とうとう「SS-N-6もどき」の実力判明

 今朝の某新聞ウェブ版が「共同」の配信を紹介しており、北鮮の2発の変り種弾道弾は旧ソ連の「SS-N-6」改造型だったらしいと書かれていました。
 テレメートリーも出していたようです。
 だったら日本のP-3Cも信号を録音できたわけだ。
 この新材料をもとに、また想像をするとしましょうか。
 「SS-N-6」の北鮮バージョンらしきものはもう西暦2000年から撮影されていたのですが、何か不具合があるのか、北鮮は今まで1発も試射すらしていませんでした。その謎の性能を、北鮮はとうとうオープンにしたのです。
 この意味は、金正日の米国への屈服でしょう。ありのままを米国中枢にだけは知ってもらうことにした。諸外国および米国内の「外野」向けのブラフと、米国中枢向けの宥和サインを、使い分けようとしているのでしょう。
 ざんねんながら日本の防衛ソフトの現状ではテレメトリの暗号はデコードできないと想像されるところですけれども、NSAは大抵デコードできます。この「SS-N-6もどき」の実力は、こんどの2回連続のサンプルによって、米国中枢には今やほぼ全貌が知られたでしょう。
 つまり、加速度(レーダーでわかる)、発熱量(赤外線でわかる)の遠隔観測データではいまいち解明し切れない部分も、飛翔体自身から出してくれるテレメートリーが、ご丁寧に補完してくれた。
 それで、ペイロードと射程のエンヴェロープがだいたい絞り込まれた。
 4000kmも飛ばないし、1トンも載せられないってことは、はっきりしたでしょう。
 またもし暗号化するほどのテレメートリー内容が無かったとすれば、それもまた、北鮮には核武装なんてまったく無理だという傍証を示したことになる。
 で、マスコミは相変わらず、「SS-N-6もどき」の射程が4000kmもあってグァム島に届くだとか、米国タカ派がずっと前に警告したMax値を右から左へと垂れ流し続けてるんですけど、まあ、確かな数字を見てみましょう。
 元になった弾道弾ですけど、これは旧ソ連が1960年代に開発した「R-27」(ソ連崩壊後に公表された“本名”)で、それを米ソ軍縮交渉の場では「SS-N-6」と“芸名”で呼んできた。
 全長は、先端の単弾頭(再突入体)部分を除くと7.1m、含めると9.7m。太さ1.5m。液体燃料の単段式です。
 液燃というとH-IIや長征のような「液酸・液水」を想像する人がいるんだが、ぜんぜん違います。そんな厄介なものじゃない。もちろんドライアイス状の霧が発生することもありません。
 液体の単段式である限りは、筒体を1~2m延長したって4000kmも飛びません。ハイテクで超軽量(250kg未満)にした水爆をただ1発だけ搭載して、かろうじて3000km飛ばしたというのが旧ソ連での実績です。
 北鮮が遠い将来、原爆を完成できたとして、それは1・5トン以下には収まりますまい。「SS-N-6」は650kgまでの弾頭重量しか載せられないものです。
 これがポラリスみたいに2段式になったら、射程はグンと延びますので、グァム島も危ない。しかし、そんなもんじゃないってことが、こんどの実験で明かされた。
 おそらく実力判明した北鮮の「SS-N-6もどき」は、射程は2500km未満、ひょっとすると2000km弱だったのでしょう。
 この最大射程で東向きに発射しますと、どうしても日本の太平洋岸のすぐ近くへ落ちてしまい、瞬間的に日米安保が発動されて、平壌が米軍によって空爆されるおそれがあった。
 だから日本海の西寄りに撃ち込んだのでしたが、最大射程が1000km未満であると見くびられるのも不本意なので、正規のテレメートリーを放送したのでしょう。「実力は2000kmあるんですよ」という米国に対するメッセージでしょう。
 金正日の意図は、この「SS-N-6もどき」の、じつは大したことのない実力を米国だけには知らせることによって、任期のおわりの近いブッシュ政権から置き土産的に北鮮征伐を仕掛けられないように密かに「懇願」することにあったのではないでしょうか。
 さらに想像をたくましくすると、金正日は「ネオ・テポドン」がまるで完成の見込みがないという報告を現場から事前に受けていたかもしれません。それでもいいから発射しちまえと命じた。運良く成功すれば、新たな対外交渉の活路を探せる。見込み通り、失敗すれば、米国と宥和できる──と思ったかしれません。
 こんどの公開政策によって、北鮮の長射程の「とりあえずさいごまで飛ぶ」多段ミサイルは「旧テポドン」しかないことが明かされた。旧テポドンは弾頭に100kgも搭載できぬもので、武器としてグァム島を脅威できるようなものではなく、数量もごく僅か。
 北鮮はもうテロ国家として生きるしかない、「終わった」国なのです。