◎「読書余論」の09-8-25配信分の内容予告

▼ハンナ・ライチェ『大空に生きる』S57朝日ソノラマ文庫版、原 Hanna Reitsch、“FLIEGEN MEIN LEBEN”(独語版1951年、初英訳1954年、初邦訳1975年)
 特攻グライダー桜花は、ライチェの1944案の有人V-1に基づいているとしか思えない。それどころか、特攻作戦そのものが、ライチェ起源ではないか。どうして本書がもっと注目されなかったのか? ライチェの記憶がしっかりしているうちに、なぜ日本人が本書の事実の日付に関する詳細な確認をしておかなかったのか、じつに惜しまれる。タイムテーブル的におそらく大西瀧治郎は、2隻の遣独潜水艦から齎されたベルリンでの「SO(自己犠牲攻撃)」議論を聞き知っていた。本書は絶版である。だからこの「読書余論」で、エッセンスを知れ!
▼防研史料『航空関係諸報告綴』
 敗戦時の爆弾調査。
▼防研史料 海軍航本・総務部長『S14年度 部外航空関係』
 テヘラン親善飛行その他。
▼防研史料 『昭和十八年 海軍航空本部関係綴』by 海航本
▼防研史料 横須賀海軍航空隊ed.『蘇国極東方面航空関係事情』S11-8
 おそるべき徹底的な調査。やる気だったんだねえ、海軍も。
▼防研史料『海軍航空本部技術会議 第一分科会 報告書』
 和田機関少佐、和田操大佐など勢ぞろいで「零戦」と「一式陸攻」の要求を討議している超面白資料。
 大西瀧治郎大佐と、機関大佐の櫻井忠武(櫻井忠温の弟)との、陸攻燃料タンク防弾問答はここに出ている。どうみても一式陸攻は、S12時点では葉巻型としては考えられていなかった。ではいったい誰がいつ何を参考に、あの葉巻型への大転換を決めたんだ? そしてそのとき、どうして大西の主張したような防火措置が講じられなかったんだ? とにかくこれを読めば、大西がすぐれた人だったと分かりますよ。
▼防研史料『海軍航空本部技術会議第一分科会 報告書』S12-3-25開催
▼防研史料『参考諸表』航本総務部長
▼防研史料『空威研究會報告』S13-3
 Air Power もしくは Air Force を大西ら海軍航本が直訳して「空中兵力威力」とした。
▼『空威研究会報告』S13-3-25
 この時点で和田操は少将・航本技術部長。大西は大佐・航本教育部長。
▼『空威研究会報告 別冊第一巻』
 不思議なのは、対地爆撃の相手国としてソ連しか想定してないこと。海軍なのに……。
▼防研史料 『空威研究會報告 別冊第三巻』
▼防研史料 『技術提携(駐独海軍武官)関係』S15-4-30~15-12-18 海軍航本
 いかに日本海軍がヒトラーべったりだったか、余すところなく立証してくれる史料。
▼防研史料 大西瀧治郎『航空軍備ニ関スル研究』海航本S12-7
 角田求士のメモが親切だ。
▼防研史料 『S19~20年 航空軍備』S20-2-16 海航本総務部
 烈風を放棄したかわりに紫電改を艦上機にコンバートしようとし、高高度局戦は雷電改にやらせようだとか、もう最後のあがき。
▼防研史料 『航空関係 資料綴 補給』S17-9-21航本決裁
▼防研史料 『支那事変関係 航空軍備 資料』S11-9~14-3
 支那事変初期の渡洋爆撃の使用爆弾数などが載っている一級史料。
▼Marjorie Kinnan Rawlings著、大久保康雄tr.『仔鹿物語』角川文庫 上下巻S29、原1938
 これは子供の絵本にもなってる話だが、日本のアニメ絵の絵本だと、イミフもいいところだ。なんと原作は、《アメリカ南部の狩猟全書》だったのである! ハンターおよびアウトドアズマンなら、情報要素を吸収しておいて損はしません。ちなみに原著は『バンビ』の後に出ている。原著者が『ウスリー探検記』(映画デルス・ウザーラの元種)の影響を受けている可能性もある。
▼『甲斐叢書 九巻』第一書房S49
 今川軍が負けた理由。
▼末國正雄・秦郁彦監修『連合艦隊海空戦闘詳報』1996-2
 戦訓部分の情報要素をピックアップしよう。
▼太平洋戦争研究会『20ポイントで理解する 日中戦争がよくわかる本』2006-10、PHP文庫書き下ろし
 文庫サイズの中に、ソース付き情報てんこもり。著者は出自が左翼系と思われるのだが、卒なくPHPに合わせている。労作。初学者なら、買って損はない。
▼岩永省三『歴史発掘 7 金属器発掘』1997
▼林巳奈夫『漢代の文物』1996(原1976?)
 漢代の刀とは、包丁のこと。
▼千葉徳爾『日本人はなぜ切腹するのか』1994
 切腹は古代の南シナの風習だった。
▼『犯罪学雑誌』S52-12月号所収・稲村博「古典における自殺の比較研究」
▼ロバート・シャーウッド『ルーズヴェルトとホプキンズ』I、II、村上光彦tr.みすず書房S32、原1948
 スチムソンは、満州事変の日本に対して、はじめて集団的抵抗を提唱した。 スターリンは、装甲車がジープよりも役立たずだと判断していた。
▼『九州歴史資料館 研究論集 17』1992所収・橋口達也「弥生時代の戦い――武器の折損・研ぎ直し」
▼國學院大學ed.『古典の新研究 第三集』S32所収・鈴木敬三「木弓と伏竹[ふせだけ]の弓」
 直線状の弓は引き絞ると折れる。それゆえ長弓化。
▼『日本史研究 416』1997-4所収・近藤好和「武器からみた中世武士論」
▼廣瀬一實『銃床製作の控』H3
 文献皆無な国友の火縄銃の銃床づくりを再現した。
▼高橋【石眞】一ed.『高野長英全集 第五巻』S55
▼酒巻和男『捕虜第一號』新潮社S24-12(二刷)
 これは売れなかった名著である。敗北を自己分析しようと思ったとき、そこに言語よりも正確なリアリズムがあった。敗戦文学こそ、日本の自然主義の、決してピークには達しない、果てしなく続く稜線だと思える。
 関係者の名誉問題(発狂した元『飛龍』の機関中佐とか、階級詐称野郎を帰還船から海中へ放り込んで殺したらしいとか)がおそらくあるのと、戦後に兵学校卒の経歴と英会話力を買われて三河のT自動車会社に雇われた著者が存命のためか、本書は文庫版にもなっていない。だから古本も高い。図書館で読むか、この「読書余論」でエッセンスを吸い取るしかない。
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。(配信されるファイルはPDFスタイルです。)
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は200円です。
 バックナンバーも1号分が200円で、1号分のみでも講読ができます。
 2008年6月25日号以前のバックナンバーのコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net
 の「告知板」をスクロールすれば、確認ができます。
 ウェブサイトでわからない詳細なお問い合わせは、(有)杉山穎男事務所
sugiyama@budotusin.net
 へどうぞ。