新着の防衛白書(平成21年版『日本の防衛』)を読みて

 09年7月26日、遂にインドの国産核ミサイル原潜『アリハント』が進水した。これから2年間、ベンガル湾で試験してから就役する。6000~7000トン、95人乗組み、水中24ノット。同型艦が5隻造られる。90年代にロシアからレンタルしていた原潜で細部を学んだ。
 しかしインドが弾道弾を水中で発射するテストをしたという話が聞こえてこないので、すぐ対支の抑止力になるというわけじゃないだろう。
 それでもシナは焦っている。さきごろ、博物館級の「ゴルフ」1隻をスクラップにしないでまだ改装している写真が公開された。
 ロシアもかなり予算の無理をして、ICBMからSLBMへのシフトを図っているように見えるが、タイフーン級から陸上型の長射程固体燃料SSMを水中発射する試験は、立て続けに失敗中。SSBNは簡単なシステムじゃないのだ。
 インドは、シナやロシアと違い、大量破壊兵器を無責任に拡散させることがない。これが、アメリカの信頼を得ている。だから核武装もおおっぴらに認められているのだ。
 アメリカは、最新鋭海上哨戒機の「ポセイドン」を、インドに売ることにしている(白書はこの話を紹介している)。
 日本はインドよりも信用されていない。朝野に特亜loverが多すぎるのだ。昔は、東大がインドネシアに固体燃料の宇宙ロケットを売ろうとし(もちろん兵器に転用されるに決まっていた)、これが、米国によるミサイル不拡散レジーム策定のきっかけを成したほど。
 さて、日本の大スキャンダルになりそうなF-22問題をサラッと書き飛ばし、このインドのSSBN(建造計画は1年前から分かっていたはずだ)についてはまったくスルーしているのが、こんどの『防衛白書』の、目につく特徴だ。
 日本がシナのみならずインドにも劣った軍事的二流国となり、趨勢としてその国際政治上のパワーがずんずん沈降中であるという現状を正直に認めずして、どうして日本の防衛など語れるのだろうか。
 ここで普通の評論家なら「戦犯」をインサイダーに求める。だがオレは違います。今回は、戦犯として、大衆的人気を博した軽薄フィクションライターたちの業績をあげつらいたい。
 漫画家の松本零士さんや小澤さとるさんは、外国兵器礼賛はしなかった。健常な世代でした。意地でも国産兵器に活躍させるのが当然だと考える、日本がまだ大国であったころの大衆精神を持っていた世代です。
 健常ではなくなってしまったのは、『ファントム無頼』からです。(たしか松本先生のアシスタントだった人ですよね。象徴的だと思います。)
 その次に、かわぐちかいじ氏の、アメリカ製の原潜を海自の反乱分子が乗っ取って、アメリカ相手に暴れて溜飲を下げる、という変なマンガが評判になりました。
 次に来たのが、小説の『亡国のイージス』です。
 前後して、「トマホーク教」信仰も生じました。政治家が「トマホークを持て」云々と言うようになった。
 考えてみましょう。英国や、仏、露、支、独で、小説家やマンガ家が、よその国から買った最新兵器を、舞台装置・兼・準ヒーロー格にもして大活躍させるなんてこと、ありえますかい? 恥ずかしくてできないでしょう。
 長い時間をかけて、大衆の意識レベルから、かつて国際連盟の常任理事国、世界の7大国に列していた日本は、小国化したのです。
 大国の指導層がとうぜんに有し、大衆にも支持される「ダンディズム」がなくなってしまった。これをわたしは精神の非武装化と呼びます。それに、とうとう現実政治が追いついたまででしょう。
 諸悪の根源はマック偽憲法ですが、それを廃止できなかったのは日本の大衆です。
 防衛白書に書いてない、最新の世界情勢を、わたしが述べましょう。
 アメリカ合衆国は、〈シナと韓国と日本は同レベルの二流国だ〉と考えるようになりました。だから、この三国のうちひとつを特別扱いすることは、もうありません。この三国に「三すくみ」をさせ、できるだけ低レベルで地域均衡させて行くというのが、アメリカ合衆国の望みです。
 とうとう日本は、シナ人や韓国人と、同じ仲間だと見られるようにまでなったのです。落ちたもんですよね。でも、不愉快じゃないですよね。だって、国産機よりも「ラプター」を買え、と、マニアの人たちがずっと要求してきたでしょう?
 中共の軍事系ウェブサイトを見ても、「隠形」の「猛禽」のことばっかり、書いてます。そして、〈われわれシナ軍も、まったく同じものを造れる〉と宣伝しています。外形がそっくりのものです。心情は日本人と同じ先進国礼賛なのです。
 「三すくみ」は、半島が統一されていないからこそ実現可能なので、アメリカ軍は韓国軍の北進も容認しないでしょう。もし韓国が半島を統一すると、韓国の核武装が進展し、日本も核武装しないわけにはいかなくなり、地域の均衡の水準が一ステップ上がってしまいます。しかも三者とも、核技術を無責任にどこかの後進国に売ったり譲渡をしかねない。アメリカを狙う核テロリストが大増殖するのは、アメリカには一番困る。
 さて、09-7-24には、B-2ステルス爆撃機が2発格納できる3万ポンドの鋼鉄製地下貫徹爆弾(Massive Ordnance Penetrator)のテストの短報。充填炸薬量は5300ポンド、強化コンクリートも貫徹できるという。
 これはイランを脅かしているのか。それともイスラエルを宥めているのか。
 かんけいないけど、北朝鮮の炭鉱は地下1000m以上あるはずなんで、こっちをやっつけるためには「重い毒ガス」が必要になるだろうね。敵の地下組織壊滅のための重い毒ガスの使用は数十年も前にハインラインの小説で予見されているので、米軍のことだから、とうぜんに選択肢の一つだろう。毒ガスを放棄していない相手には、逆に毒ガスの脅しがリアリティを持ってしまうのだ。