ハドソンといっても札幌にあったソフト会社ではなく……。

 モデルガンメーカーのハドソンが廃業したという話を浜松の京野一郎先生から聞きました。それでネットを見てみたら、知らぬうちにMGCも廃業しているじゃないですか! 誰も、時の流れには勝てぬのか……?
 ハドソンのモデルガンには特別な思い出があります。中2で新聞配達のアルバイトを始めたのは、当時店頭価格7200円(消費税はまだ存在せず)もした「モーゼル大型拳銃」のモデルガン(亜鉛ダイカストに金メッキ、そしてバレルを塞いでいた金属はCMCのように硬いものではなかった)を手に入れるためでした。信濃毎日新聞の朝刊を70軒、1か月配ると5500円くらい貰えました。すなわちこれを2か月やらねば、1梃の軍用拳銃のモデルガンは買えなかったのです。垂涎のアイテムであった長物・MP-40(もちろんMGC製でなく、カートリッヂの孔をドリルで掘り下げて薬量を多くでもしない限りは2度とブローバックなどしてくれず、しかもそのあと蝋の残滓の掃除で大変になる方)を狙うなら、3ヶ月のバイトが必要でした。
 では何で最初の1梃を南部十四年式やコルトの軍用.45オートその他にしなかったのかといいますと、やっぱり店頭でのインパクトが違うんですよね。大きいので。しかも、あのショートリコイルのメカニズム。これを目の前で店員さんに手にとって説明されると、わたしはその機械的美しさに一発で参ってしまった。店頭で、あれと競合し得るほどの妖しい輝きを放っていたのは「ルガーP08の8インチ砲兵モデル」だけでした(むろんこれまたMGC製ではなく、引き金を引けばトグルが動いた方です)。そしてその「砲兵モデル」は同級生の友人が買うつもりだと言う。だったら、わたしは違うものにするしかないじゃないですか! また別な同級生で「P38」や「ガヴァメント(正確にはコマンダー、しかも規制前の真っ黒)」を持ってるやつもいたし……同じものを揃えたって、面白くないでしょ?
 で、付属の説明書きによると、ボルトコッキングピースを引いて放せばチャンバに初弾が装填され、引き金を引くと、ハンマーが倒れて、カートリッヂ内につめた巻き火薬を撃発させる……ことになってるんですけど、その通りにやると、チャンバに送り込まれたと同時に「暴発」してしまうのが、ハドソン仕様でした。撃針というものがなく、「ボルト=ハンマー打撃伝達媒体」なので、そうなるのはとうぜんなのです。
 いきなりこのような不条理世界に投げ込まれ、世間知らずであった田舎の中坊も、いささか精神的に鍛えられたという気がいたします。
 MGC製品だとそんなことにはならないのだと知るのは、は~るか後のことです。
 泣きそうになったのが分解結合でした。堅く嵌合しているフレームをハンマーで叩きながら引き出すと、バネが1~2本、部屋の隅へ吹っ飛んで行く。これを元に戻すのでもう大汗。(MGC製だと実銃に近いフィーリングでお手軽に整備できると知ったのも、遥か後の話です。)
 しかしこういう体験のあったおかげで、その後、ジョン・ブラウニングの単純オートマチックピストルの発明がいかに当時として画期的なものであったのか――なども、実感的に理解することができるようになったなぁと思っております。
 あと想い出されますのは、友人から中古の安物金属トイガンをいっぱい買い集めて、それを全部、部屋の壁に釘を打ち、家の外からでも見えるような高さに陳列して至福感に浸っていたら、前の道を自転車に乗った警察官が通りかかり、『……?』とその窓を見上げ、通過後に「ブホッ…!」と噴き出していた後ろ姿でしょうか。すでにMP-40もコレクションしていたのでインパクトはあったはずです。
 また当時は「モデルガンもどき」としか言いようのないような安物金属製金鍍金トイガンが、田舎の店頭で2000円前後で売られていたものです。今でも、手に持ったときの、あの異常に軽々しい、しかしながらあくまで冷たい金属肌の印象が忘れられません。たとえば、4インチバレルくらいの6連発のコルト系スウィングアウトリボルバーで、シリンダーの前が完全に塞がっていて、ハンマーは有鶏頭なのにダブルアクションしかできず、しかも内部のバネが非力な「キックばね」なんていうシロモノも……。エキストラクターはついておらず、エジェクター・ロッドはダミーで動きません。
 これの音の迫力をなんとか増そうと思って「スタート用雷管」をつめて発火させましたら、ガス抜き孔がどこにもないせいなのか、シリンダーにヒビが入ってしまいましたっけ。
