新刊を勝手にご紹介します

 先日の上京で大盛堂で買ってきた本の中の一冊をようやく読み終わりました。松村昌廣氏著『軍事情報戦略と日米同盟』(04-12)。著者は1963生まれ。
 以下、内容摘録、および所感のメモです。※印がついているところは、まるっきり兵頭の思い込みです。他も、文責は兵頭です。
 米国の軍事情報通信システムは、core,tasking(収集情報の優先順位を決める),collection,processing,dessemination(利用者への供給)からなる。
 MASINT(Measuremant and Signature Intelligence)というのがある。※「どの通信機を使っているか」の追跡のことだろうか?
 インターネットを暗号付きで利用する方式が三軍にある。
 p.18 ペンタゴンと市ヶ谷のホームページの公開情報には雲泥の差がある。米国が公開している内容をなぜ隠すのか? ※ここに日本の「エリート」がアメリカに勝てていない原因および結果が存する。兵頭も初期の旧著でこの意味を考察せざるを得なかった。
 SSM発射炎を探知するDSPはいま静止軌道上に5基あるが、これを新型静止衛星×4と長楕円衛星×2に2006以降更新する。さらに低軌道周回のRV捜索追跡衛星を24基、回すつもり。※2007からのMDに間に合うか。
 AWACSとJSTARSの機能は将来、レーダー衛星によって代替できる。※鉄条網が風に揺れてドップラーになり強調されていた第一次湾岸戦争時のJSTARSの合成開口レーダー画像は高度200km以下をパスする衛星からなら得られるかもしれないが、衛星には赤道以外の特定上空にロイタリングできないという決定的な不利がある。これをどうするか。
 クリントンは2000-9にNMDの採用を見送ることにした。※財政健全化よりも大事だとは思えなかった。9.11以前で、抑止は十分と考えた。
 9.11後にロシアはABM条約の廃止を呑み、米国との対等の地位を公けに放棄した。
 情報RMAは「支配的機動」「精密交戦」「全次元防護」「効率的兵站」を眼目とする。ステルス技術は「精密交戦」に包含されている。
 WWI後、英の国際問題研究所と米の外交問題評議会が交流し、政策型知識人が同盟の下地を作っているような関係は、日米間には無い。
 NSAにおける、フランス、イタリア、タイの位置づけ(ドイツ、日本、韓国、トルコ、ノルウェーと同等なのかそれ以下なのか)は、不明である。
 インテルサットが701型から703型になり、南半球への電波ビームが細くなったので米英の傍受基地ではサイドロブをコレクションできなくなった。そこで80年代半ばから海外傍受基地が増やされた。
 NSAが日本に設けた衛星傍受拠点は三沢にあり、処理拠点は千歳、九州、東京にある。
 イリジウムは低軌道のため既存傍受施設ではコレクションしにくかった。※それで経営破綻させられた?
 93年と95年にNSAは日本の自動車に関して露骨な諜報を展開。※これがバレているのは、クリントン政権のやり方に反対の人がいたからだろう。
 米の衛星情報は、日本の外務省の北米局か、防衛庁防衛局の対米・安保政策責任者に渡される?
 イスラエル国内に、米軍基地および米軍のプレゼンスが無い。両国の軍隊は、共同作戦をしたことがない。
 「リンク16」のようなシステム統合技術を米国から暗号のブラックボックス付きで貰ってはいけない。まず自前のユニークなシステムで三自衛隊を統合してから、そののちに米軍と繋げるべきである。
 RMAはまだ起きていない。既成の如く報ずるのは情報操作である。
 「リンク11」は短波を使えるので電離層で反射させれば500kmの通信ができるが、単一回線を順番待ちで使っていくロールコール方式であるため、データ量が画像に対応できず、文字中心となる。「リンク16」はUHFなので水平線までの32kmの見通し交信しかできないが時分割多重接続方式なのでデータ量が画像に対応できる。しかも傍受や妨害にとても強い。
 KH-11の後継機「FIA」が2005に上がる?
