暑いところが苦にならない人が羨ましいです

 チベットを語るための必読の文献があります。明治37年刊の、河口慧海著『チベット旅行記』。さいわいにも、1978年に講談社学術文庫(5巻本)になっていて、今でも増刷されており、入手容易です。
 これを読むと、チベット人はけっして、日本人のようなヤワな民族ではなかった、と分かります。(河口の根性も物凄いんだけどね。)ジンギスカンが死んだのはチベット攻略中の陣中でした。
 また、ロシアは昔から、チベットに工作をしかけてネパールに浸透し、そこからインドをうかがおうとしていたことも分かります。モンゴル人にしたように、ギリシャ正教を押し付けず、仏教を逆に奨励して僧侶をとりこむなども朝飯前だった。
 そしてチベットの幹部は、日本人がイギリスのスパイとなってやってくるのではないかと警戒していた。
 インド人は日露戦争のニュースに接して、イギリス人は怖くないと見直しますが、その前にチベット人が、日清戦争のニュースを聞いて、シナ人は大したことはないと考えるようになったんですね。
 まあしかし、ビジネスに超多忙な人は5冊もの文庫本を読み通すのは大変だ。そこで、朗報があります。『武道通信』の「読書余論」の「2007年7月25日配信」のバックナンバーを、ご購入なさい。兵頭による「摘録とコメント」を、わずか1分間で読むことができる。主な情報要素はそれで頭に入ってしまうでしょう。
 なお『武道通信』はURLもメアドもガラリと変わったようなので、お申し込みの前に、ご注意ください。「読書余論」は1回分が200円です。もちろん、とりあげられている文献は『チベット旅行記』だけじゃありません。具体的なコンテンツは、『武道通信』の中の「告知板」を2007年7月までスクロールすれば、調べることができます。
 次に、チベットとは関係はないが、面白い文献をご紹介します。
 Hsi-Huey Liang という著者が、ドイツ外務省の電報記録などを丹念に調べ上げ、戦前・戦中の蒋介石とドイツ政府との腐れ縁を暴露した『The Sino-German Connection ―― Alexander von Falkenhausen between China and Germany 1900-1941』。
 この本は1977年に Van Gorcum & Comp. がオランダで出版し、米国では翌年に Humanities Press(ニュージャージー州)から配給されています。
 これが全訳されていないのは、惜しいことです。軍事顧問のファルケンハウゼンが1936年4月から蒋介石に、対日テロ戦争をけしかけまくっていたことがよく分かるものですから……。
 たとえば、1937年7月21日に、南京のドイツ大使館から Auswartiges Amt(ドイツ外務省)に宛て、ファルケンハウゼンはこんな電報を打たせていたという。
 「蒋は戦争を決心した。局地的な小競り合いではなく、全面総力戦争だ。蒋の勝ち目は少なくない。なんとなれば、日本はソ連の干渉をおそれていて、全軍事力を対支作戦に投じ得ないからだ。シナ軍の歩兵は良好である。シナ空軍は日本空軍とだいたい互角である。日本の勝ち目はとても確実とは言えぬ。シナ陸軍の士気は高い。彼らは困難な戦いを、一番やってみる気だ。」
 《原文》【Chiang is determined to fight. This is not a local war but total war. China’s chances for victory are not bad because the Japanese ―― mindful of the threat of Russian intervention ―― cannot commit all their forces against the Chinese. The Chinese infantry is good. The Chinese Air Force is about equal to the Japanese. A Japanese victory is far from certain. The morale of the Chinese Army is high. They will put up a bitter fight.】(126~7頁)
 もっと詳しい紹介は、『史実を世界に発信する会』のHPで見られるようになる予定であります。
 しかしシナの空軍が日本と互角だとか、ドイツ人はどこに目をつけていたのか……。あるいは、それほど日本軍の現地の防諜は有効であり、それほどシナ人の宣伝は巧みであったのか。
 ヒントも見えます。
 当時、ドイツのある商売人が、上海から本国へこんな電報を打っていたそうです。「日本人は何でも請け合うが、一つも言ったことを守らぬ。シナ人は天使でこそないけれども、より知的であり、忍耐強く、ユーモアのセンスを持っている」(同書、126頁)と。
 たぶん、ドイツ人はシナ人とは相性が良いのでしょう。
 さて、話題かわって、米国『タイム』の電子版(4月19日)に、DAPRAのロボ・ゴッキの話が紹介されていました。
 DAPRAとは、The Defense Advanced Research Project Agency ――記者氏いわく、ギークどもの集まりだと。これがもう創設50年だったんですね。
 サターン5型も、偵察衛星も、インターネットも、ステルスも、誘導砲弾も、無人飛行機も、暗視装置も、ボディアーマーも、ここがつくってきた。
 そして、いま熱いのは虫だ、という。
 マイクロシステムズ・テクノロジー部門で、 HI-MEMS (ハイブリッド・インセクト・マイクロ・イレクトロ・メカニカル・システム)に取り組んでいるんですと。
 その部員たちが、「インセクト・サイボーグ」と呼んでいるのは、幼虫の神経にチップを結紮して埋め込み、成長させて生体組織でチップをすっかり覆わせてしまう。そして外部から筋肉をコマンドして動かせるようにした改造昆虫だ。石ノ森章太郎先生の空想がついに現実になったのか。しかも、バッタではなくゴキブリとは!
 記事では、これに集音マイクかガスセンサーをもたせて飛ばせる、な~んて地味な使い道を紹介していますが、どうしてそんなもので済むわけがあろうか。キラー・ビーの本場ですぜ。テーザー銃の端子が装着される日も、遠くはないでしょう。