別宮暖朗先生の新刊が出たよ

 米海軍はいま、大型無人偵察機「グローバルホーク」の洋上哨戒機版である「BAMS」を常駐させて思うままに運用できるような広々とした飛行基地が、太平洋上にはほとんど得られないというので、これから深刻な悩みを抱えそうです。
 米海軍は空軍や陸軍ほど無人化に積極的でなく(というのはおそらく有事に人員が増やされる組織ではないから、平時から人を確保すべしという組織本能が強いのだ)、今のP-3Cをすっかり無人機で代替するつもりはない。
 有人の新鋭機P-8Aと、しぶしぶ、混用しようという方針。
 だから、既製の飛行場では、必要な余積が足りなくなる。とにかくBAMSはデカいのです。
 そこで前原大臣に提案しましょう。赤字の地方空港を、民用としては廃止しちまって、米海軍の無人機用に有料でレンタルしたら?
 ついでに海保(国交省)もBAMSの日本版をつくり、その基地を共用したら良いでしょう。捜索と救難の拠点基地にするのです。
 豪州とニュージーランドのコーストガードは、はやばやと無人機の採用を加速させています。それが合理的だからです。海保は、遅れています。たとえば無人の武装ヘリなしで、どうやって北鮮船を臨検する気?
 こんな話も、次の未来計画本で書いてみたいと思っています。
 さて、きのう並木書房さんから最新刊を1冊いただきましたので早速ご紹介します。
 『「坂の上の雲」では分からない 日露戦争陸戦 ――児玉源太郎は名参謀ではなかった』
 旅順の話を除いた、野戦と外交の評論です。あいかわらず濃密で、勉強になる内容です。これから日露戦争に論及する者にとり、必読参照文典の一つに加わることでしょう。
 またこれで一発、NHKスペシャル大河は、放映開始前からダメージを蒙るわけか……。
 著者の別宮先生も、もうそろそろご退院みたいです。目出度いです。
 内容ですが、井口省吾、ボロカスです。松川俊胤も一緒。児玉はこの二人の部下に作戦を任せるしかなかった。満州軍総司令部ができてから日本陸軍の作戦は逆にスローになってしまっている。満州軍総司令部の愚劣な作戦に隷下部隊が従わなかったことによって日本は勝つことができているのだ。
 得利寺では露兵は1万人死傷したと推定できる根拠がある。しかるにロシア陸軍省の公式発表は過少で、「真っ赤なウソ」。それを日本側『公刊戦史』は敢えて採用し、ロシア側の戦死者が少ないのは三十年式歩兵銃の口径が6.5ミリで低威力だからだときめつけた。だが事実は、日露戦争を通じて特利寺戦こそが日本陸軍の最大の圧勝だった。
 元老では、伊藤博文だけが光っていた。戦争指導部の中で国際法が分かっていたのは、小村と伊藤だけだった。この二人のコンビが、日露戦争をパーフェクトな「自衛戦争」にしたのだ。
 佐橋滋は、自衛隊違憲論の上にホンダの四輪車参入を阻止しようとした、国益などどうでもよかった統制計画主義官僚=井口タイプの勘違い参謀の見本じゃないか……などなど。
 痛快です。
 ところで『voice』連載の堀井健一郎さんの記事には毎回じつに考えさせられることが多いのですが、11月号では、松本清張の仕事のピークが49歳から59歳までの10年であり、司馬遼太郎のピークは39歳から49歳までの10年だった――とのスルドイ指摘が。
 『坂上の雲(六)』は司馬が49歳のときにリリースして完結。『(一)』は46歳のときだった。
 だとしたら当時の40代以下の読者が騙されたのは尤もじゃないかと納得しました。トシをとらないと見破れぬことは、多いです。
 さて、おそらく今月下旬に光人社さんから『近代未満の軍人たち』(ハードカバー)と『有坂銃』(NF文庫)が相次いで刊行されるでしょう。これでNHKスペシャル大河と「坂の上」史観は、またも打撃に曝される。いずれも加筆修正した新版です。ご期待ください!