雑報によると、露軍はドニプロ川南岸のタヴリスクの取水設備をみずから破壊し、これによってクリミア半島へ飲用水を送る水道本管の機能が止まった可能性がある。

 昭和17年のシンガポール攻略では「上水水源」施設の破壊/占領が、敵降伏の契機になった。その送水本管の破壊は、じつはジョホール水道の北側でもできたので、後知恵では、もっと早くこいつを挺進隊で爆破してしまえば、英軍の降伏もさらに早まったろう――と考えられたのである。将兵、軍馬、車両、航空機、艦船、すべて「真水」を必要とする。加えて狭いシンガポールには「避難住民」がおびただしく流入していたから、上水の供給が止まったなら、もはや守備軍司令官も総督も、1日で抵抗を諦めるしかなかったのだ。

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 2023-6-5記事「Radio Waves Air Fake Putin ‘State of Emergency’ Address」。
    月曜日、ロシア本国の複数の地域――ベルゴロド、ヴォロネジ、ロストフ――でラジオ電波がジャックされ、プーチンの偽演説がON-Airされた。
 AI合成音声が、これらの地域の住民たち全員に、ただちにロシアの奥地への退避を命じた。
 さらにフェイク音声は、クルスク、ベルゴロド、ブリヤンスクがウクライナ軍の攻撃を受けているとして、「国家非常事態」を宣言した。
 演説のしめくくりは、国家総動員の呼号であった。

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 並木書房さんから、James Johnson 氏著、2021年pub.『Artificial Intelligence and The Future of Warfare』の全訳が出た。邦題『ヒトは軍用AIを使いこなせるか』(2020円+税)。
 2022-4-24以降、ロシア人は嘘しかつかないということを世界の人々は認識しつつあるが、そういう認識がまだ一般的でなかった2021時点での、学究的にまじめな整理本だ。たとえば本書が書かれた時点で、ロシアは2025年までに戦力の3割をロボット化するだろうなどとフカしていた。そしてカラシニコフ社はすごいロボット兵器をいくつも開発しつつあると宣伝していた。全部嘘であった。実戦のおかげで嘘がバレて真実が見えている。まったく同じことは近未来の中共に対してもあてはまるだろう。今、中共との実戦をしていないのに、中共発の嘘ばかり聞かされながら論ずるAIとやらに、深刻に対応しようとするとガッカリするだろう。
 ちなみに著者は脚注の中で「プロスペクト理論」にかんする2017文献を読んでいることを明かしているが、本文中ではプロスペクト理論は紹介されていない。
 有意義な指摘がいくつかあった。A.T.マハンは1912の「Armaments and Arbitration」の中で「武力は存在していても、誇示しなければ効力をもたない」と言っているそうである。これはまさにもっかの米支関係にあてはまる。年に一回か二回、実弾を使った小競り合いをするようにして、米軍の実力を平時から天下によく見せ付けておかないと、敵は自己宣伝に中毒して増長し、今次ウクライナ侵略のような愚劣な自殺戦略が発動されぬとも限らない。嘘しかつかないロシア人や儒教圏人に対しては、常にその軍事的な「面子」をリアルに潰し続けることが、世界の安定と安全につながるのである。
 AIを搭載したドローンが滑走路上の軍用機のエアインテイクに異物を撒くようになったらF-35も安心できないだろうという指摘をした者が2017年にいたことも本書の脚注で分かった。しかるに2023の今になってもその単純なAIができたという報道はない。
 余談だが、オートバイの後輪のトラクション・スリップを検知してスロットルを調節するAIは一部のバイクに実装されている。だがAIを使って「転ばぬ先に姿勢を立て直すバイク」を作った企業はどこにもない。誰もが発想するはずなのに。どうして?
 今次戦争でも、大砲の照準とじっさいの弾着点の座標誤差を、ドローンからフィードバックされた画像をデータ化してAIに取り込んでやれば、1門1門の大砲ごとに、砲身の「癖」が把握されて、磨耗した砲身や性能の一定しない弾薬を使っても、確率論的に命中精度を倍増できるだろうと思うのだが、どこの軍隊もそれを工夫している様子がない。「使いこなす」前の発想が貧弱すぎやしないか。何をやってるんだという感じだ。

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 Jon Jackson 記者による2023-6-5記事「Russia’s Reliance on Trenches Leaves Troops Vulnerable」。
    衛星写真でわかるのだが、ドンバスの露軍は徹底的に塹壕線を拡張することで宇軍のこれからの反攻に耐え忍ぶように訓示されていると思しい。

