の被侵略国に武器弾薬を援助しないでいて済まされようか。

 また陸自は、国産の「19式SP」によって、牽引式のFH70を更新しつつある。その、引退させたFH70は、宇軍へくれてやれるだろう?
 日本は今日世界最大のFH70運用国。なんと480門もあるのだ。これだけの十五榴をウクライナが持てば、東部戦線の戦勢は一気に宇側に傾くだろう。

 ※自民党の心ある国防族議員たちが頑張っている。それに対して外務省系政府幹部のスピード感は、無さ過ぎる。またしてもカネだけの醵出になってしまう。カネに麻痺しつつある長期戦の当事者は、カネをもらったことなんか、じきに忘れるよ。日本から窮地のたびに大金を受取ってきた韓国を見りゃ分かるだろう。恩義を銘肝するのは、現物、それも、有力な兵器・弾薬・需品をタイムリーに貰った場合だけである。「恩を売る」という行為は、国際間現実政治では、けっして不徳でも売名でもない。そもそもわが国は余裕で自主防衛している身分ではないからだ。もし三国同時事態となれば、極度の悪戦が必至なのである。いざというときには逆に世界から助けの手をさしのべてもらうため、サバイバルの布石としての全力外交が、わが国は平時から必要。それには、すぐに恩を忘れられるようなマネーを送ったら、絶対にダメだ。そのカネはぜんぶ無駄にされて(あるいは中抜きされて)おしまいである。日本の安全のために、まったく何の役にも立たない。相手の上下国民が忘れることができない武器・弾薬・需品を送らなくてはいけない。そうした軍事的に気の効いた援助慣行は、わが国内の武器弾薬需品の生産体制や調達体制や輸送体制や貯蔵体制とも連動するから、直接的にも、日本の国防力の足腰を磐石化してくれるのである。

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 ストラテジーペイジの2023-3-11記事。
   この2月から、露軍機は「UPAB-1500V」という、1.5トン爆弾を投下するようになった。これはGLONASSの電波を受信して、指定座標に自律落下するスマート爆弾であるが、有翼のグライダーでもある。

 ※露軍ミサイルのGLONASS電波の受信ボードに米国製のチップが使われまくっているという実態についての詳細なレポートに関心ある人は、Alex Hollings 記者による2023-3-10記事「Evidence suggests Russia’s ‘hypersonic’ Kinzhal missile is powered by American tech」を見るとよい。私はさいきんドライアイになりかかっているので、こういう細けえ話は訳したくない。

 投下機は、高度1万4000mからリリースする。すると、翼が展張し、水平距離50kmも滑空してくれる。

 充填炸薬は1トンである。弾殻はAP仕様で、コンクリートの天井をある程度貫徹できる。

 米軍はJDAMをかれこれ30万発以上、生産している。それに対して金欠のロシアはスマート爆弾をわずかしか製造していない。UPAB-1500Vも、おそらくは稀少品だが、それを持ち出してきたのだ。

 この爆弾を投弾しようとした「スホイ34」が、投弾前に宇軍のSAMで撃墜されてしまった。おかけで、ほぼ無傷の爆弾サンプルが手に入り、検分されたのである。

 ※高々度からリリースするしかないのでは、S-300の好餌だろうね。宇軍側にはNATOのAWACS情報も入るのだから、確実に、待ち構えられてしまう。

 ※雑報によるとキンジャルが1発、マリウポリ空港に着弾したという。でも、そこはロシア軍が占領しているところじゃねえの? それはともかく、敵の長射程SAMから母機が安全で、しかもミサイルの途中迎撃もされないですむ、稀有な空対地攻撃手段として、キンジャルの評価が俄かに露軍内で高まったように思う。なにしろ古いフォックスハウンドのような飛行機(しかも機首レーダー無し)を、この投弾専用機として、大いに活用できるのだから、露軍にとっては、願ったり叶ったり。「なんで今までここに気付かなんだ?」と、じぶんの頭を叩いているところであろう。