 p.116 RMAの目指すところ、米国は陸戦(接近戦)を同盟国陸軍に分担させようとするだろう。米軍の近接戦闘能力は弱まるだろう。
 ※アフガン戡定作戦がイラク戦争でも再現されていたなら、そのようになっただろう。かつてパクス・ロマーナが崩れたのは、ローマ市民が、小刻みな戦争の反復と、短兵を揮っての白兵戦を厭うようになってからである。ガリアと近東の戦場を最後に制圧したのは、飛び道具ではなく、短い刀剣を手にして陣形を固く保持し抜いたローマ市民の重装歩兵の勇気および規律であった。大きな戦争を一回して勝ち、あとは平和の配当を楽しもうと市民が思うようになったら、辺境での小さな反乱は放置され、ついには破滅的な大戦争を招く。この教訓を英米指導者は知っている。イタリア人はチビなので、だんだんにこの気概を失ったが、幸か不幸か英米人はガタイが大きく、hand-to-hand の接近戦に生まれながらに自信を持っている。さらに第一次湾岸戦争以降、暗視技術の多用で、映画の「プレデター」の味もしめてきた。これに文明的優越と武芸鍛錬文化と軍隊の実戦的訓練とエリートの気迫が伴っている。
 p.119 RMAはビジネスにおける革命の軍事応用にすぎない。問題はむしろ既存の軍隊(三自衛隊)が組織としてそれを受け入れないことにある。
 ※「諸列強」と書いてあるが、列強は the great Powers の和訳でたぶん最初から複数概念だろう。
 米軍も通信の95%は民間衛星利用で、専用軍事衛星利用の通信は5%のみ。
 p.121 日本が打ち上げた偵察衛星のうちレーダー衛星は「夜間・悪天候の下でも移動物体が捕捉可能」。※これは米軍の計画中の衛星と混同した誤記か。
 p.125 「わが国憲法が集団的自衛権の行使を禁ずるとするかぎり、共同攻撃作戦を可能とする米国との高い水準のデータリンクは憲法の要請に反している。」
 ※加藤健二郎氏の名を「健二朗」と書いているのは元本の誤記なのか?
 米は仏の『シャルル・ドゴール』のために「リンク16」を供給している。E-2Cと母艦を結ぶ。
 「リンク22」は「リンク16」より劣った廉価バージョン。11と22はどちらもUHFでも使えるのだが16のような容量はない。
 UHFでグローバルに通信できるのは米軍だけ。他の国はまだ短波依存。「スーパーバード」が使えない遠洋では、海自はインマルサットなど外国の通信衛星と、リンク11の短波に依存するほかない。
 BADGEには空自独特の暗号が用いられてきた。そのためE-2Cはもともと米海軍の飛行機であるのに、海自や米海軍とは接続ができない。日本のE-2Cは空自のF-15ともデータリンクの相性が悪かった(元米海軍機と米空軍機なので)。また、空自のリンク11は海自のリンク11とのインターオペラティビティは無いだろう。
 自衛隊でリンク16が使えるのは空自のAWACSと海自のイージス艦だけ。
 海自はリンク11でもリンク16でも米海軍に完全に情報通信面でとりこまれつつあるが、空自は米空軍との情報通信共有を拒否してきたようだ。すなわち空自と米空軍は「リンク11」がつながらない。ただし近年の共同訓練に参加しているロットのF-15は謎。※AWACSだけが確実に米空軍とリンク16でつながるわけか。ということは浜松のE-767の行動に注目すると米軍の気にしていることも読めるわけか。
 巡航ミサイルやステルス対策で有効なレーダー情報の統合運用は、米英海軍間で実現している。弾道ミサイルの脅威にされされていず、イージス艦をもつ必要にない英国は、この選択にとびついたが、結果として、米軍情報なしでは行動できない海軍になるだろう。豪海軍がこれに続き、その次は海自になりそうだ。この投資が巨額と見積もられるので、海自は隻数削減を呑んだ。※米はマルチスタティックレーダーを艦隊のソフトウェア上で実現しようというのか。技本で研究中のバイスタティック/マルチスタティックレーダーは察するところ次期国産BADGEだから空自専用、本土防空専用ということか。
