17年前のコンセプト「そのまんま」TK-Xに期待できることとは?

 なぜわたしが「勝手にソーラーライトを愛好する会」のタマランチ会長と呼ばれているのか分からない人。是非、都内特定書店にて、本日中に、最新刊の『逆説 北朝鮮に学ぼう!』(並木書房)を購入しましょう。完膚なきまでに説教されています。
 さて防衛省が08-2-13に、2010年度採用見込みのTK-Xの試作車を、相模原市の防衛省の研究施設で報道陣に公開したと聞き及び、ネットにUPされた映像数点を拝見しました。
 相模原にはたしか三菱重工の戦車量産ラインがあります。そこに、戦中の「四研」(技本のAFVセクション)の戦後版の機関も隣接しているんでしょう。じつは『戦車マガジン』の記者時代から今日まで、なぜかわたしは相模原一帯の見学/取材をしたことがないもんでして、くわしいことは承知しません。
 うたい文句は、報道によりますと、「味方の戦車同士で瞬時に情報を交換、共有」できること、対戦車威力がある120ミリ砲を搭載し、「ゲリラや特殊部隊による攻撃など新たな脅威にも対処でき」て、現用の90式より6トン軽い44トンで、装甲は着脱容易なモジュール式。納入単価は開発費を含まずに7億円におさえられる――と見えます。
 エンジンの報道がないのには困惑します。戦車はエンジンの概略(出力、排気量、過給方式、冷却方式、サイクルなど)がわからないことには、性能や発展性・将来性の想像など、つけ難いものです。
 もし90式と同出力(実装)でより軽量コンパクトなエンジンなら、車体が軽量化したことで、すごい機動力(たとえば対馬のような山岳性離島への投入)を狙っているのかな~とも思っちゃうところなんですが……。
 旧著の『日本の防衛力再考』や『「新しい戦争」を日本はどう生き抜くか』をお持ちの方は、ぜひ再読してご確認ください。
 事情は何も変わっていないと思います。すなわち、陸自の国産戦車の開発サイクルは、十数年がかり。
 車体のデザインは数年で完了できても、戦車にしか使えないユニークな新エンジン(800~2000馬力)とパワー・トレイン(クラッチなど)の開発に、10年以上が必要なのです。
 TK-Xが「安い」というのが本当なら、特別な新エンジンは使っていないのかもしれません。
 パワー・パックもモジュール化した方が理想的にきまっているので、それなら朗報でしょう。
 ざんねんですが、TK-Xは、1991~2年の湾岸戦争よりも前から基本コンセプトが固められていることは間違いありません。
 わたしは当時、三菱重工のOBから「次(90式)の次の将来戦車として、逆に軽量化した40トン台の主力戦車を開発中」と教えられました。もう概略図まであり、そのターレット前縁は楔型に尖っていました。今回、あまりに「そのまんま」のカタチに見えますので、感心しています。
 やはりこのTK-X、「古い事態に最新テクノロジーで対応する」、いつものパターンであることに、変わりばえはなさそうです。
 湾岸戦争では「強者の国が世界に投入する戦車は沙漠を何百kmも高速自走できなければならない」と分かり、「味方撃ちの予防」が喫緊課題と分かり、他方また「弱者の国の戦車は、対空疎開運用重視、対空遮蔽物の利用のし易さ重視、対空秘匿性、積極的偽装装備、でき得れば上面防護力がなければならず、固有火器とFCSによる対空自衛交戦力のあることも望ましい」と分かったはずです。もちろんTK-Xには、それらは、少しも反映されてはいないでしょう。
 2001-9-11のあと、アフガン戡定作戦の好調により暫時、ハイテク万歳の時代になりました。「RMA」とか言ってましたわね。(イラク泥沼の今では死語ですか?) 「味方の戦車同士で瞬時に情報を交換、共有」なんてのは、その当時の「軍事革命」路線でしょう。発想は、しごく古いものです。
 携帯電話の時代に「自動車からタクシー無線ではない電話がかけられるんだぜ」と喜んでいる、そんなレベルでないことをひたすら祈りたいと思います。
 9-11以後、「ソ連なきあとは、いよいよシナがヤバそうだ」と見当がつくようになりました。
