『「日本国憲法」廃棄論――まがいものでない立憲君主制のために』(草思社)のご案内

 見本がもう出ているはずですが……(わたしは現物を未受領です)。定価¥1680- です。
 配本予定は3月13日です。(奥付は3月21日)。
 内容は、〈立憲君主制のススメ〉であります。
 憲法論を、面白くてタメになる「読み物」に仕立てられた人はあまりいないでしょう。とくにそれが、アンチ「マッカーサー憲法」の立場から書かれたものならば、絶無のはずです。
 東大法学部は、なぜ、偏差値が高い(教養課程からそこへ敢えて踏み入ろうとする人がそんなにいない)といわれているか。たぶん、日々読み込まねばならぬテキストの分量がハンパじゃないので、敬遠されてしまうのでしょう。通常レベルの法文系の秀才君ならば、他のことなど何もできなくなってしまうぐらいの負荷量なのかもしれません。おまけにそのテキスト類は、無味乾燥であったり、「マッカーサー憲法万歳」の、道徳的に歪みまくった《応用宗教学》だったりするわけでしょう。達成感すら予期し難い。
 あるいは なかには、「集中力」だけの自慢ができるという学生が、「よーし他の学生がおじけづくようなところなればこそ このオレ様がやってみせて目立つか」と、何かそれまで特段持ってはいなかった人生課題を与えられたような気になれるところが帝大法学部なのかもしれません。いずれにしましてもそこを通過してきた人々が、内閣法制局はじめ、日本の立法・行政・司法の枢要におさまっています。この日本で「法学」をやることは、理性に忠実たらんとすれば、いかさま難儀な話でござろう。
 まぁしかし、本書がその状況を変えるでしょう。
 共産党や朝日新聞は、〈マック偽憲法の9条の改憲は許さないゾー〉と明け暮れシュプレヒコールなご様子。けれども彼らが真に防衛したいのは「9条」じゃありません。「前文」と「1条」なのです。それが中共が冀うところでもあります。
 しかしそのことをあけすけに口に出してしまえば、国民の支持が日共や左翼新聞を決定的に離れるということが読めていますので、かれらは、カムフラージュ宣伝として「9条」だけを殊更にとりあげるという叛逆戦術を決めているのでしょう。
 わが国の安全と自由を最も左右するのも、あくまで「1条」と「前文」であって、「9条」などはほんとうにどうでもいいものなのです。それは一夜にして公然と無視され得ることはみんなが知っています。だって「違憲」の自衛隊がこんなにも長く持続しているじゃないですか。
 近代憲法とは、それじたいが「国家の説明責任」とイコールです。
 ところでこの「説明責任(リスポンシビリティ)」という概念が、江戸時代にも、それから明治いらいの近代日本人の中にも、ぜんぜん無かった(したがって、こなれた日本語の訳語も当てられない次第)。日本語の喋れないオランダ人ジャーナリストのウォルフレン氏が著作でしつこく説明をしてくれるまで、誰も気にもかけてなかった。たしか90年代でしょう。わたしには、つい昨日のことのようです。
 藤森弘庵(天山。寛政11~文久2)という水戸系の儒学者が、嘉永6年の黒船来航直後の七月に『海防備論』というのを出していて、その全文はいまだに読むことができないのが地方住まいの貧乏人として遺憾なのですが、目次だけは分かっています。「総論之一 志を定め、国是を明らかにすべき事を云ふ」。「総論之三 全体の結構を立つ可き事を云ふ」。そして、「処置之宜論五 文武合併の大学校を設る事を云ふ」。
 まぁこの人は水戸斉昭を「総督」にして、徳川将軍の権力を移そうと運動したぐらいで、その「国是」は「近代」には重ならなかったことだけは確実に想像ができますけれども、国家の大綱を論ずるときに先づ「国是(日本の場合は天皇制をどう公定するのか)」からハッキリさせて行こうぜという気組みは、まっとうなのではないでしょうか。この人は「説明責任」が分かっていたと思います。わたしはこの「目次」にすっかり感心をしました。
 水戸では會澤正志斎が文政8年に『新論』を著わしていて、早々と理路整然と明治維新に到るロードマップを説明していました。藤森もこれを読んでいたから、自説を素早くまとめ得たのに違いない。
 「説明責任」という概念は知らずとも、彼ら幕末のインテリたちには説明の意欲があり、それを発揮する能力がありました。
 ところが今どきの憲法論者たちや代議士たちときたら、根本の説明義務を欠いて平気である。だから「政治家」ではなく政治屋ばかりとなり、「維新」だって再現できないんだろうとわたしは思います。
 かつては読売新聞が、そして4月にはどうやら産経新聞が、「改憲案」を出すそうです。でも、そのメンツを仄聞するところでは、どうも「国是」より「9条」に関心が集中している御歴々のようだ。それだといかにも底の浅い作文にしかならないんだよね。読売案のときも大向こうがガックリとしたものです。「なんてこった、いまや わが日本には こんな薄っぺらな憲法思想家・国家学者しかおらんのか」という絶望で……。まぁひとつ、『「日本国憲法」廃棄論』でも読んで、志を入れなおして貰いたい。特に内務省の残党ね。
▼目次の一部抜粋(最終校正以前のデータを参照しているので、できあがりの刊行物そのものではありません。オ~イ、はやく見本をオレに呉れ、草思社さん!)
■まえがき――立憲君主制こそが特権の暴走を防ぐ
■第一部  自由と国防は不可分なことを確認しよう
・あなたの所属する近代国家だけが あなたの自由を保障できる
・離婚した異国籍夫婦間の子供は、どちらのものなのか?
