次は「繋留気球」に吊るしてドン! ……なのか?

 今の北鮮のジレンマは、米軍を攻撃せずに、どうやって「核ミサイル」保有を世界に実証するか──に移りました。
 米国と「取り引き」をしたいのに、米国をちょくせつ脅威するような演出ができないことは、金正日の深い悩みでしょう。もし米軍を攻撃したと受け取られる行動をとると、北鮮を空から袋叩きにする口実をアメリカ大統領に与えてしまうのです。
 ここは、北鮮領内または沿岸で、さらなる爆発実験を、またやらかすしかありません。
 ただし、ノドン単射から始まりスターマインに至った過去のミサイル発射デモンストレーションでもそうでしたが、同じ実験を2度やっても世界は騒いでくれませんので、彼らは核爆発実験も、質的にエスカレートさせていく必要があるのです。
 さりとて38度線に近い陸上で大気圏内核実験をすると、それは放射能による韓国(および国連軍)に対する攻撃だとみなされてしまうおそれがあります。たぶん、一回目の実験場からそんなに遠くないあたりで「半地下」、もしくは「沿岸水面」で爆発させるというのが、合理的な結論ではないでしょうか。これなら世界はまた驚いてくれましょう。
 しかし、そうした実験エスカレーションの途中で、米国がぜんぜん態度を変えなかったら、どうなるでしょうか? 北鮮は抽出済みのプルトニウムのストックを、使いきってしまいます。過去の見積もりが「4発分から9発分」でしたでしょうか? この回数内でアメリカが気持ちを変えてくれなかったら、金正日は The end です。
 再抽出処理プロセスの始動は、これまたアメリカ大統領に空爆の口実を与えてしまうでしょうから当分はできません。
 続く数回の実験をどのように演出していくか、関心のもたれるところです。
 「核爆発装置」と「核兵器保有」との間には月鼈の開きがあります。9日の北鮮実験は、かなりの後進国でも「装置」によって10キロトン未満の核爆発が起こせると証明したことで記憶されるべきです。世界最貧国の北鮮が行なったことにより、「貧者はオウムの真似をする必要はない」ことが実証されました。
 ところが、運搬手段をもたない今の北鮮は、「装置」だけではアメリカを脅迫できません。爆発装置を敵の頭上に「配達」できることが証明できて、はじめてアメリカは北鮮と交渉しようかという気にもなりましょう。
 ですから2回目もしくは3回目の爆発実験は、その「配達」手段の保有をも、あわせて世界に証明する内容でなければならない。
 ここでも金正日の悩みは深いでしょう。北鮮は「核攻撃機」を、整備してこられませんでした。そもそも「空軍」そのものが無いといってもよい情況なのです。最初の核実験直後のパキスタン軍のように、低速の輸送機のカーゴベイからころがし落としてやるしか、配達手段がありません。
 ところが北鮮領内で低速飛行機が飛びあがれば、それはAWACSで在韓米軍にすぐに探知されてしまい、そくざに戦闘機をさしむけられて、長射程空対空ミサイルによって撃墜させられてしまう可能性が、捨て切れません。
 また、飛行機が爆弾をのせたままロシアなどに亡命してしまう可能性や、あるいは、矛を逆しまにして、平壌に向ってくる可能性だって、排除ができない。このへんが独裁者の悩みです。
 船舶に搭載して沖合いで実験しようとした場合も、同様の悩みがあります。出航直後に米潜水艦によって鹵獲されるかもしれません。SEALSを乗せた特殊任務用の原潜を米海軍はすでに近海に派遣しているはずです。
 北鮮にのこされた、可能な原爆配達実験は、ミサイルに搭載する方法しかありますまい。
 ただし、長距離弾道弾の信頼性は、この前のスターマインでかなりぐらつきました。信頼性のある短射程のスカッド、または対艦用のシルクワームに搭載して、北鮮の海岸線付近の上空で起爆させるならば、万一不発になっても弾頭を回収できますし、韓国への核攻撃だと勘違いされるおそれもないでしょう。こういう実験を、3回目かそれ以降で、やるでしょう。
 これに成功すれば京城を「人質」にとれます。彼らにできるのはそこまでです。そこでアメリカが直接交渉に応じなくとも、在韓米軍の配置を後退させることはあり得ます。
 この実験の前に、空中爆発実験をするのが、合理的であり、脅かしゲームとしても効果的でしょう。空中爆発は地表爆発や水中爆発と違って二次放射能で隣国に迷惑をかける程度が小さいでしょう。夜中に繋留気球を上げて起爆させる方法なら、米空軍から妨害されることもないでしょう。
 ところで日本国はこれまで沖縄のアメリカ海兵隊のために多大の迷惑を甘受してきました。報道によれば、北鮮の実験場は、日本海側の海岸に近いようです。これは、アメリカ海兵隊の出番ではないのか?
 もし、在日のアメリカ海兵隊が、これから1年たっても、北鮮に対して何の活動も見せてくれなかったら、いよいよ連中はアジアでは役立たず、無為徒食の居候でしかないと考えられる。さっさと日本から出て行ってもらってもアジアの安定にはぜんぜん無関係という話になるでしょう。
 もちろんそれは「反米主義」とは違います。東京都は、在日米軍の司令部をむしろ都心近くに誘致すべきでしょう。大阪、京都、福岡も、米軍誘致を考えた方がよくなるでしょう。日本がじぶんで核武装できれば別ですが……。
 北鮮があと数回の実験を成功させ、いよいよ「装置」が「兵器」となり、日本にとってのリアルな脅威になったら、在日米軍も、リアルな抑止力になってもらわなければ仕方ない。日本が自前で核武装するにしろ、しないにしろ、これは当然のことです。