 そこで、南西諸島に投入しやすいように、C-130や重ヘリコプターで空輸できる、あるいは商用コンテナに入れて輸送して普通のクレーンでも卸下できるような、空挺AFVが必要でしょう――との小生の提言(『「新しい戦争」を日本はどう生き抜くか』)は、もちろん考慮されなかったでしょう。
 そこまで根本的に発想が変わると、予算を得るために財務省を説得し直さなければならなくなります。三流官庁の防衛省には、そんな手間をブレークスルーしてくれるような人材は、いやしないのです。
 C-Xでの(分解)空輸は、考えていたことでしょう。
 「ソ連の着上陸侵攻なんて、ありえない」と、背広上層によって陸自の戦車定数を減らす決定が下されたのは平成16年でしょう。もちろんこの決定も、既定であるTK-Xコンセプトを、少しも変えなかった。
 調達数がこんなに劇的に少なくされるのだと、もっと前から分かっていたならば、三菱も四研も「戦艦大和」の発想に切り換えたことでしょう。
 つまり、逆に70トンまで重くした戦車を与那国島などにはじめから配備しておくことで、敵が質的に対抗不能になるように図ったでしょう。
 ロシアやシナには60トン戦車はなく、輸送&揚陸手段もないので、侵攻の敷居は高くなります。
 「北海道はもうどうでもよく、むしろ沖縄方面がヤバイ」と1980年代後半にわかっていたなら、TK-Xには浮航性が与えられたでしょう。
 主火器も、対AFV交戦など二の次とし、人海ゲリラを皆殺しにするのに便利なものへ換装されたでしょう。(無人砲塔で砲塔全部がモジュールだったら、すばらしいのですが。報道は、ただアーマーに触れているだけです。)
 そして安倍内閣倒壊の原因にもなった「陸自をアフガンやイランに出せ」というアメリカの圧力。これもTK-Xには反映されていないのは申すまでもありますまい。
 もし中東に派兵しなければならないのだと分かっていたなら、44トンぽっちにしたわけがない。今の60トン級でも、将来の脅威(新型路肩地雷)に対して不安があるのですからね。
 さて、教訓は何でしょうか?
 「古い事態に最新テクノロジーで対応する」パターンは、1992年以降は、もうやめにしなければ。
 「最新事態に、敵よりも素早く対応する」という方針に、全面的に切り換えないといけない。これは戦車だけでなく、AHもそうですしFXもそうです。
 20年がかりで構築したハイテク・アイテムも、数年で、新戦場・新事態・新防衛構想には適合しなくなる。
 とすれば、「他国を何年もリードできる高度ミリテク」の達成を望むのが間違いです。殊に陸戦兵器では。
 モジュール設計の思想は正しい路線です。ただしそれは初期調達単価を抑えるためでなく、「新事態への瞬時最速の対処」を将来にわたって不断にとり続けるためにこそ、必要なのです。
 自衛隊が使う主な装備の開発サイクルを「20年」から「数年」にまで短縮すべきです。もし、いかほどモジュール化しても「数年」でものにならぬシステムであれば、それをゼロからつくることを止すべきです。既製品(輸入品を含む)の組み合わせや改良で、誰にも予期のできない最新事態に対処して行くべきです。
 汎用パーツや汎用マテリアルを何十年もかけて研究するのは、いっこうに構わないでしょう。
 しかしシステムの「用途」を10年も前に決めてしまってはいけない。
 民間自動車の分野でどうして日本はアメリカに勝てたのでしょうか?
 それは、開発→商品化サイクルを、ビッグ3よりも短くすることに成功したからです。試行錯誤の繰り返しの速さ、回数が、アドバンテージに直結した。
 はんたいに、コンピュータ・ソフトの分野で、どうして日本はアメリカに勝てないか。それは、開発→商品化→改造強化サイクルで、米国の民間企業に太刀打ちできないからです。最初の商品化であけられたリードを埋められない。
 離島防衛や遠征軍用の戦車のデザインは、「ウィルスに強い通信ソフト」の開発・改良と同じだと考え直すことです。脅威は日々、進化しています。年々、新手の戦場が追加されます。20年がかりの設計では、かならず不覚をとることでしょう。
 しかし三流省庁の職員では、このような考え方を財務省の担当者によく説明することは、ちょっとできそうもないでしょう。ざんねんなことです。