・高度の安全と自由を両立しえた日本という国
・時代と土地と生産が異なれば、集団の正義も変わってくる
・「イギリスに成文憲法がない」という話は本当か?
・明治39年までも憲法無しで大国面[づら]ができたロシア帝国
・憲法で「市民の武装は権利だ」とする国としない国。どっちが正しい?
・「押し付け憲法」の事後承認は、惨憺たるイラク戦争も誘導した ※現代世界に大迷惑をかけている「日本国憲法」。
・存在しない「人民」などに主権を与えれば、日本が分解するだけ
・昭和前期に国会はなぜ権力をなくしたか
■第二部  「押し付け」のいきさつを確認しよう
◎H・G・ウェルズとF・D・ローズヴェルト
・「世界統一政府」構想の萌芽 ※FDRはハイチにて憲法押付前科一犯たる事。
・ドイツ参謀本部式の奇襲開戦主義を禁じた1928年のパリ不戦条約
・ウェルズが書いたサンキー人権宣言
・マック偽憲法の中核にもされたローズヴェルトの「四つの自由」
・スティルウェル将軍が証言するローズヴェルトの宗教意識 ※自身が再臨キリストだと思ってた。だから「新約=ニューディール」。
・「アンチ・ウェルズ」だった「四つの自由」
・カトリック票もとりこむ絶妙のレトリック ※ライムインザディッチ。
・「自存自衛」と「preserving its own security」の関係
・ヒトラーが手本を示した最新版の対大国の開戦流儀 ※スタ演説、モロトフ声明も抄訳。
・合衆国憲法違反の日系人強制収容 ※FDRが日本などに何の関心もなかったからこそこういう措置が通った。彼の頭の中はドイツだけだった。
◎アメリカ側の準備
・「無条件降伏」の目標設定
・1944年、ローヴェルトに同心しない「知日派」の活動が始まる
・「聯合国」と漢訳もされた戦後の超国家機構が起案される ※この漢訳は自然でなく、蒋一派の意図的なもの。
・大統領への野心に火がついたマッカーサー
・ありのまま評すれば日本は侵略国だとスターリン
・ヤルタ会談で対日戦後処理が相談される
・バーンズ回答でも国体は保証されず
◎改憲草案をめぐる攻防
・終戦詔勅においては「セルフディフェンス」を撤回 ※外務省が隠したい原罪について。
・偽憲法の精神ともなる「初期対日方針」が指令される
・新憲法を作れとマッカーサーから迫る
・占領下の改憲は「ハーグ陸戦条規」違反になるという道理も百も承知
・幣原は、占領初期の改憲というポ宣言違反にも合意
・凶悪犯も超法規的に解き放って政府をゆさぶる米国の戦術
・大急ぎで妥協点を探す過程での紛乱 ※兵頭は戦後の幣原は評価する。
・梨本宮元帥の逮捕
・ソ連の猛反発と外交攻撃が開始される
・1946年元旦詔書
・あわただしき正月
・「戦争放棄」を憲法で明文化することが即決される
・政府の松本試案は否定され、「マッカーサー・ノート」が作られる
・フィリピン憲法との異同 ※ハイチ憲法のジャンダルム=警察予備隊。
・ケーディスらが8日間で新憲法を書き上げる
・勅語による明治憲法改正の指示
・市ヶ谷法廷での戦犯裁判に並行して国会議事堂での改憲審議が進む
・「9条」に加重された「文民大臣限定」
・冷戦開始直後の混乱
・歴史の繰り返しサイクルはまだ終わっていない
■第三部  国民史は「改正」ではなく「廃棄」からこそ再生する
・「偽憲法」よ、ありがとう
・なぜ「自衛権」は、日本でのみ誤解されていたのか? ※それは内務省の独善的な出版検閲のせいだった。
・「無慈悲な官僚制」を必要とする国々がある ※ウィットフォーゲルが到達できなかった地理政治決定説。
・ならば、新憲法ではどんな点に注意すべきか
・「国防の義務」と「スパイ防止法」のない近代国家は無い
・偽憲法の放置が長引くにつれ日本人が不自由になると懸念した江藤淳
■あとがき――「日本国憲法」が日本国民を危険にし不幸にする
■著者プロフィール
兵頭 二十八(ひょうどう・にそはち)
1960年長野市生まれ。
1982年1月から1984年1月まで陸上自衛隊(原隊は上富良野)。
1988年、神奈川大学・英語英文科卒。
1988年4月から1990年3月まで、東京工業大学大学院の江藤淳研究室に所属(社会工学専攻修士)。※これはじぶんではあまり宣伝しないことにしているのだが、タイトル柄、こんかいはしょうがねぇ。
その後、軍事雑誌の編集者などを経て、フリー・ライター。
2002年末から、函館市内に住む。
著書に、『日本人が知らない軍事学の常識』『北京は太平洋の覇権を握れるか』(以上、草思社)、『やっぱり有り得なかった南京大虐殺』(劇画原作)、『ヤーボー丼』『武侠都市宣言!』『ニッポン核武装再論』『近代未満の軍人たち』『日本海軍の爆弾』『【新訳】名将言行録』『【新訳】孫子』『【新訳】戦争論――隣の大国をどう斬り伏せるか』『日本人のスポーツ戦略――各種競技におけるデカ/チビ問題』『精解 五輪書』『極東日本のサバイバル武略』『新解 函館戦争――幕末箱館の海陸戦を一日ごとに再現する』など。