 「いかにオモチャ銃といえども、その銃口を人に向けてはならぬ」と真に体得できましたのも、じつはモデルガンのおかげです。『いまや目隠しをされた状態で左手1本のみを使ってオートマチック拳銃の排莢と装弾ができるまでに研究を重ねているこのオレ様がまさか人に向けて暴発なんてさせるわけがない』――と思っていた矢先、スタート用雷管を詰めたMGCの.44マグナム(初期ABS製品)を、人の後頭部のすぐに後ろで不意に撃発させてしまったことがありました。これが実銃だったらどうなっていたかと今でもゾッといたします。武器を設計する人は、使用者は基本的にどんな阿呆でもやらかすもんだと思っていなくてはなりますまい。わたしはそれ以来「フール・プルーフ」に強い関心を抱き続けているのです。
 たとえば軍用の自動拳銃も、引き金はすべてダブルアクションでしか発火できぬようにするべきではないか。そうすればデコッキングレバーもいらないし、余計な安全装置もいらない(トカレフのように)のではないでしょうか?
ハンマーが割れて目に飛んでくるという事故もなくせるでしょう
 これから数年後、大砲のタマを、火薬の力ではなく、電気の力で飛ばす時代がやってくると思います。これは、整備中の「暴発事故」をどう予防するかを、設計の最初からよくよく考えていないと、きっと「後悔先に立たず」ですよ。
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 Katie Drummond記者の2010-2-9付け記事「Darpa’s ‘Transparent Earth’ Plan Will Find You Underground」。
 あのDARPAが“Transparent【透明な】 Earth”というプロジェクトを考えているそうで、地下5キロメートルまで透視した立体地中マップを2015までにつくるんですと。
 ちなみに、過去に最も深い人工の穴を掘ったのがソ連で、その縦坑の深さは12キロメートルらしい。19年がかりでコラ半島でボーリングしたとか。
 そこから北海油田のお余りでも吸い取れると思ったんでしょうかね?
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 NYTのOp-Ed に、米空軍研究所員のADAM B. LOWTHER氏の寄稿:「Iran’s Two-Edged Bomb」。日付は2010-2-8。
 シーア派のイランが核武装すれば、米国よりもまず隣国スンニ派諸国の脅威になる。だから米国はこれらスンニ諸国に取引をもちかけられる。独裁体制をやめれば核の傘をさしかけてやるよ、と。
 そうなれば米国は、産油国カルテルを破壊できる立場も得る。よって米国は安い石油が買える。もっと増産しろと命じ得るからだ。
 イスラエルがイランから核攻撃されれば、パレスチナ人も被害を蒙る。よってイスラエルとパレスチナは運命共同体となる。
 イラン周辺国へはたくさん武器を輸出できるから米産業は潤う。
 欧州やロシアやシナはイランにはもう武器を売りにくくなるだろう。
 兵頭いわく。ロシアやシナは、もはや米国と軍事的に直接対決するなんて、夢にも考えることはできません。しかしイランのような第三勢力をこっそり応援することで、いくらでも米国を困らすことができるのだと、わかってきました。米国は世界の軍事費の半分をほぼ1国で支出しているのに、それでも世界を思うがままに支配することはできないのです。
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 ちょっと古いニュースですがオバマ大統領の2月3日の発表。
 トウモロコシを原料とするバイオ・エタノールに対する補助金をまた増額するのではないかという期待を、一部の関係者に持たせた。
 これについての兵頭の見方。オバマ政権の真の狙いは、米国の自動車産業にガソリンエンジンを捨てさせることにある。したがって中西部の農民にはいちおう好い顔をみせておくけれども、リアルにエタノールへの補助金を出すことはしないだろう。そのためにいろいろな条件をつけるはず。たとえばライフサイクルでCO2を増やさないことを証明しろ、とかね。けっきょく、北米でのバイオ燃料の主軸は、菜種由来のバイオディーゼルか、海藻由来のバイオ灯油になるでしょう。