◎読書余論 2009-7-25 配信分の内容予告

▼『都留重人自伝 いくつもの岐路を回顧して』2001
 日米開戦時の交換船に乗るときにピアノ曲の楽譜まで没収された、だとか、戦中の米国の情報保全の空気が生々しく語られる。ハーバードに日本人留学生が一人も居なかったときの様子も知られる。2回本書を読むと、著者がどの事暦に深入りをしたくないのかがピンと来るようになる。サラッと書いて通過しようとしているところが、いちばん表現に苦心しているところなのだ。
▼佐枝せつこ『ベッド・イズ・バッド』2005-4
 キャラが立っているのがお見事。労作なのに読む側を疲れさせないのも偉い。福祉予算逓減がそろそろ止まりそうなので、記念紹介します。
▼八木谷涼子『キリスト教歳時記』平凡新書2003
 クリスチャン総理が降板しそうなので、記念紹介しときます。
▼本庄陸男『石狩川』S14-10-25普及版、原S14-5-3
 大正いらいの〈社会科学〉系参考書の文章リズムがこの小説をつまらなくしている。にもかかわらず、明治初期の武士の動作がありありと目に浮かぶように写生されているところは意外な収穫。そしてこの出版は、近々対ソ戦を予定する参本が、世論をまとめるための国内工作として資金を援助でもしているのではなかろうか?
▼関口哲平『選挙参謀』徳間文庫2004、原2001
 本書が取材している横須賀市に最年少市長が誕生したというニュースを聞き、記念紹介する。都知事選での大前研一氏の敗因分析も必聴。インターネット上で完結しているオピニオンなどリアルの選挙結果には何の影響もない。そんなものは「運動」ではないからだ。
▼防研史料『昭和十五年度 飛龍関係資料』
 空母の『飛龍』の激貴重メモ帳。
▼防研史料『海軍航空機関係ノート』最終日付S20-5-31
▼防研史料『支那空軍拡張の実状と其の影響』関根郡平大佐、S8年9月
▼防研史料『米国空輸部隊ノ概要』軍令部第三部、S19-2
 落下傘部隊のこと。「空挺」という言葉は海軍用語にはなかったのか?
▼防研史料『現状報告』海軍航空本部技術部 S11-11
▼アンダースン&ビースン『臨界のパラドックス』内田昌之tr. 1994、原“The Trinity Paradox”1991
 なんともつまらぬSF小説だがスチムソンの年寄りぶりなど珍な取材成果が捨て難いので紹介する。取材のように見えるフィクションには気をつけよう。
▼ウォルフガング・ロッツ『スパイのためのハンドブック』朝河伸英tr.1998、原1980
 書いた人物よりも編集者の才能に敬服する。書籍は束が厚ければよいというものではないことの一例。
▼横光利一『上海』原S7-7、講談社文庫
 女房持ちが書いたとは信じられない、受け身の男がラッキーなアクシデントに次々見舞われるというラノベ式冒険ごっこ小説。しかし満州事変直後の上海の相貌が分かりやすくリポートされているので紹介しよう。
▼平松茂雄『中国、核ミサイルの標的』2006-3
 東風5用には偽サイロまでつくられている。人民公社とは核戦争でもシナ人だけは生き残るための壮大なプランだったのだが……トウ小平がすべてを変えてしまった。
   ◆ ◆ ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記、読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 東京都内の大きな図書館や、軍事系の充実した専門図書館に、毎日通えない人でも、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は200円です。
 バックナンバーも1号分が200円で、1号分のみでも講読ができます。
 2008年6月25日号以前のバックナンバーのコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net
 の「告知板」をスクロールすれば、確認ができます。
 ウェブサイトでわからない詳細なお問い合わせは、(有)杉山穎男事務所
sugiyama@budotusin.net
 へどうぞ。