辞の疆くして進駆する者は退くなり。

 敵がなんだか盛んに強いことを言って勇ましい攻勢をデモンストレートしているようなときは、じつは敵は裏で退却の準備にかかっているのをカモフラージュしようとしているのさ――と孫子は昔に書いていた。
 しかし先だってのASAT実験が、六カ国協議もしくは水面下の米支交渉で、思い切った屈従的な条件をシナが呑むための下ごしらえ、すなわち「弱腰の印象」を中性化させる、国内およびアジア向けの宣伝、であった可能性は、無い。北鮮の核武装を戦争なしに解除できるわけはなく、それが米国にとって可能になるのは、保護者のシナが亡びた場合に限られているからだ。
 それよりも、T・G・カーペンター氏著のif戦記『2013年、米中戦争勃発す!』(きょう届いた『朝雲』の新刊紹介で知ったばかりで、未読w)の英語版のあらすじに強い影響を受けちまった可能性の方が、百倍あるように思われる。
 たぶん、小説通りの偵察衛星の破壊能力を実証すれば、小説通りに、アメリカ人が〈シナとの戦争は失うものが多く、回避すべきで、台湾の独立を守ることも、それほど価値はない〉などと考えてくれるようにもなるはず……と思い込んだのだ。
 もともとシナ語の世界では、宣伝と本心の区別は限りなくあいまいになるが、最近のかれらは、「辞の疆」い時は、じっさいにかなり増長をしている。なんだか大戦前夜の帝国海軍みたいになってきつつある。
 そうなると歴史を学んでいるアメリカ政府も近いうちになにか一発、印象的なデモンストレーションをし返して、現実の圧倒的なハイテク戦力の隔絶というものを、中共中枢に示さないではおかぬだろう。
 日本人は、政治大国同士の平時の喧嘩の流儀を、これからよく観察して学習することだ。
 ところで小耳に挟んだところによると、3年以上前は、ソーラーライトは通販でしか売っていなかったという。しかもその値段も、かなり高かったそうだ。
 その後、その高価で、高性能なソーラーライトが、そのままホームセンターの店頭にも並べられたが、すぐに、廉価版が現われ、良品を駆逐したのであるらしい。
 この話によって、「商品X」が消えた理由を、また少し理解した。
 高緯度・積雪地域でのユーザーが比較的に少数で、インターネットPC普及率もそれに見合っていたため、ここ数年間、「不完全情報市場」の状態で放置されたことが、良品にとっては、致命的だったのだろう。
 大手活字メディアの「新刊書評」コーナーが良いサンプルだと思うが、真の良著が発刊とほぼ同時に書評家に認知されてたまるものではない。たいていは、発刊から何十年もして、ようやくに、その著述の正しさや不当さが、あきらかになるのだ。
 間違った世上評価の修正、真価の再発見には、時間がかかるものなのだ。
 しかし、いつかは、正当な評価がなされるだろう。それをかつてなく強く保障してくれるようになったのが、永久に滅却されない、とてもありがたい情報ストア機構である、インターネットである。
 時間制限なしとすれば、インターネットは、ディスインフォメーションよりも、真実の保存に、より大きく貢献するはずだ。