◎「読書余論」 2008年8月25日配信 の内容予告

▼Douglad Christie著、矢内原忠雄tr.『奉天三十年』岩波新書1992、原題“Thirty Years in Moukden”, London, 1914.
 戦前のシナ人の宗教観、正義観、対外人観、対朝鮮観についての優れたリポートです。どう考えても原著者はスパイなのですが……。
 シナ人はあるきっかけでものすごく興奮し、3分の間に体温が4度(華氏)上がった男をみたことがある。怒りのあまり物が言えなくなる――とか書いてあります。
 日清戦争の平壌戦で明らかに22年式村田連発小銃が使われたと考えられる証言が出ています。回教徒の左宝貴はそれで死んだらしい。
 官製暴動は昔から御家芸であること。「外国人が井戸に毒を……」という風説も、そもそもシナ政府が流布させているのではないかという疑いも示唆されています。
▼長野朗『支那読本』S3-4
 著者はシナ学に関しては定評があります。
▼井東憲『支那の秘密』S14-7
 幕末の日本の街道ヤクザは、じつは明代のシナ・ヤクザの見習のようなものだと分かります。
▼小林宗一『支那の戎克[ジャンク]』S17-6
 シナ人は朝食を摂らぬ。コメは日本のコメとタイプが違うので、粥にされる。
▼小島昌太郎『支那最近大事年表』S17-5
 1840~1941までの年表。対外人テロや武器輸入を記載。
▼『歴史公論』第6巻第7号(S12年6月)
 支那事変が起きた1937年時点で、シナのあちこちに、まだ「投げ棄て葬」が残っていること。さらに、各種の残虐な刑罰も、昭和12年にも残っていたこと。たとえば「流行」という姦通罪に対応した刑では、女子は○○に○を○○され、その傍らに男子の生首をのせた戸板が、三峡間の江上に下される。銃殺は必ず跪坐姿勢であること。などなど。
▼萍[ひょう]葉登『支那侵略者英米財閥』S16-11
 ユダヤ系 Sassoon 財閥や、怡和(EWO)洋行=Jardine Matheson & Co., Ltd.について詳しい。ドイツのハンブルクの Carlowitz(礼和) & Co. は1846に上海進出した。
▼響堂新『飛行機に乗ってくる病原体』2001
 著者は元医師。
 ウィルス性出血熱が渡り鳥のダニについていると、水際阻止は不可能であること、などなど。クレゾールは細菌にのみ効くが、エタノール、ヨードはウィルスにも効くこと。
▼甲斐克則『海上交通犯罪の研究』2001
 S63-7-23の『なだしお』事故をふりかえった、わかりやすい総括。
▼加藤繁『支那学雑草』S19-11
 城郭の話が満載。
 長江マフィアの出発点は、旅人の護衛および財物護送を商売とした「標局」であることも。
▼東浦庄太郎ed.『西伯利戦時写真帖』上・下 大8-4(哈爾賓)北満州社pub.
 国会図書館が昭和13年に受け入れている激レアな写真集です。
▼黛治夫『海軍砲戦史談』
 筆者は、麻式機銃、3年式機銃、「一番型拳銃」、陸式拳銃(南部式)も教えられた。1916~1919のハナシ。※「一番型」とは海軍の呼称だったのかと分かるでしょう。
 砲身に敵弾が当たるとくの字になる。たとえば『吾妻』。竹輪をちぎったようなのは腔発。
 40サンチ91式徹甲弾には「毒ガスのスペース」がしつらえてあったこと。
 日本海海戦の敵前回頭には危険はなかった、と、既にこの本で書かれていたのです。
▼『帝国海軍機関史』復刻版
 幕末から昭和5年までをフォロー。
▼〔補遺〕『核兵器と外交政策』1958年訳版、原“Nuclear Weapons and Foreign Policy”by Henry A. Kissinger, 1957
 ※以前にUPした摘録は8章以下。今回のは7章以前の部分。以って〔補遺〕とす。
▼ペティ『政治算術』大内兵衛・松川七郎tr. イワブンS30-8、原1690
 訳者のあとがきによれば、労働が富の父である、と最初に言ったのがペティ(W.Petty, 1623~87)。また本書は、近代の経済統計学のオリジンの一つ。※時の英国の最大の課題は、急に力をつけてきたオランダとどう戦い、かつ、付き合うか。すなわち今の日本の立場と重なるでしょう。
▼トーマス・ペイン『コモン・センス 他三篇』小松春雄tr. イワブン1976、原1776-1
 コッカスパニエルの spaniel には、「追従者」という意味がある。※だから、ディズニーの『わんわん物語』の Lady のキャラにふさわしいのだ。どうして江藤淳氏はそんなブームに乗ってしまったのだろう?