 ショイグは徴兵8万7000人〔例によってこの数字は「化粧数」である〕をウクライナ国内に展開させていると発表している。

 しかし米軍専門家は、素人兵×塹壕線の組み合わせでは、とうていロシア軍は持ち堪ることはできないだろうと語っている。

 ※皮肉にも、都市を破壊してサラ地に変えてしまったおかげで、こんどは露軍が守りに入るときには、荒涼とした原野に塹壕線を掘らなくてはいけなくなったわけである。

 ※SNS情報によると、ベルゴロド方面で露領へ侵入している反モスクワ部隊――私はその正体は東欧正規軍の特殊部隊だと疑っているが――の侵入路は、前もって周到に準備された「地下トンネル」である。おそらく歩兵1名が通れるだけの狭いトンネル。その出口は、ちょうど映画の『大脱走』のような目立たなさになっている。国境の下で、ものすごい長さのトンネルを掘り進めていたのだ。

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 Tyler Totten 記者による2023-6-5記事「U.S. Navy Should Pursue Commercial Containerships」。
   民間で使われているコンテナ船、ならびに、Ro-Ro船だが同時にコンテナも積載する「ConRo」船を、そのまま米海軍でも使おうという計画あり。

 海軍専用の輸送艦や補給艦に比べて格安だから、隻数をたくさん調達できる。したがって、戦時の輸送需要の爆伸に対応しやすい。

 コンテナ船はふつう、自前のクレーンを持っていない。しかし、そういうクレーンを備えた特別なコンテナ船ができてもいいだろう。

 自前で荷捌きができる「ConRo」船仕様なら、何の埠頭設備もない素の海岸に、単船で横付けしてコンテナやトラックを吐き出せる。

 米海軍が2013年に発注した2隻の『アロハ』級コンテナ輸送艦。1隻の建造費は今の価値にして2億5000万ドルほどであった。

 ※先の大戦で日本の輸送船が舐めさせられた苦汁。これを繰り返さないための新機軸を戦後日本の造船業界が打ち出せていないのは、情け無い限りだ。軍用のコンテナは、水密でなくてはならない。そいつを舷側から海中に放り込んでも、決してぶくぶくとは沈まない。ほんのわずか、水面に浮いているようにする。その状態で離島のビーチからワイヤーウインチでたぐりよせられるようにする。さらには、この半没コンテナを直列に数珠繋ぎにして、それを航洋タグで引っ張る。低速でよければ、少ない抵抗しか発生しないはずだ。

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 Joseph Trevithick 記者による2023-6-5記事「Marines Betting Big On “Critical” Air-Launched Swarming Drones」。
    米海兵隊は、空中から放出できるロイタリングミュニションのスウォームを考えている。
 プラットフォームは、KC-130Jのみならず、MV-22Bオスプレイ、F-35B戦闘機も。

 戦場がイラクやアフガニスタンだったら、海兵隊のAH-1から、射程8kmのヘルファイア・ミサイルを発射すれば事は足りた。
 しかし戦場が南シナ海となったら、もうそんな距離感では話にならないのだ。ミサイルは最低でもLRAM=ロングレンジアタックミュニション でなくてはいけない。※具体的には例えばイスラエルのUVision社が多種提案している十字翼の「HERO」シリーズ。露軍の「ランセット」はこの技術をイスラエル人が売ったものと疑える。

 島嶼の陸上から対艦ミサイルを発射しようという米海兵隊の「NMESIS」構想もすごい。上陸用舟艇から無人のJLTVを砂浜に上陸させる。そのJLTVは2発の地対艦ミサイルを背負っている。JLTVには「運転室」が初めから無い。

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 Mike Ball 記者による2023-6-6記事「New Variable-Pitch Propeller System for Multirotor Drones」。
   「T-モーター」社は、マルチローター機のための、あたらしいヴァリアブル・ピッチ・プロペラーを開発したという。

 4軸以上あるマルチコプターのローターは、基本的に、固定ピッチ・プロペラーである。
 しかし離陸重量を欲張り、ホバリング時のエネルギー節約をしたければ、マルチコプターも可変ピッチプロペラにするしかないのだ。

 ドローンが低空を飛ぶのと、空気が薄い高空を飛ぶのとでは、プロペラピッチは変えるべきである。それを固定ピッチで押し通そうとすれば、効率は犠牲になるのだ。



ヒトは軍用AIを使いこなせるか