鬼コーチはオニ狡知。

 早くも無人機同士の淘汰が、はじまった……。
 Bettina H. Chavanne記者の2010-1-14付け記事「U.S. Army To Terminate Class IV UAV」。
 ひとつは、小型無人ヘリコプター。
 近距離偵察なら、現有の「シャドウ」(固定翼・カタパルト発進・パラシュート回収)で十分だから、 Class IV UAV (ファイアスカウト)は要らない。
 メーカーの Northrop Grumman は、2014の旅団戦闘団への配備を期待して大きく社内投資してきたのだが。
 もうひとつは、 Multifunction Utility/Logistics and Equipment (MULE) robotic vehicle です。やはり米陸軍が、この無乗員兵站輸送車開発プログラムを中止すると議会に告知しました。
 以下、兵頭の蛇足です。
 まずMULEから説明しますと、これは1個歩兵分隊の装備品や需品を運ぶ6×6の無蓋台車を無乗員化した「ロボ騾馬」として提案され、ロックマート製の試作車のテストが行なわれていました。2009年9月の兵器見本市にも出品されて公開された写真があります。
 無乗員運転モードには、兵隊の画像イメージに追従して進むモード、完全自律運転の他、ボイスコマンド=声の命令で動かそうというソフトも研究中でした。
 規格は 3.5トン。その縮小バージョンもあり、全重5,000ポンド、運搬1,000ポンドだと説明されていました。
 寸法は、CH-47になら2台積み込め、1台なら Merlin helicopterでも運べる――となっていました。
 中止の理由を想像しますに、要は「筋悪」なんでしょう。世界最大の軍需企業がこんな月面車みたいなチャチな輸送機械に巨億の税金を無駄に引き込もうとすることを、ゲイツ氏は許さないのです。ベンチャーならもっと安く仕上げてくるでしょうからね(ベンチャーからの提案だったら、中止にならなかった可能性がある)。とにかく最近の米国巨大メーカーは、兵器の開発期間をわざと引き延ばして開発費を余計に取るだとかの狡智が発達し過ぎています。
 ちなみに、大型の無人輸送機械(ロボット・トラック)の方は、着々と計画進行中です。
 今後、小型無人輸送機械の市場を狙いたい企業は、『もはやSFではない無人機とロボット兵器』の184ページの図版をご覧下さい。これがアフガニスタンの最前線の需要に応ずるメーカーとしての正しい回答になるでしょう。
 ……あ、日本企業は輸出ができないのか。残念でした。
 次にファイアスカウトですが、これはコストパフォーマンス比が冷静に検討されたと思います。陸軍が使う軽量UAVは、落下傘で回収すればよいのです。回転翼機では燃費が悪すぎ、滞空時間、進出距離、監視高度、整備性、静粛性(ステルス性)、重大事故回避性能のすべてにおいてメリットがないのでしょう。
 ただし、パラシュート回収などしたくない海軍とコーストガードは、ひきつづき、ファイアスカウトのような無人ヘリを検討し続けるしかないでしょう。
 ところで、独自開発の類似品を陸自の砲兵隊のために納入している富士重工は、このニュースをどううけとめているでしょうか? 『三木内閣の武器全面禁輸方針がなければ、ワシらがとうの昔に安く売り込んでいたものを……』と悔しがっているでしょうか?
 日本が武器を輸出できない理由は、マック偽憲法にあります。マック偽憲法は、前文で、〈すべての外国人を信じよう〉と呼号しています。つまり、北鮮やシナやイランから「兵器(になる民生品)を輸入したい」と言われたら、その善意を疑うことなく、輸出してやらるねばなりません。世界中に、生物兵器の撒布できる無人ヘリや核関連技術をどんどん輸出してよいとするのが、偉大な「マック偽憲法」なのです。
 アメリカ政府は、それについて「ふざけるな」と言ったわけです(日本はインドネシアに東大=文部省の弾道弾技術を輸出しようとした前科があり、もし田中内閣が継続していたなら、中共に何を売ったか分かりません)。キツい指導を受けた三木内閣は、あらゆる兵器技術の輸出を一律に禁止するしかありませんでした。「なにが良くて、なにが悪いのか」という判断が、マック偽憲法下では、誰にも不可能なのです(これを故・宮澤喜一氏は、日本の憲法は「アモラル」な、つまり道徳的とも不道徳的ともわからぬ外交を強いるもの、と外務省内で表現したと聞いています。たしか片岡先生がそんなことを書いておられた)。まあ、たいへんなKEMPHOもあったものです。
 「国防の倫理」が存在しない国民には、「正しい外交」も「正しい武器輸出」も、判断など不可能です。つまり日本人は、マック偽憲法の無効を自主的に宣言しないがゆえに、いつまでも、世界の「禁治産者」であり続けます。世界平和に責任を有するアメリカ政府としては、日本の武器輸出をとりあえず全面禁止させるのは当然でした。
 こんな「アモラル」状態をなんとかしようと願ったのがJSEEOでしたが、財政的な理由から、活動を拡大するどころか、ますます逼塞中です。残念です。
 アドバイスがあります。やる気のある若い技術者は、日本企業になんか就職しないで、海外のベンチャーに就職して、そこですぐれた兵器を開発してください。それが世界のためになるでしょう。