◎読書余論 2009-6-25 配信予定の内容

▼ジョージ・ケナン『ロシア・原子・西方』長谷川才次tr.
 1957年BBCラジオ連続講演の原稿。間接侵略について考える場合の面白い資料であるので、エッセンスをご紹介しよう。
▼メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』森下弓子tr.
 まだ1831年の想像では、人造人間は死体のパーツを寄せ集めてつくるものであった。しかし細かいところの再生がむずかしいので巨人につくる、とする。
▼カレル・チャペック『ロボット(R.U.R.)』千野栄一tr.
 1920’sになると、等身大でゼロからこねあげる有機物の人造人間が考えられた。しかし作者生前に、ロボットという造語のイメージが、金属のヒト型無生物に変わってしまう。このオリジナル劇の演出担当者が戦前に聖路加病院も設計したのだという。それが占領軍の「米軍病院」として接収された。
▼テア・フォン・ハルボウ『メトロポリス』前川道介tr.
 映画『マトリックス』のキャラ「エージェント・スミス」の原型は、最初に1920’sに登場しているのだ。「痩せた男」として。
▼ハインライン『動乱2100』矢野徹tr.、原1967
 未来の米国は、狡猾な宗教団体が専制統治していた! この炯眼。インサイダー叛乱兵の心得を説くくだりは、スパイと憲兵の初歩参考書と言っていい。閉鎖組織から信用されるには、日頃から風紀犯罪を犯しておけ! 著者が『メトロポリス』から影響を受けていることもハッキリします。
▼H・G・ウェルズ『解放された世界』浜野輝tr. 原1913
 なんと第一次大戦前からリアルに「原爆」後の政治をイメージしている。これを読んでいたシラードがロンドンの街頭で連鎖反応のアイディアに想到し、マンハッタン計画の原爆を設計できたという。恐るべし! SFを甘く見ている国家は亡びるはずだ。
▼Arthur C. クラーク著『幼年期の終わり』池田真紀子tr.
 この世の終わりと死者の蘇りの意味とは何なのか。全世界のキリスト教徒の普通の疑問に答えようとしたトンでも解釈。
▼アイザック・アシモフ『聖者の行進』池央耿tr.
▼アシモフ『ロボットの時代[決定版]』小尾美佐tr.
 金属製ロボットをフィクションで定着させたパイオニアは誰なのか、アシモフ先生にも分からないらしい。
▼アシモフ『夜来たる』美濃透tr.
 すごいといわれているが、新約聖書と無縁の文化圏でこれを評価するのはおかしすぎるでしょ。
▼アシモフ『われはロボット[決定版]』小尾芙佐tr.
▼スタニスワフ・レム『ロボット物語』深見弾tr.
▼S・レム『すばらしきレムの世界1』深見弾tr.
▼レム『エデン』小原雅俊tr.
▼スティルウェル(Joseph W. Stilwell)著『中国日記』みすず書房
 シナ軍の性格をリアルに知りたい者には必読の一級資料。四星大将(つまりパットンより上)のスチルウェルは、〈蒋介石はヒトラーだ〉〈抗日により熱心な中共軍へ米国の武器を渡そう〉と主張してローズヴェルトによって解任された。「コミンテルン陰謀史観」に癒されたい単細胞ニワカ保守たちにとって、この書はとうてい飲み下せない苦い薬だろう。
▼○○大尉記『眞珠灣潜航』S18-5、読売新聞社
 昔の呂号潜水艦には、艦内に厠がなかった? あと、機関長の○○って、どなた?
▼尾崎士郎『日蓮』S17-2
 この教徒も愛国的なんすよという戦時中の国内宣伝。尾崎士郎は法華信者の『石田三成』も小説化しているから、単なる商売ではない?
