◎読書余論 2009-9-25 配信分 の内容予告

▼佐藤堅司『世界兵學史話(西洋篇)』S11-7
 ナポレオン通の著者による、特濃の講義。しかし古書としてはかなり入手難だろう。そのエッセンスを知ろうじゃないか!
▼中村光夫『戦争まで』中公文庫S57、初版S17-7
 ヒトラーの強欲には限りがないと、いよいよ察したとき、フランス市井人たちはどのように開戦へ気持ちを整理せんとしたかを現地でリアルタイム観察。
 ヨーロッパは〈世界の都会〉なんである。だから「ヨーロッパ精神」で共同体をつくることができる。にもかかわらず、ヒトラー式体制が隣国に登場すれば、もはや戦争しか解答は無かったのだ。そして、ドイツ人はパリを敗戦まで完全に温存した(この模様はWWII中の遣独潜水艦の生存者のリポートでも確かめられる)。
 やはり、真のヨーロッパ共同体はあったのだ。独仏は大国同士、そうとうに馴れ合っていたのだ。アジアでは、到底考えられぬ話だろう。
 ポーランド人、スウェーデン人、トルコ人などの留学生が見せる小国人っぷりは、いずこも同じかと思わせる。
▼防研史料 『研究実験成績報告』S14-12-25
 海軍の糜爛性ガスの実験。
▼防研史料 『爆弾第59回実験実施方案』S17-12-19
 1号爆弾の「特填」「特薬」に関する資料を含む。
▼防研史料 『航空関係軍備 3/3』
 桜花を吊るせば鈍重かつ燃料不足となる一式陸攻をロケットアシストで離陸させる方法を検討していた。
 「連山」の次に「泰山」が計画されたこと。
▼防研史料 『官房軍務局保存記録、施策関係綴』第二復員局 S17-7~S20-8
▼防研史料 『航空関係』S13~S18 航空本部長
 源田實は、米の艦爆が艦偵を兼ねていたという事実をMI敗戦後も悟っていない、ということが歴然とする資料。つまり航空参謀が敵機動部隊編制の基礎知識を有していなかったという重大欠陥が、帝国海軍にはあったのだ。
 また、ミッドウェー空襲の前々日に南雲司令部は変針のために電波を輻射していたことが、この戦中のリポートで白状されている。
▼防研史料 『航空関係資料 消耗』
 S18-4-1時点で早くも「桜花」の発想が海航本内にあったと分かる資料。
▼防研史料 『兵器整備状況(航本系)』S18-1 航本第四部
▼防研史料 『黒木大尉(機)の特攻に関する意見』by黒木博司
 機とは、兵科将校ではなく機関科将校(=技術屋)だという意味です。
▼防研史料 『桜花の試作実験に関する命令 及 計画書(4種)』
▼防研史料 『特攻機桜花訓練所の急設』別府明朋
 この辺の資料の内容の一部は拙著『日本海軍の爆弾』で利用済み。
▼防研史料 『桜花二二型 四三型 試作経過概要』by三木忠直
▼『偕行社記事』No.725(S10-2)
 「将校刀に就て」という記事が興味深い。
▼司馬遼太郎『韃靼疾風録』中公文庫(上・下)1991、ハードカバー1987
 天才的作家が『中央公論』という媒体の衒学色に染まり、どうすりゃこんなつまらん小説を書けるのか、と問いたくなるほどの惨憺たる作品を連載しちまった。が、シナ人とモンゴル人の違い等に関する価値ある情報要素も埋まっていたのだ。
▼イザベラ・バード著、高梨健吉・訳注『日本奥地紀行』2000、原1885“Unbeaten Tracks in Japan”、初訳1973
 直江兼次がドラマ化されているようだが、庄内の農村が天国のように見えるのに対し、会津の農村は対照的に底辺そのものの貧困であったことが本書では証言されているぞ。
 アイヌ人の金髪についての証言。そして言う。「開拓使庁が彼らに好意を持っており、アイヌ人を被征服民族としての圧迫的な束縛から解放し、さらに彼らを人道的に正当に取り扱っていることは、例えばアメリカ政府が北米インディアンを取り扱っているよりもはるかにまさる、と私は心から思っている」
 ※それだけ松前藩が外道の極北であったわけ。すべての疑問は金田一京助を読めば氷解する。ちなみに『SAPIO』9/9号の小林よしのり氏は「義経神社」に興味を惹かれたご様子だが、金田一によってとっくに否定されているフィクションです。
▼大川周明『日本二千六百年史』2008毎日ワンズ、原S14-7
 蘇我氏は、信仰ゆえに亡ぼされたのではない。帰化シナ人と結託して日本を乗っ取ろうとしたためだ。天皇に抗せんとした反逆中核は、すべて帰化シナ人だった。※この辺を竹越與三郎の名著『二千五百年史』と比べると、数等品下ると評せざるを得ない。竹越のは文体は古いが内容が遥かに開明的で、折口信夫にも決定的な影響を及ぼしたわけだと納得できる。明治人は恵まれていたよ。
 宣教師はスペイン国王の偵察員であり工作員であった。日本国は兵力多く、直接侵略が不可能。それで、貿易を餌に信者を増やして間接侵略しようと決めたのだ。
 もし井伊大老が条約調印を強行しなかったら日本は米国と戦争になって、列強によって植民地化されていただろう。
▼蝋山政道・他『各国官吏制度の研究』S23-9プレブス社刊
 本書は意外にも戦中になされていた研究である。なんと日本では、M20以降、官吏制度のよしあしについて学問的に研究することが、政府によって禁止されていたのだ。そのような著述は発禁をくらうことになっていた、という。
 兵頭おもえらく、帝大で比較官吏制度研究が不自由でありすぎたことが、おそらく戦前日本の政治的エリート層をして、憲兵による軍部統御術を思いもつかせず、吉田茂のような恐軍病患者を生んでしまったのだ。
 蝋山氏は本書の中で、英米流の近代「官吏制度」と、「官僚制度」とを峻別する。後者の官僚制度とは、役人が議会や政党と無関係に国家の権力を握ってしまうファッショ政治だ。
 2009の政権交代により、ようやくこの官僚制度の解体が射程に入ってきた今こそ、この研究は再読してみる価値がある。
 たとえば戦間期のフランスで、帰化人を官吏として採用する場合に設けていた数々の制限。今後の日本ですぐにも参考になるだろう。
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 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
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 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
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