▼(財)史料調査会ed.『太平洋戦争と富岡定俊』S46-12
 『陸奥』が沈んだブイ、あそこに『長門』があって、海軍省への直通電話があった。
 新造のDDとDEは、艦首を強化して対潜用衝角とした。これはWWIいらい英米がやっていることを、日本として初めて真似したのである。
 英士官は、全員が偵察の着眼をもっている。だから短時間の儀礼訪問でも、甲板厚、外板厚、鋲ピッチなどを目測して覚えて帰るのである。
▼宝文館pub.『郷土の地理 2』S35
 チベット問題が浮上する中、「日本のチベット」といわれた岩手県以北の昔の農業を偲びたい。ヒエ作について詳しい。
▼中島武『機械化の発展は土臺から』国防同志会pub. 初版S15、再販S16
 序文は陸軍技術本部部長の原乙未生少将。
▼加藤弁三郎『機械科学の驚異』偕成社 S16-5
 プラット&ホイットニー社の航空用ギア・グラインダーは、精度は「40,000分の1」インチ。約0.0006ミリ。
▼チェスター・ニミッツ&エルマー・B・ポッター『ニミッツの太平洋戦史』実松譲&冨永謙吾tr. 1992、原1960“The Great Sea War”
 MIに成功すればアリューシャンは失われるが、その逆は無意味だったのだから、日本は愚かだった(pp.66-7)。※はたしてそうだろうか?
▼防研史料『事変ノ教訓 第四号 砲兵訓練ノ部』S13-6
 F.O.で使えるのはペリ型の光学器材だけだ。それ以外は敵眼に対して暴露してしまって、やれたもんじゃない。
▼防研史料『戦法戦術等よりの教訓綴』
 日本軍の手榴弾は安全栓を抜くときに被帽も落ちてしまうことあり。そのついでに撃針も脱落し、不発となるものが多い。※だから沖縄で民間人の自決し損ないが多かったのです。
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が紹介し、他では読めないコメントを附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 東京都内の大きな図書館や、軍事系の充実した専門図書館に、毎日通うわけにはいかない人。しかし過去の軍事知識の cream をどうしても舐め取りたい……そんなシブい意欲のある貴男のために、「ここが特に珍しいポイントですぜ」とわたしが摘録したノートを作成しました。
 お忙しい貴男は、ご自分の時間を有効にご活用ください。1号200円で、スペシャルな知識のための時間を買ってください。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は200円です。
 バックナンバーも1号分が200円で、1号分のみでも講読ができます。
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 以下は雑談です。
 いま、年間になんと7万点もの和書が、新しく出てくるそうですね。
 この内容を全部把握するなんて、どんな本好きな日本人にだって無理でしょう。ぜんぶに目を通すことすら、不可能だ。
 それなのに、分厚い新刊本の書評が、単行本の発売直後に月刊誌に載るなんて、もうインチキ以外にあり得ないと思いませんか? その通り。それは「良書」として書評者や編集者が7万点のなかからピックアップしたのではなくて、書籍の版元と結託した雑誌社サイドが、プロモーション活動そのものとして書評担当ライターに対して「これを書いてやって!」と指定をしているのです。
 もし良書を選別してからライターに書評原稿が発注されて、それが掲載されるとすれば、刊行から3ヶ月とか半年くらい後になるのが自然でしょう。しかし1ヶ月以上も経てば、書店側では売れない本を棚から撤去して返本作業にかかりますから、それじゃ版元の営業の間に合わぬわけです。
 わたしは、良著は、刊行されてから1年以上してからその真価が評定されると考えています。書店に出てから1年以内に印刷されている書評なんて、自分が書いたものを含めて、信用しません(w)。
 たとえば拙著『逆説・北朝鮮に学ぼう!』は、週刊『朝雲新聞』を除けばどこにも新刊紹介も書評もされていないと思いますが、1年、2年と経つほどに予言の的確性が知れ渡り、やがて古典の殿堂入りが果たせるかも知れないと思っています。