MIL短報【2013-6-30作文】

※兵頭のPC端末を機種変更してから「ブログ人」へのログインができぬ状態が続いています。MIL短報は臨時にこちらへ掲載します。
一。
 Michael Welles Shapiro 記者による2013-6-29記事「Navy, shipyard sign $745M Enterprise inactivation contract」。
  1961-11-25に就役した原子力空母『エンタープライズ(CVN65)』は退役と決まって2012-12-1に原子炉を止めた。
 いよいよ解体(核物質完全除去)作業にかかる。その費用はおよそ $750 million だと。総額は上方変動する。「コスト+インセンティヴ」契約方式なので。オーバーした金額の負担は、海軍と造船所で折半することになる。
 請け負う造船所は、ニューポートニューズで海軍御用をつとめる Huntington Ingalls Industries 。げんざい、米空母を建造できる唯一の造船所なのだ。
 ビッグEは米軍の最初の核動力空母である。これ以前に解役された核空母は無い。したがって、空母用の廃炉作業も、これが最初のケースとなる。前例が無いのだ。
 作業は2018-9までかかる見込み。専従する労務者は常時1000人以上という体制。
 ただし原子炉の解体ができる場所はニューポートニューズではない。その段階になったら、ビッグEは曳航されて太平洋のワシントン州ブレマートンにある Puget Sound Naval Shipyard に運ばれる。その海軍工廠で8基の原子炉をバラす。
 原子炉を取り出すためには船殻をオープンカットしなければならない。取り出された原子炉部分は、艀に載せられて揚陸され、ワシントン州東部の沙漠へ運搬される。そこは連邦エネルギー省が管轄する、原子炉のゴミ捨て場である。そこに最終的に埋められる。
 エンタープライズは、ノーフォーク海軍基地にあったが、6-20に曳航されてニューポートニューズに着いた。
 エンタープライズに姉妹艦は無い。エンプラの次の級はニミッツ級である。
 キューバ危機にもエンプラは出動している。
 出力は20万馬力。
 米海軍の4隻の原子力空母だけが、「ジェット機の着艦40万回」を記録している。その1艦でもあった。
 2012-11まで作戦任務。12月に退役。
 2500人のクルーは、今は1300人に減らされている。
二。
 ストラテジーページの2013-6-29記事「The Unreported Revolution In Air Combat」。
  米軍戦闘機の過去10年のすごい進化は目立たないところ、ヘルメットマウント照準システムにある。
 めだたないのも道理。過去10年、米軍機と外国軍機との間に「空戦」というものが発生していないからである。しかし進化の凄さはすべてわかっている。
 というのは、米軍の戦闘機は、その空戦訓練中、いつ武器の発射を決断したか、いっさいを電子記録にとられているからだ。1970年代から、その記録が全部残されている。もちろん、部外秘だ。
 その統計をとって、分かったこと。とにかく「決心」のタイミングが早くなってきている。
 したがって、今、ヘルメットマウント照準システムをもっていない他国空軍とのドッグファイトになれば、米軍パイロットは、万に一つもおくれをとることはない。
 現在の究極のシステムは、JHMCS(Joint Helmet Mounted Cueing System)である。※「ジョイント」が付くと、それは空軍と海軍の共用であることを示す。
 これは昨年に導入された最新バージョンだが、パイロットの目玉の動きを器械が探知して、パイロットが何を攻撃したいのかを器械が判断してくれる。そのさい、パイロットの首やヘルメットがどの方角を向いていようが、関係ない。両目が焦点をあわせている対象物だけを、器械は察してくれる。そしてそのまま瞬時に空戦ミサイルのロックオンと発射が可能なのである。
 いぜんのJHMCSは重量配分のバランスが悪くて、パイロットの首がえらく疲れたが、その問題も、昨年バージョンでは改善された。
 この「JHMCS II」は、初代より安価になったが、それでも a million dollars します。
 ※エンジンや機体はおいそれとは設計も量産も成熟もさせ得ない。しかし、電子ハードウェアとソフトウェアは、日進月歩で進化させることができる。そしてその面での進歩は、エンジンや機体の性能、パイロットの空戦技倆をほとんどどうでもよくするだろう。これは「数十年経ってはじめて2代芽が育つ裸子植物の針葉樹はなぜ毎年繁殖する被子植物に進化スピードと多様性で負けるか」と同じ機序なのである。日本がもし有限の国防資源を、進化の光速な電子ハードウェアとソフトウェアに集中してつぎこんでいたなら、米軍よりも先に「JHMCS」やその他のガジェットを豊富に手にできたことは間違いない。軍事政策の総括リーダーシップというものがなく、軍事評論界にも視野狭窄のオタクしかいないために、今日の不振・凋落があるのだ。
 JHMCS はまた、バイザーに飛行上のクリティカルな情報をシースルー・モニターのように現示してくれるので、パイロットは計器チェックのために下を向く必要が激減する。これは、常時、四周を警戒していられることを意味する。
 ヘッドアップディスプレイと違い、横を向いていても可い。これは進歩だ。
 歴史をさかのぼると、最初にヘルメットマウンテドサイトを考えたのは、南アフリカのメーカーだった。それは1970年代であった。
 アンゴラを支援していたソ連軍機が、このサイトを実装した南アの戦闘機によってしばしば撃墜された。
 そこでソ連もこのヘルメット照準システムを独自に考えた。これは完成したが、秘密であった。
 ※この推定情報にもとづいて米空軍プッシュのもとに製作された映画が、クリント・イーストウッド主演の『ファイアー・フォックス』である。
 ソ連崩壊後、元東独のパイロットが、このソ連のシステムを使ってNATOのF-16を空戦試合で翻弄してみせた。これに米空軍が驚愕した。
 イスラエルのエルビット社は、ソ連の開発動向を、ユダヤ人移住者チャンネルによって掴んでいたので、はやくから DASH (Display and Sight Helmet) の必要性に目をつけ、開発資源を突っ込んできた。だから米軍と米企業は、エルビットと協定して JHMCS の実用化を加速させたのである。
 ただし初期のJHMCSは2kgもあり、これにGがかかると17kgと同じことなので、パイロットは疲労困憊した。それで6年前、米空軍は、パイロットの首の筋肉を鍛えるジム・マシーンを、空軍基地に多数設置したほどだ。
 こんかいの「II」が軽量化した意義は、だから大きいのである。