まずシナを黙らせないと半島も黙らない

 ウェブの毎日新聞が1月10日の午前3時に「航空機搭載型レーザー砲」のニュースをのっけています。
 昨秋からボーイング社(今や旅客機から戦闘機まで造るようになった総合兵器メーカーです)が、自民党の防衛族議員に対して、巨費を投じているわりには開発がはかばかしく進んでいないエアボーン・レーザー砲システムに、日本も協力しないかと非公式に打診している──といった内容です。
 冷戦後、米国の軍用機メーカーは企業体力をつけるために大幅に統合され、ずいぶん数が減っています。ボーイング社はその整理の波の生き残り組として肥え太った大企業ですが、そのボーイングが、レーザー砲の底無しの開発費に音を上げた。彼らにとって事態は深刻なのでしょう。
 報道されない背景には、ペンタゴンあるいは米政府の上層が、この兵器システムの価値そのものに疑念を抱き、調達計画や支援予算面で冷淡になりつつある動きもあるのではないでしょうか。
 「航空機搭載型レーザー砲」は、地上から発射されてまず垂直に上昇する敵の弾道ミサイルが、雲を抜けて成層圏へ顔を出し、そこからさらに大気圏外に向かって、ブースターを切り離す直前にナナメの弾道コースを決めてしまうまでの間に、ミサイル燃料の詰まったブースターの筒体部分を強烈なレーザーパルスで照射して、薄い殻を破り、敵ミサイルのブーストを中途で失敗させようというコンセプトの兵器システムです。
 引力に逆らって重い弾頭を遠くに飛ばそうというロケットの筒体は、特別に軽量化する必要があり、物理的に可能なギリギリの薄い素材が用いられます。しかもそれは内部から重い燃料(固体の場合と液体の場合とあり)によって大きな圧力(膨張力)がかけられている。高空では大気圧が小さくなりますので、パンパンの状態になります。その外殻に、レーザーパルスの衝撃によってほんのわずかな破孔を開けてやることができれば、内圧によってブースターは自壊するのです。
 レーザー砲の搭載母機は、ほぼ大型旅客機の転用に近いもので、敵地近くの成層圏を、燃費を抑えてゆっくり長時間ロイタリングしています。つまり雲の無い見通し良好な高空において、水平方向に目標を捉えようというのです。標的の面積は小さなRV(再突入体)ではなくブースター付きですから、大きい(レーダーにも捉え易いしレーザーを当て易い)。かつまた、尻から派手な赤外線も放出していますので、光学照準装置でもトラッキングし易い。ますます好都合でしょう。
 敵のロケットも空気抵抗の大な大気圏内はできるだけ素早く通り抜けてしまわないとエネルギーの大損ですので、成層圏ではまだまだ垂直に上昇しています。それはぐんぐん加速中であるとはいえ、落下時に比べればまだ低速ですから、真横から照準をつけているレーザー砲の標的としてはイージーであるかもしれません。
 成層圏にある母機から横向きにレーザーを発射すれば、そのレーザービームも、雲や水蒸気による拡散・吸収の悪影響をあまり受けずに標的まで到達してくれるでしょう。
 このように理論的なフィージビリティはあると説明されてきたのですが、ボーイング社での実験はそんなにうまくいっていないようです。どこがどううまくいっていないのかは、公式説明がありません。自民党の族議員さんたちは、ミーティングでそこに突っ込めたでしょうか? やや疑問だろうと兵頭は思います。
 技術的に停滞をしているのは、やはり射距離とパワーでしょう。成層圏といっても空気はありますから、どんな波長のレーザーも距離に応じて減衰させられてしまいます。どうも、ベスト・コンディションの想定でも有効射程は300kmに達しないらしい。
 その「300km」という数値も、どこから出てきているのか疑ってみる智恵は必要でしょう。射程が300kmあれば、北朝鮮の東西の海岸線から、北朝鮮の全領土をカバーすることは可能です。しかしそれは彼らの旧式なミグ21戦闘機の行動半径内であることは勿論、沿岸から発射された長射程地対空ミサイルからも安全でない距離です。
 もっと考慮すべきことがあります。イランの内陸は沿岸もしくは国境から何kmあるか、地図で計ってみましょう。イランのどの国境線からも300km以上離れている土地が、イランには存在します。つまり、このエアボーン・レーザーが実用化されても、イランのミサイル発射を封じ込めることはできない。ましてシナには無意味です。米国政府がこのシステムに見切りをつけつつある背景には、これがありましょう。
 要するに、この「航空機搭載型レーザー砲」は、とりあえず北朝鮮に対してしか意味をもたないんです。目下、北朝鮮の弾道ミサイルは日本にとってのみ脅威らしいですから──兵頭は、V-2のロンドン攻撃の人的損害にかんがみて、V-2より弾頭の軽い北鮮のSSMは東京の真剣な脅威たりえない、また彼らは生物兵器弾頭も核弾頭も有していないと、過去にも雑誌に書きましたし、現在も思っておりますけど──、だったら日本がカネを出すべきだろ、と、ボーイング社の幹部会議では結論したんでしょう。
 技術的な突っ込みを入れておきましょう。現在のボーイング社のレーザー砲の威力では、300km先での照射は数秒間、持続しないとロケットブースターの外板を穿孔しないそうです。とすると、分散したランチ・パッドから同時一斉にSSMが発射された場合、一機の「空中レーザー砲台」では撃ち漏らしを生ずる可能性があります。いったい「砲台」は、つごう何機を常時ロイタリングさせていたら済むのでしょうか? またそれは現実的でしょうか?
 もうひとつ。長射程のSAMがSSMのデコイになり得るでしょう。長SAMとSSMを同時に多数発射されたら、「空中レーザー砲台」はまず自機を守ろうとするのではないでしょうか。
 もうひとつ。レーザーパルスを受けたとき、剥離蒸散して外殻をプロテクトするコーティング剤を、ロシアあたりが開発して「ローグ・ネイション」に売り込むでしょう。
 もうひとつ。北朝鮮の得意技にローテクの風船があります。アルミを蒸着させた風船に照明弾を吊るして、水素充填または熱気球方式で放球し、SSM発射のデコイにする可能性もあるでしょう。
 日本としてこのシステムに出資すべきではない最大の理由は、これがシナのIRBMやSLBMや巡航ミサイルに対して、意味をもたないことです。日本がシナと核バランスをとれてない、すなわち対等でないことが、北鮮や韓国を増長させている。拉致や教科書問題、靖国問題も畢竟ここに淵源するのです。およそモノには順番があります。日本の人的資源は有限です。ですから政策にも優先順位があります。「空中レーザー砲台」開発への参画は、シナとの核バランスがまず取れた後に検討されるのがふさわしいテーマでしょう。