拳ギカイ

 「ディフェンス・ニュース」がAFPの報道を伝えている。また韓国政府が「7月下旬に宇宙ロケットを打ち上げる」と6月2日に発表したのだ。「またかよ」という感じだ(このコーナーを初めて見た人は、4月まで遡って関連記事を読み直すように)。
 AFPによれば、まだブースター(ロシア製)とサスティナー(韓国製)の結合作業すら始まっていない。だからまた話がお流れになる可能性もあるのだが……。
 しかし、これで北鮮が7月上旬以前にミサイル・スターマインの大イベントをやらかすことは確定した。半島人にとっては、宣伝と現実の区別はない。ソウルが発表した以上、北鮮は、対抗してやってみせねばならんのである。北鮮の最近の行動は、すべて対韓国を意識した見得っ張りならざるはない。
 ロシアが4月末に写真フィルム回収型の偵察衛星「コスモス2450号」をわざわざ打ち上げたのは何のためかと思っていたが、それをするだけの価値は確かにあったとも分かってきた。
 北鮮がその西海岸に指定した立ち入り禁止区域は、大気圏内核実験をするには範囲が狭すぎる。また、大気圏内核実験をすれば、彼らの所謂「原爆」なるものの未熟な正体がバレてしまうので、結果が恐ろしくて踏み切る勇気はないだろう。しかし夏の風はシナの方へ向かって吹いているので、やるならば冬よりもインパクトがありそうだ。もちろん、平和的国際市民の世論は600カ国協議を3000回くらい開催して、あと15年くらいは北鮮の核武装宣言を認めてはならない。
 自民党の不勉強で恥さらしな議員たちが、〈海上から巡航ミサイルを発射して北鮮の弾道弾を先制破壊しよう〉と唱えだした。防衛省のいちおうエリート官僚には、国会議員たちに事実についてレクチャー申し上げて教育してやる器量はないのだなあ、と、列強は憫笑している。
 米国は英国以外には巡航ミサイル「トマホーク」を売ったことはない。トマホークは開発時点から核兵器運搬手段とみなされてきており、それを、すでに核を保有している同盟国(英国)以外に売ることは、「核不拡散条約」違反なのだ。だから核武装していない日本がそれを買える理由はない。するとオプションは国産か、ハープーンの改良しかない。すると場合によっては弾頭に搭載できる炸薬が200kg未満になってしまう。1トン爆弾でも敵の弾道弾を破壊するのは容易でないというのに、どうする気なのだ? そもそも、ハープーン級では、日本海から発射して北鮮の西海岸や鮮満国境の山地内に届かない可能性がある。
 トマホーク級にせよハープーン級にせよ、巡航ミサイルの飛翔スピードは、ジャンボジェットと略同じである。そう、議員さんたちが海外視察で乗りまくっている、着陸までにイライラするほど時間のかかる旅客機と、同じなのだ。北鮮の東海岸に到達するまでにも1時間。そこから西海岸の「東倉里」まで低空を15分間飛行しなければならないだろう。
 いくら糸電話クラスの幼稚なレーダーしかない北鮮の防空軍と雖も、巡航ミサイルが領土上を飛んでいることくらいは、光学式早期警戒システム、すなわち倍率3倍の支那玩具公司謹製の100均双眼鏡で察知できるだろう。ノロシもしくは駅伝によって急警をうけた弾道弾発射部隊は、発射車両ごと山のトンネルに入るか、深い谷に隠れるか、橋梁や偽装網の下に潜るか、できれば着弾の前にさっさと発射する。もちろん近くには、石ころを積み重ねてつくったダミー・ミサイルも置き並べてある。
 魚雷発射管サイズの巡航ミサイルに搭載できる炸薬200kgから700kg(まあ日本の技術では無理して300kgがMaxだろうが)では、敵の発射機(TEL/MEL)の直近で炸裂しない限り、発射前の弾道弾を破壊できるかどうかは覚束ない。20m逸れたら、地形・地物の摩擦や、地中へのめり込み過ぎで、敵は無傷ということも起こり得る。
 巡航ミサイルで地上の車両を狙うとしたら(そんなことやってる国はどこにもないが)、終末弾道はホップアップ機動から急角度での落下、としなければなるまい。標的が走行中であれば、巡航ミサイルの空力制御では、とうていダイレクト・ヒットの見込みはない。200m内に落ちれば恩の字じゃないか。
 北鮮の弾道ミサイル発射部隊は、必ず山岳地に展開する。その谷間を縫うように巡航ミサイルを突っ込ませた場合、GPSの4衛星からの電波を同時には受信できなくなることが考えられる。つまり最も必要な精度が肝腎のときに得られないおそれがある。
 日本の防衛のためには、日本独自の電波航法支援手段が必要なのだ。準天頂衛星やモルニア衛星の投入、それから既存のテレビ局やラジオ局の施設の利用、さらには廃止の方向に向かいつつあるロランC局の再構成を工夫することによって、それは初めて可能になる。それとM-Vロケットの復活を考えずして「先制攻撃」論など絵に画いた餅だ。