本当にあるずうずうしいお願い

Bernard Graefe, 1990, “VOM EINZELSCHUSS ZUR FEUERWALZ”
 という洋書をお持ちの方、その
p.68
 にある「1896年式 固定砲架野砲」とやらの図版を御覧になり、
それが、日本陸軍が明治31年に制定した「三十一年式野砲」と、
特にリコイルシステムが、どのくらい似ているものか、至急に、わたくしまで、お知らせくださいませんでしょうか?
 ちなみに三十一年式野砲のリコイルシステムは、単箭の尾部内部にある筒(皿型バネが何枚も重ねて入っている)の圧縮バネに結合された左右2本のワイヤーロープが、発射反動で後ろに回転する2輪のハブ内側のキャプスタンにギュッと巻きつき、それが、バネが戻る力によって車輪を逆回転させて砲車全体を元位置に復座させるという、インターネットではまずヒットしない、独特なシロモノです。
 これが有坂成章の独創であるのか、それともクルップかなにかの真似であったのか、決定的な情報をお知らせくださった方には、10月頃にできる見通しの『有坂銃』のNF文庫版(改訂版)が刊行されました暁に、サイン入りで進呈いたし度いと存じます。
 じつは上記洋書の情報はある有名な御方から1999-3-10にご教示を賜ったのですが、洋書なんて買えない貧乏暮らしが長かったため、今日の今日まで確認努力を怠ってきました。まったく情けないッス。(この御方は「それじゃコピーを送ってください」と気楽に頼めないくらいに偉い方なのです。ぶっちゃけ、長谷川慶太郎さんです。)
 以下、余談。
 小生が「近代未満の軍人たち」を連載しています『表現者』の最新号(vol.26)が昨日届きました。お盆進行なんですね。
 この中に、平沼赳夫、中川昭一、安倍晋三の現役代議士が出ている座談会があったんですが、その3氏の中で、安倍氏が、世襲問題のみならず軍事に関しても、いちばん「おかしく聞こえない」発言でまとめているのに、感心しました。
 ほんの一部を摘録しましょう。
中川「……、正直言って中国の方が日本よりもGDPが上というのは、許せないとは言いませんが(笑)、厄介なことです。……」(p.129)
平沼「……。例えば中国の原子力潜水艦が、アメリカの機動艦隊の五マイルのところまで接近した。……。しかしこれは軍事的に見ると、五マイル以内に近づいたということは、原子力潜水艦には核弾頭がついていますから、アメリカの機動艦隊を破壊することだってできるという、そういう情勢になっている。……。……台湾によく行きます。そうすると台湾海峡を目指して、中国の中距離ミサイルが千三百発配備されているんです。毎年二百五十発ずつ増えている。角度をちょっと日本のほうに変えれば、日本は射程に入るわけです。……」(p.132)
中川「……。空からくる核も恐いですけれども、やはり潜水艦の持っている核が物凄く恐いわけです。これは中国とロシアですね。そうすると戦略型原子力潜水艦に対抗できるのは、それを防ぐための、名前が誤解を招くんですが攻撃型原子力潜水艦です。……、これを日本が持つか持たないか。原子力潜水艦というのは非核三原則とはちょっと違います。……、私はこの攻撃型という名の防御型原子力潜水艦を一刻も早く日本も持つべきだと最近強く思っています。」(p.133)
中川「僕も核廃絶が究極の目標だと思います。だから日本は核を持つべきなんですよ。極端に言えば世界中が持てばいいんです。そうすれば止めますよ。それしかないと思う。」(p.141)
安倍「……。日本がそれを見誤って、キッシンジャーさん達が、言わば目をキラキラ輝かせている人達と同じだと思ったら大きな間違いです。だからアメリカは断固としてクラスター爆弾にしろ、地雷にしろ、禁止条約には加盟しない。……。そしてオバマ政権といえども核の先制使用を否定しない。先制攻撃論を完全には否定していません。……」(p.142)
 兵頭いわく、すべて物は言い様なので、この種の座談では「おかしく聞こえない」ように話すことが、プロの政治家には求められるでしょう。言葉は政治家の商売道具ですよね。
 (p.129)発言は、許容範囲です。ここで止めときゃ、いいんですよ。それが大衆政治家としての適正感覚でしょう。有権者も官僚も、代議士が敢えて言わなかったこと、発言を自制したところも、ちゃんと見ています。それで、支持をしたり、信頼をするんです。
 (p.132)発言は、この発言者は台湾に何度招待されているか知らないが、軍事に関しては簡単に騙されてしまう人だな、と思わせます。
 (p.141)発言は、この発言者が核武装論を言う資格がないことをとうとうハッキリさせました。雑誌は「著者校正」を経ているのですから、これを活字に残したということは、もう致命的発言です。タリバンがパキスタンの核爆弾を入手したらどうすんの? イランの核武装に反対しないんだな? 米国政府が中川氏を信頼することは今後もうないでしょう。
 (p.142)発言は、厳密には正確ではないかもしれませんが、他の2氏のように、明らかにおかしく聞こえる発言を口走らない自制ができているところが重要です。安倍氏が現実政治で敗退したのは、これだけの言語能力があるのに、それが「戦闘精神」と結びつくことが終始なかったためでしょう。
 みなさん、書店で『表現者』の「南次郎」を立ち読みするついでに、文庫本コーナーで、光人社のNF文庫の『たんたんたたた』をお買い求めになることを、どうぞお忘れなく。みんなが『たんたんたたた』を買ってくれたから、こんどは『有坂銃』も文庫化されるんだよ。ありがとう。