どうやら「オスプレイ調達」は、アメリカ政府から日本政府に対する「命令」らしい

 15日に届いた『朝雲』#3052によると、3-11の衆院予算委員会で小野寺防衛大臣は、「個人的な感覚で言うと、小笠原を含めた離島での患者搬送には非常に大きな威力を発揮するのではないか」と述べ、急患空輸を視野に自衛隊へのMV-22の導入に前向きな考えを示したという。
 この質問をしたのは自民党の西銘恒三郎代議士だという。
 こういうのは「馴れ合い質疑」といって、答えたい話が先にあって、それを、気心の知れた味方の議員に議場でわざわざ質問してもらうものである。
 質問の内容がとつぜんに奇襲的に変更されることもない。
 ということは、以下の推理が可能だろう。
 小野寺氏は、自衛隊がオスプレイ(および水陸両用兵員輸送車 AAV7)を必要としていないことを知らないか、知ってはいるがそんなことはどうでもよい何か事情があって、誰かの意図にひたすら迎合して、それらの調達の実現のために日本の国益を犠牲にする肚を括っている、と。
 げんざい、小笠原村からの急患輸送は、厚木基地の海自所属の国産(新明和)の4発飛行艇が実施している。父島の二見港にも海自基地があり、その砂浜に、この飛行艇が這い上がれる「斜路」が整備されている。「斜路」がない母島その他でも、ゴムボートで海浜から患者を機内に搬入することができる。
 国産4発飛行艇は、速力でも、航続距離でも、上昇限度(これによって台風や積乱雲を回避しやすい)でもオスプレイより大である。しかも、いちどにヨリたくさんの患者を運ぶことができる。(最新型のUS-2なら機内の与圧もされている。これは潜水病患者にはありがたいことだろう。)
 この国産飛行艇による患者輸送を止めて、オスプレイに代替することに、ぜんたいどんな国益があるというのか、小野寺氏がもし売国奴でないのならば、国民に説明すべきだ。
 国産四発飛行艇は、遠洋で漁船が転覆したような場合の救難活動にも威力を発揮する。オスプレイは、ダウンウォッシュが強力すぎるために、ホバリング&ホイストによる救難活動は、実用的だとは思われていない。
 またげんざい、南西諸島での急患輸送は、自衛隊のバートル型の大型ヘリコプターが担任しており、その航続力と収容能力には何の不足もない。
 本州の病院への高速搬送が必要な場合には、最寄の空港で空自の固定翼機に患者を移し換え、さらに本州の飛行場で救急車または小回りの利くヘリコプターに移し換えることができる。
 バートル型の大型ヘリコプターは、3000m級の日本アルプスでの救難活動にも使える。が、オスプレイは、そのような標高ではホバリングそのものが苦しくなり、且つ、ダウンウォッシュも強すぎるので、高地での救助に役立つ機体であるとは思われていない。
 もしオスプレイを導入すれば、自衛隊が整備しなければならない機体の種類、エンジンの種類が増え、整備員の教育訓練も新規に別にしなければならず、維持の費用(特にスペアパーツ代)が嵩み、他の必要な予算を圧迫してしまう。これがどうして日本の国益になるというのか、売国奴でないならば、小野寺氏は説明すべきだ。
 防衛省は民主党政権時代から「オスプレイ」と「AAV7」(どちらも米海兵隊アイテム)を予算要求したがっていた。このことからわたしは、陸幕が海兵隊に洗脳されているのではないかと疑っていた。しかし自民党の大臣も肚を括ったということになると、これはもはや海兵隊イシューではない。米国政府イシューなのであろう。
 「オスプレイ」は、米陸軍からは見向きもされていない機体である(長所は速力だけで、航続距離は最新型のチヌークと違いがなく、運べる兵員数=救助できる民間人数は、チヌークが格段に多い。オスプレイ機内には高速ゴムボートも入らない)。
 こんな素晴らしい輸送ヘリであるチヌークを、陸自はすでに持っており、部品はすべて国内で調達できるようにもなっているのである。陸自のヘリ部隊の現場では、誰もオスプレイなど欲しがってはいないとわたしは想像する。現場が欲しくもないものを、内局と政治家が押し付けようとしているのだ。もうその背後には米国政府様がいらっしゃるのだと想像すべきだろう。米海兵隊は、直接に日本人にはたらきかけたのではなくて、得意技である米政府へのロビー活動を成功させたようだ。
 アメリカ政府から日本政府に対するこうした「命令」がどのような仕組みで処理されているのかの推定は、拙著『日本人が知らない軍事学の常識』に書いてあるので、未読の人は参照して欲しい。
 小野寺氏は「国賊」と呼ぶにはまだ小者すぎるとしても、「売国奴」にはかなり近づいているように思う。すくなくともわたしはこの代議士の見識の低さに失望し、厚顔無恥に呆れた。
 拙著『「日本国憲法』廃棄論』でも述べた如く、国会改革や選挙制度改革の主眼は、頭の良い人間を国会に送り込むことを重視するのではなくて、下僚の言うなりに日本の国益を合法的に他国に移出せしめて恬淡たるこの種の売国奴を一人たりとも国政に参画せしめないことの方に狙いを絞って行くべきだ。