フィズルは何度やってもフィズル

 プルトニウムを抽出してから放置しておきますと、同位体239が、だんだんに同位体240へと変わっていきます。
 プルトニウム240は中性子を出しすぎるため、この割合の大きい原料を装置すると、爆縮をしても、核分裂反応が過早に激しくなり、わずかなプルトニウムが分裂したところで爆縮エネルギーを押し返し、爆発装置そのものが飛散します。これをフィズルといいます。核の不完爆現象です。
 フィズルで核分裂しそこなったプルトニウムは飛散します。そのアルファ線による人体への有害性は、大気圏内飛散ではたいしたことはありませんが(→『原子兵器の効果』摘録とコメント参照)、洞窟内部ではじけた場合には、長期にわたって洞窟を汚染することになります。
 半減期が長いので、これはもう、埋めるしかありません。チェルノブイリの始末と同じです。
 北朝鮮のプルトニウム抽出工程は、いまや動いてはいないと推定されます。つまり北鮮は、もう何年も前に抽出したプルトニウムを使って爆縮装置に装填してみたと想像できます。
 これは何を意味するかというと、技術者には、これがフィズルになることは予見できていた。放置時間が長すぎ、240の比率がすでに多くなっているからです。
 また金正日の立場から考えると、これ以上実験をしないで待っていれば、240の比率がさらに多くなって、もっとショボい不完爆しか実現できなくなる。だから、待つことはできなかったのです。
 240の多いプルトニウム原料を使って、同じ爆縮装置で何度実験しても、同じ規模のフィズルにしかならないでしょう。金正日は、プルトニウム抽出工程を新規にやり直す必要がありますが、これを衛星から隠すのは難しく、時間もかかるので、米軍から空爆されるおそれがあります。金正日体制には、もうその時間はありますまい。
 では二度目、三度目の実験をやらないかといえば、これはやるっきゃないでしょう。時間が経てば経つほど、現有のプルトニウムがどんどん239ではない240に変化していくのです。外国の地震計に捉えてもらえるくらいの爆発がおこせる今のうちに、古いプルトニウム・ストックをぜんぶ使いきるぐらいのつもりで、フィズル実験をやってみせるしかないでしょう。
 ただし、地中爆発では芸がないから、次は大気圏内でやるんじゃないでしょうか。みなさんは是非、米国原子力委員会が編纂した『原子兵器の効果』(邦訳1951年)を図書館で精読してください。これは名著ですよ。日本にどの程度の影響があるのか分ります。『朝鮮日報』の日本語記事で、ソウルが全滅するようなことを書いているが、この記者さんは『原子兵器の効果』を明らかに読んだことがないですね。そんな不勉強ではクオリティ・ペーパーにはなれないぞ。
 で、米国の対策ですが、これは海上封鎖しかない。いまあるプルトニウム・ストックを使い果たせば、北鮮は元のオケラに戻る。時間が経てば、プルトニウム239はほとんど240に化けて、その威力は脅威からは程遠くなる。半島に関しては、時間は、われわれの味方かもしれません。
 焦点はシナです。パキスタンと北鮮の核交流は、シナが保障したんです。人もモノも、シナ領内を通過しています。このケジメを、北京にどうとらせるんですか?
 安倍さんでは無理です。彼には何もできないと分かった。危機のときに日本の将来を好転させる発言ができないのですから、日頃からこの問題を考えてこなかったということでしょう。いまから俄か勉強したって、もう間に合いはしませんよ。こんな迂愚な政治リーダーは、危機の時には国家に無用です。早く退場してもらわなければなりません。
 通常戦力による北鮮軍の南進はあり得ません。在韓米軍をナメてもらっちゃ困るよ。この2日間で、日本の言論界の軍事リテラシーの無さは治ってないな~と慨嘆させられることしきりです。