ひさびさに内局を見直す

 田村代議士のブログにこんどの自民党の案が観測気球として全文紹介されていたのを、はじめは興味がなかったが斜め読みするうちに、ペーパーワークに狩り出されていると思しい少壮内局官僚たちが籠めているテンションが伝わってきて、面白く感じました。
 そこらのブログでしか唱えられてないような案までぬかりなく投網をかけて盛り込まれていたのは「これぞ官僚作業の手本」と感心しました。戦前の陸軍大学校で連続不眠不休の図演を何度もさせて、その成績を参謀人事に反映させたのも、こういうまとめ作業を徹宵集中して15兆円補正予算の決定以前にそつなくやってのけられるほどの人材を、軍の未来のために選ぼうとしたのだよね。(オレには無理。)
 しかし、そこで新たな疑問だ。こういう馬力作業ができる官僚が内局にいるのに、どうしてF-Xではこんなグダグダなことになっちゃってるんだろう?
 やっぱり最有力アドバイザーたる空自幹部に contingency plan の発想が皆無だったのかと疑わざるを得ない。リアルワールドに暮らしてはいなかったんですよ。
 メーカーが学習機会としてF-Xを捉えていて、最先端エンジンを欲するのはあたりまえですよ。しかしメーカーには国防の第一義的責任はない。あるのは制服軍人です。
 制服軍人なら常に contingency plan を抱懐していなくてはならない。この熟語は、しっくりとくる日本語にはなっていないでしょう。記号論的に解けば、日本の伝統文化には contingency plan の発想がなじまないものだから、それを表わすコトバも自生しなかったわけでしょう。
 つまり脇目をふらずに思い込み、正面の一分画だけにしか目配りしないという、どこか朝鮮人的な視野狭窄が、まだ日本人にはあるわけ。(そういえばAFPの報道で、韓国ロケットが7月30日打ち上げだと。ところが射場の完成が6月10日で、ロシアのブースターは来週やっと届けられるんだと。オイ、ぶっつけすぎるだろw)
 某年某月までにF-22の導入の目途が立たなければ乙案、それがだめなら丙案、丁案、戊案と、数段構えのプランを腹案として決めておくのは、リアルワールドを相手にする者として、当然の心構えでなくてはならなかった。空自幹部にはそれは無かった。軍人失格です。押し切られた内局も、もう威張っちゃいけないね。
 「しんしん」(siとshiの違いはあるが、きっと米国人にとっては、有名な刑務所みたいに聞こえます)がF-4リプレイス候補のオルタナティヴとならぬことは、空自のタイムテーブルから自明でした。「しんしん」は米国メーカーからステルス技術の秘密を分けてもらうための、三菱重工としての資格証明書のつもりだったのに過ぎぬと、誰でも想像できましょう。ところが米国指導層の慮りは、ステルスやエンジンの設計図なんかじゃなかったんでしょうね。設計図にならないソフト部分が日本人に知られるのを恐れたと思います。シナへの漏洩ではなくて、日本人に競争力をつけさせるのを恐れた。
 このまえ廣宮孝信さんが〈日本の経済コメンテイターが「経営」と「経済」を同一視するので日本は損をしてきた〉とおっしゃっていたが、フツーの国である米国の指導層は、「経営」と「政治」を同一視してません。F-22のメーカーの経営者がそれを輸出して自分のボーナスを稼ぎたいと思うのは自然です。しかし米国指導者は、それは米国の損になると判断すれば、軍需産業の腰掛け経営者たちをオーバーライドするでしょう。
 ロシアもシナも、米国のトマホークの不発弾を、パキスタンその他から買い取っているはずです。何年もリバースエンジニアリングに挑んだはずだが、同格性能は再現できていません。最先端兵器の秘密は、じつは設計図などにはもう無いのです。
 おそらく仕様書にだって肝腎の秘密は(分かるようには)書かれていない。外国人には解けない秘密がどこかに埋め込まれていて、それが兵器の価値と威力の担保となっている。
 ライセンス生産を外国に許すとすれば、その埋め込み秘密の秘匿措置をいくら(相手国に費用を出させて)特別に講じておいたとしても、生産の試行錯誤の過程で、あたかも暗号解読のようにしてそれが盗まれるおそれがあるでしょう。相手が三菱重工のような高度なスキルをもった企業なら、なおさらそれが心配になるでしょう。つまり見せ金としての「しんしん」は、F-22の秘密を教えてもらうという交渉目的にとっては、逆効果にしかならなかったのかもしれませんね。
 自民党案に話を戻しますが、なんでOTHレーダーの提案が無いのか?
 先日、ブラジル沖でフランス機が行方不明になったときに、DSPとSBIRSが被雷爆発時のブラスト赤外線を記録してるんじゃないかというので仏から米政府にデータ提供が要請されたらしい。ところが2009-6-9のDavid A. Fulghum氏の記事によると、この2種類の早期警戒衛星は雲の下の赤外線探知は苦手だから、これからのMDのためには無人機にIRセンサーを積んで雲の下を飛ばすことが検討されているとあります。いま試験飛行中のロングスパン型グローバルホークでしょうね(これがU-2を代置するのは間違いないでしょう)。赤外線衛星は、下に雲があると、弾道弾が高度1万mの雲のないところへ飛び出してくるまで、ロクに探知ができんという。そんなもの10年後に保有してどうすんねん。雲の下の探知が最も早いのはOTHレーダーなんだから、日本はサッサとそれを持つべきでしょ。巡航ミサイルの移動もトラックできるしね。
 それからこれは前からの不満なんだけども、防衛白書とかでシナ軍の勢力について書くときに、内局は、SIPRIとかミリバラなんかを引用して済ましてるでしょ。大蔵省説得の最終根拠が西洋文典しかないというので日本の官僚がこういうガチガチの引用主義に陥るのは理解するんだけども、世界に対して恥ずかしくないのか? 日本自前の偵察衛星が1基も無いときならば外国文典の孫引きで許されたけども、偵察衛星を持って何年も経っているというのに、いったい何やってんだい?
 シナ軍が東京に狙いをつけている水爆搭載の中距離弾道弾が何基あるのか、そんな大事なことも衛星でつかめないらしいのに、北鮮のトンネル内のTEL/MELを把握できるとは、妄想も甚だしい。
 ついでの雑話。ディフェンスニュースへのAmy Butler氏の寄稿によると、MD実験用の標的に使われている、古いポラリスとトライデントの調子が、メチャ悪らしいね。即応性が高いといわれている固体ロケットも、貯蔵しているうちには、こうなっちゃうんだよ。つまり長期信頼性では、液燃式の方が優っているという再発見ができた。ロシアのこだわりにも、実利的な理由があったのだねえ。