 p.160 自衛隊が低い水準のデータリンク能力しか持たないのであれば、自衛隊は高いレベルの対米協力活動はできず、米軍は単独で行動するだろう。
 リンク16を採用しつつ、同時に米国の暗号ブラックボックスに支配されない選択肢として、英国BAE社が今よびかけてきている日英共同開発案に乗るという手がある。
 2001から英潜水艦隊が導入したトマホークの地図情報は、軍精度GPSデータの鍵とともに、米軍が供給する。このアクセスは米はいつでも拒否できる。つまり英国は米国に相談なしではトマホークを発射できない。
 英はF-35の開発コストのうち4000億円を負担したが、米はアビオニクスを英に開示せぬ方針である。
 仏やイスラエルが米(NSA)と結んでいる暗号保全協定(GOSMIA)を日本も結んで、三自衛隊の独自データリンクをまず達成してからリンク16を導入しないと、米のリンク16の暗号ブラックボックスを日本は使うしかなくなり、その結果は日本のミサイル発射権をすっかり米に渡すに等しい。
 p.173 三自衛隊は暗号も共有していない。
 海自のMOF(基本的に文字データ)と空自のBADGEを早くリンク11で結んで共通戦術ピクチャー(陸自のオーバレイマップのCRT版のようなもの)をつくれ。
 海南島に01年に着陸したEP-3はリンク11で、その暗号の鍵はCD-ROM供給であった。※てことはCD-ROMを瞬時に破壊する保全装置が機内にあるのだろう。あるいは鋏で切って窓から投げ捨てか。あるいは「自動的に消滅するCD」か。
 リンク16の暗号鍵は48時間で切り替わる。周波数はランダムホッピングだし、元データにも暗号がかかっている。リンク11はホッピングしない。
 秘匿性が重視される軍用のデジタル交信では互いの装置をまず認識しなければならず、そのために互いの位置を正確に知っていないと通じない。リンク11で457m、リンク16では9.8mの誤差しか許されない場合がある。
 オランダ海軍はNATOのソースコードに依存している。つまりは、独自行動はしないと決めているのだ。
 C3I担当の国防次官補には三軍にああせよ、こうせよの権限がない。米三軍も相互データリンクを嫌う組織文化があった。
 2002時点で英国防省は将来常に米国の援兵として共同作戦をすると公表している。
 韓国はイージスシステムを輸入することにしたが、通信ソフトは暗号も含めてフランス製を選んだ。つまり米国と共同作戦しないことを決心している。
 最初にインド洋に派遣された日本のイージスはディエゴ・ガルシアの防空が任務だった。つまり海自として初めて米海軍の実戦の「ピクチャー」をリンク16経由で貰った。ただし第七艦隊と第二、第六艦隊とでは暗号が異なるので、当初はうまくいかなかった。
 二国以上の合同司令部の形態には三つある。WWIIの米英、あるいは戦後の米加の方式。朝鮮戦争の一国主導方式。そしてデザートストームの並立方式。日米同盟は現況ではデザートストーム型。
 空自には「単独防衛」の気概があったから、指揮通信システムはまったく自律的なものになった。海自は最初から米海軍との共同作戦しか念頭になく、ROE共有を急いできた。※おそらくF-35導入決定は海自の政治力が空自を上回ったということだろう。空自のホンネは国産がベスト、F-22が次善だがライセンスでないなら断る、というところか。外務省より防衛庁が、その防衛庁の中でも海自派が、さいきんノシてきた。その背景には米国との親密度の差があったというわけだ。
 イージスのレーダーは低空目標に対して72km有効。※どのくらいの「低空」かだが…。
 最大18目標と交戦できるが『こんごう』は終末誘導レーダーを3基しか有しないので同時に3目標にまでミサイルを発射できる。
 ミニ・イージスと呼ばれる『きりさめ』は大型航空機を200km先で捕らえるのみ。
 2004年度内に海自のイージスは全部リンク16対応となる。
