八木京一郎さまからの楽しいおたより

いやぁー、素晴らしかっただよ、兵頭さん。
天真改め天心君も感激しておりましたよ。
ところで、口の堅い、義侠心のある三菱・・・との兵頭さんの話に気になって
本日、その話の出た名古屋の洋服屋に行ってみたですよ。
ところが、10年近く前から何回も通ったその洋服屋が、いくら探しても見つからないんですよ。
おかしいなと思いながらも、何回も確認して、確かにその服屋があった場所に立ってみると、
そこは古ぼけた和菓子屋になっていて、狐に抓まれたような気持ちで店内に入ってみると
奥から着物を着た老婆が出てきて、「ここに服屋があったはずなんですけど・・・」ときいてみると
首を傾げるばかり。
「間違いなく2ヶ月前にここに服屋が・・・」と問いただすと、「うちはもうこの
地で20年以上和菓子屋をやっている」というじゃないですか!
奥に引っ込もうとする老婆にさらに聞こうとすると、今度は息子だという、ガタイの良い
目つきの鋭い男が行く手を阻むように現れたのです。
そこで私は今度は、そこから少し離れた場所にある喫茶店を目指しました。
そこのマスターが服屋の常連で、何回か顔を合わせる内に、その喫茶店にも行くように
なったからです。
服屋と違い、目当ての喫茶店はありました。
しかし、中に入ると見知らぬ男がグラスを拭いていました。
「マスターは・・・?」と聞こうとする私の目に、カウンターの奥に置かれた小さなフォトスタンド
が目に入りました。写真は笑顔のマスターが良く撮れていました。
写真に黒い縁取りがなければカウンターの男に続けてマスターの所在を尋ねていたでしょう・・・。
急いで店を離れると、携帯の時計を見て、私はある場所へとタクシーを飛ばしました。
工場の巨大な門から、次々に労働を終えた人たちが吐き出されてきます。
30分ほど待って、その「彼」が姿を現しました。
私は彼の後をつけ、コンビニから出てきて路地に入った場所で彼の後ろから腕を
つかみながら声をかけました。
「そのまま歩け。騒げば俺は何をするかわからんぞ」
「アンタは・・・!?」
「何が起こってるんだ? 一連のことは国産戦闘機に関係あるのか?」
その技術者は怯えていました。でもそれは私の腕力にではなく、もっと別のモノに
怯えているようでした。
「何の話だ。アンタなんか知らないよ。離してくれ」
「なら工場に戻って、守衛室の前で大声で喚こうか、アンタの腕を持ったまま。
この男が神心の機密をばら撒いてる、とな!」
「やめてくれ! そんなことをされたら俺は、俺は・・・」
「消されるか? マスターのように・・・。何故こんな事をする?」
男は辺りを見渡して、かすかに何かを呟きました。
「ナンだって?」私は聞き返しました。
「OND・・・」
「OND?  なんだ、それは? 何かの記号か?」
答えない彼に私は掴む手にチカラを加えました。
ベンチプレス200キロ挙げる鍛錬が役にたちました。
「三菱の社内コードだよ。俺も最近叩き込まれた。というより、刻みこまれたってのが
正確かな。腕を自由にしてくれ。すべて話すから」
腕を離すと、エンジニアは腕をさすり、おもむろにグレイの作業着のシャツの袖を
捲くり上げました。
肘の下のところに、小さく、しかしハッキリとそれは刻まれていました。
鋭い切っ先をもつもの、たぶんナイフでしょう、その刃先でくっきりと「O・N・D」と
刻みつけられていました。
「さあ、話せ! それはナンだ? 何の意味だ?」
技術者は今度はハッキリと聞き取れる声で言いました。
「O・N・D つまり・・・おしゃべりは・長生き・出来ない・・・さ」
男がニッと笑いました。その直後、私の後頭部に強い力が加えられ、それから後は・・・
気づくと私の家のソファでした。
「OND」のルールにも関わらず、頭の瘤だけで済んだのは、私が兵頭さんの
古い馴染みとしれていたからかもしれません・・・。
チャンちゃん!!