◎「読書余論」 2009年5月25日配信号 の 内容予告

▼Lester・B・ピアソン著『国際政治と民主主義』皆藤幸蔵tr. S31
 原題は“Democracy in World Politics”.
 ハンチントンにはネタ本があった。これはそのひとつ。早くも1955年に、これからは同じ文明内の国家間には大きなトラブルはなく、異文明の間に戦争が起きるのだと予言しています。
▼八代昌一『幼年学校の教育』S19-4
 地方幼年学校によって、教えていた外語が違っていた。東京では独語を教えていなかった。
▼水木森也『軍馬の譜――文字で見る文化映画叢書 4』S18-1
 靖国の例大祭の翌日には軍馬祭をやっていた。
▼一橋大学経済研究所附属日本経済東京情報センター『明治徴発物件表集成 別冊』1990
 要するに国勢統計の宝庫である。
▼武富登巳男ed.『久留米師団召集徴発雇用書類』1990 
 馬の召集令状として、馬匹徴発告知書があった。
 自動車も馬なみに徴発した。
▼宇佐美ミサ子「幕末期における宿・助郷人馬の徴発」『日本地域史研究』S61所収
▼山路愛山(彌吉)著『基督教評論 日本人民史』山路平四郎校注、S41、イワブン
 古本で入手可能ですが、旧かな旧漢字で細字ビッシリ。しかも後半はカナ文の草稿なので、現代の若い読者だと、ちょっと見ただけで投げ出すでしょう。被差別民=隼人=異民族(白丁)=島嶼漁民だったのではないかという説は、クリスチャンで文明史論家の愛山が思いついて晩年まで考究したもの。佐伯=アイヌ説まで唱えています。
 「耶蘇傳管見」は、山路が1905-8から西暦0年へタイムスリップして新訳聖書の時代を見てきたというSF趣向で、イラストレイティヴ。
 満州語と日本語の比較考は、まちがいなく後の司馬遼太郎を大いに刺激したでしょう。
▼『櫻井忠温全集 第一巻』S6-2-25、誠文堂
 「肉弾」と、その英語版、独語版をも収む。他に教育勅語全文の英訳、軍人勅諭全文の英訳、対露宣戦の詔勅全文の英訳が附録されている。
▼『櫻井忠温全集 第二巻』S5-10-10
 「銃後」と、謎の翻訳「前線十萬」(ヤン・ヘイ著)を収める。
 旅順に有刺鉄線は普通にあったのかどうかの疑問が、これでやっと解けた。
 「前線十萬」の世界は、「のらくろ」連載企画のヒントになったと思われる。
▼『櫻井忠温全集 第三巻』S5-12-15
 「煙幕」の中に「先陣争ひ」「まぼろしの殺人」「秩父の山うるはし」(映画梗概)などあり。リアルには文才のない人であったと誰でも分かってしまう。
 「雑嚢」はWWI中のトピック集。その意味でのみ貴重。
 サイレント脚本「赤城の夕映え」。これはモデルが存在した。
▼『櫻井忠温全集 第四巻』S5-11-15
 「草に祈る」。この挿絵を右手で描いているように見える。ハルピンの軍事図書館の3万冊の蔵書が、旅順図書館に移された。
 「秋風録」、「前肉弾」、「草に祈る」(映画筋書)も所収。
 「黒煉瓦の家」は必然性不明な創作を混ぜているので要注意。
▼『櫻井忠温全集 第五巻』S5-9-13
 「新篇 将軍乃木」。じっさいに何度も乃木に面会しているので、エクスクルーシフな情報が含まれている。
 「橘中佐」映画脚本。中佐はとうじの東宮誕生日の8-31に戦死した。それが作中で非常に強調されている。米国務省はこの映画から、あるヒントを得たのではないか?
 「十字路」のなかに、『肉弾』と『銃後』の中間期に投稿した雑文が数点、混ざっている。「波止場鴉」など。読めば、櫻井の周囲が櫻井を不快に思ったのはあたりまえだと分かる。反軍的というよりも、本人のダウナーっぷりが正直に出すぎているのだ。
 「落第生」は、陸軍将校生徒採用試験を採点者の立場から語るインサイダー情報で、貴重。ひやかし受験の多かったことが分かる。
 「流浪の人」は、「赤城の夕映え」の元作のようだ。
 代々木の衛戍監獄の見学リポートは貴重。
 「老小使」は、上野戦争に参加したものの逃亡した老人からの聞き取り。ちなみに山路愛山の父は上野から函館まで転戦した。櫻井の父も同世代。
▼『櫻井忠温全集 第六巻』S6-1-25
 「土の上・水の上」。その前半1/3は「蛙の鳴く頃」として新聞連載された。
 忠勝の末裔で大阪外語の英語教師・本多平八郎が同行。
 カーライルの旧宅を訪ねてサインブックを見たら、M41=1908-8-6に、海老名弾正、本田増次郎、そして兄の櫻井鴎村が一緒に訪ねていた。
 チャップリンに面会。すでに日本訪問が予定されていた。日系人の情況。
 アムステルダム五輪中、郊外閉居のカイゼルに会おうとして執事に阻まれる。
 「顔」(自叙歴)。日清戦争の捕虜も松山に収容。『坊ちゃん』の山嵐は、数学の教師の渡部だと思う。秋山大将は、野人そのままだった。
 「大調練時代」。たぶん新聞班長としての執筆。
 本人による「製作年譜」。
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 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
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