 p.220-3 「悪魔は細部に宿る」ので日米同盟全体のべき論など無意味。自衛隊が指揮組織上の、また通信システム上の統合を自己実現しないうちに海自が米国製のリンク16を使い出してしまえば、もはや三自衛隊は分断され、米国の走狗となるばかりである。拙速に米軍とのシステム統合化を進めてはならない。「日本政府はインド洋へのイージス艦派遣を断念すべきであった。」
 p.229 イスラエルは米衛星から直接、早期警戒情報をダウンリンクできる体制を敷いている。
 98年時点で、米国から日本に早期警戒情報が届くまで8分かかる。北鮮のSSMは7分で落達するのだが。
 米海軍の原子力正規空母は調達コストだけで1兆円以上。ランニングコストは毎年260億円。米国はこれを12隻揃えて保持しつづける予定で、加えてハリアー空母になる海兵隊の強襲揚陸艦を12隻もつ。
 大型空母の寿命は50年。ニミッツ級は23年たったら炉心を分解して核燃料や内壁等を交換しなければならない。そのドック作業には2年半もかかる。
 正規空母はニューポートニューズのドライドックでしか作れない。同時に1艦しか船台に置けないのだ。
 2000年のジャパンハンドラーズによる「アーミテージ報告」とは何を要求したものであったか。米空母艦隊がインド洋に集まった場合、正規空母の空白となる西太平洋では、ハリアー軽空母(強襲揚陸艦)と海自の艦隊がその穴を埋めて欲しいというのだ。海自の16年計画型DDHはそれに呼応している。
 日本政府は集団的自衛権の行使が必要であることを自国民に説明せずに「事務方同盟」が続いてきた。
 わが国の輸出に占める米国市場の比率は25%あり、ドイツの8%より高い。東アジアからの迂回輸出を含めると米国市場依存はさらに高い。
 日本は経常黒字を出しながらその金融資産を自国内の金融市場でほとんど運用できぬため、米国財務省証券を購入した。
 日本が米国の走狗とならず、日米同盟を「共同体化」することもできなければ、「周辺地域に対する限定的抑止の目的で短・中距離弾道ミサイル搭載の核戦力や巡航ミサイル搭載の小型戦術核兵器などを保有する可能性は想定できよう」p.288
 ※シナ奥地に届く核ミサイルは米本土に届いてしまう。短射程の核兵器もヨコスカやカデナやハワイに届いてしまう。そしてシナ奥地に届かない核ミサイルは「抑止」になるのだろうか。抑止は1(抑止ができる)か0(抑止ができない)かしかなく、「限定」も「非限定」もなかろうと思うのだが。敵がもし核ミサイルを一発発射してきたら、その後は「抑止」の話ではなくて、「核戦争遂行」と「民間防衛」の話であろう。
 パトリオットのPAC-2はライセンス生産のため日本側ができるのは発射ボタンを押すことだけ。※そもそも空自の長射程SAMはBADGE連動だから、ナイキも有事には半自動発射のようなものであった。そして初期のBADGEは米国のシステムではなかったのか。
 横須賀に核燃料の処理施設がないので、2008以降の米空母は本国まで燃料交換に行かねばならない。
 海自の作戦艦艇54隻は英仏海軍の34隻と比べてかなり多い。予算が増えないとすれば、隻数を減らして軽空母中心に再編成し、英式の現代化をはかるしかない。本国防衛だけならその軽空母中心艦隊が計3つ、遠征艦隊も持つ気なら、つごう4つ必要だろう。※かくしてF-35というわけか。
 海自潜水艦隊は質量ともに増やす必要がある。艦齢を延長し、25隻体制にしてほしい。通常型なのに大型化しているのはおかしい。光学潜望鏡もおかしい。乗員は3割減らせるはずだ。射程110km、弾頭重量230kgのハープーンは対地攻撃用に改造できる。それに核弾頭をつけてAIP潜水艦から運用できるだろう。p.296
 ※以下、コメント。電気通信の見地から軍事・国際関係を語れる日本人が登場することを、長年待っていました。このような著作・著者が少しでも増えていくことを期待します。そして願わくは、東京の大きな書店でしか買えぬ書籍上ではなく、見易いHP上で毎日のように啓蒙を続けて欲しいと思わずにいられません。そうなれば、このような恣意的な摘録で内容紹介をするというご無礼も敢えてしなくて済むわけです。