▼W・フォークナー『兵士の貰った報酬』S31-4
 つまらぬ小説は数行の摘録でじゅうぶんだ。
▼中薗英助『在日朝鮮人』S45-3-25、財界展望新社
 書き下ろしが半分、『世界』などの雑誌に発表したものが半分。対馬について考えたい人はコレ必読。祖国防衛の兵役から逃亡し、さりとて他国に帰化もせず楽をしようとする連中に、自由主義的寛容を適用しちゃうのは、シンプルに民主主義の自殺だろうね。存在そのものが間接侵略。
▼フランシス・フクシマ『人間の終わり――バイオテクノロジーはなぜ危険か』2002-9
 あなたのその性格は変えられます。……クスリで。
▼『ホフマン全集 第四巻I』深田甫tr. S57
 ロボットを考えるにはホフマン作品も一覧すべし。
▼『ホフマン全集 第四巻 II』「自動人形」
▼梅内幸信『悪魔の霊液』1997
 これもホフマン諭。
▼『鴎外全集1』「玉を懐いて罪あり」
 鴎外はM22にホフマンを訳していた。
▼『ドイツ・ロマン派全集 第三巻 ホフマン』1983
▼ベルゲングリューン『E・T・A・ホフマン』1971
▼吉田六郎『「我輩は猫である」論――漱石の「猫」とホフマンの「猫」』S43
 絶対にインスパイアされてた筈。しかしそれをうまく隠せるのもプロ。
▼『化学工業』1992-10月号
 明礬山について。つまりボーキサイト以前のアルミ資源。
▼『初動要員のための 生物化学兵器ハンドブック』2000-9
 トリアージの実際。ちなみにアシモフの『聖者の行進』を読んだら、1975にすでに米国雑誌でトリアージュが紹介されていたと書いてある。すごいね、あの国は。
▼厚川正和『模型で再現する 軍用鉄道の世界』平10増補改訂版
 まったく余談ですが英文サイトで初期のディーゼル機関車を検索してみると、カナダがWWII中に装甲列車をつくっていたことが分かるよ。アラスカから日本軍がやって来ると警戒したらしい。
▼『日立兵器史――一軍需会社の運命』H4-9
 1式重機のことなど。それにしても銅金義一の大佐以前の経歴がネットでヒットせんのはなぜ? 謎が多すぎるぜ。
▼昭和金属工業(株)『50年のあゆみ』1993
▼『旭精機工業40年史』H5
 戦前戦後を通じての小火器弾薬メーカーです。
▼戒能通孝『国と家』S30-1
 平和は悪魔にふさわしく、戦いはキリスト者にふさわしい。
▼東京学芸大 哲研『自我』S57
▼菊田芳治『近代の自我をめぐって』1992
▼我妻洋『自我の社会心理学』S39
▼宮内豊『反近代の彼方へ』1986
 19世紀、出稼ぎしているスイス人に、ある精神病が流行した。それが「ノスタルジー」。
▼大島通義『総力戦時代のドイツ再軍備』H8
 ドイツには機密文書を燃やしてしまうという文化あり。試作兵器類の写真は全部残しながら、収容所関係はヤバイと判断していただろうね。
▼大田黒元雄『歌劇大観』S26
 SPレコードしかない時代にオペラの評論家になるという壮挙が可能だった豊饒な戦前……。
▼二村忠臣『健康増進 競歩研究 歩行と体育』大14-6
 江戸時代、速く遠く歩くには、菅笠の被り方にすら気をつける必要があった。「ナンバ」は嘘だということを確信できる。
▼『文部省推薦認定レコード目録 第六輯』S14-8
 爆笑モンの「童謡」タイトル集。今日では政治的に正しくなさすぎて絶対にリリース不可。
▼山県昌夫『戦争と造船』S18-5
▼三島海雲『日本の水』S9-10
 西洋では水は不潔なものに決まっていたから宗教儀式で香油を使う……というが、だいたいバプティズムというのがインド宗教の西漸だったんじゃないの?
▼水の江瀧子『白銀のダリア』S11-6
 芸名の由来が人麻呂。
▼安積幸二『火薬』S17-12
▼前田一『サラリーマン物語』S3-3
 帝大と慶大卒ではいかに待遇に格差があったか。当時の小学校教師は国家公務員と互角の初任給。などなど。
▼南條初五郎ed.『航空発動機』S12repr.、初版S10-10
 航空用ディーゼルの情報多し。
▼A.W.Judge著『高速ヂーゼル機関』S20-3、原1933
 タイトルが、二十数年前、渋谷のヂーゼル機器さんから就職内定をもらったことを思い出させる。それをすっぽかして神保町の戦車マガジン社へ……。嗚呼、人生は分からんぜよ!
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 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
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