エボラ対処の米軍が西アフリカから引き揚げた後へ自衛隊派遣? ディシジョンプロセスがノロマすぎるんじゃね?

 エボラ出血熱は潜伏期間が21日とかそのくらい。マリでは2015-1-18時点で発症報告が42日間連続で無かったため、マリ政府がエボラ流行は終わったと公式に宣言している。そのあたりへエイドに派遣されていた米陸軍部隊も、当地を引き揚げている。
 オバマ大統領が2-6に連邦議会に提出した国家戦略報告(毎年せにゃならんと1986の法律で決まっているのに、オバマ政権ではこれが二度目。前回は2010だった)で初めて「西アフリカではエボラが大問題だ」と明記した。いまや地域衛生問題は米国の「national security strategy」に関わっているんだ、と米国政府が認識した次第だ。それで米国務省の伝声管たる日本外務省が、また「赤紙」(米国からの命令をしたためた部外秘ペーパー)をクーリエしてきましたと考えると、このタイミングも理解し得る。
 もちろん政府のカネで自衛隊が海外経験を積むことは好いことで御座る。ソマリア海賊はもう鎮圧され、次なる海賊海域はギニア湾ですからね。いよいよ大西洋だぜ。
 おまけ。
 WP紙のDan Lamothe記者による2015-2-18 記事「Fact-checking ‘American Sniper’ as the Oscars near」。
 いくつかアカデミー賞を獲りそうな『アメリカン・スナイパー』。ここに描かれたカイルと、実人生のカイルとの違いを、WPが指摘する。
 かつて五輪で優勝を競ったムスタファという敵のスナイパーが映画には戦場の好敵手として出てくるが、これはカイルの回想録中でたった1パラグラフ言及されているそれっぽい話を脚本家(ジェイソン・ホール)が膨らませておもしろおかしく設定しなおしたもので、ほぼ事実無根である。
 現役中のカイルがシールズ隊員として新記録の2100ヤード狙撃をイラクで成功させたのは事実。しかしカイルの回想録によれば、そのターゲットはRPG射手だった。敵のスナイパーとの決闘ではない。
 同僚シール隊員のライアン・ジョブは、たしかに2006年に前線で顔面に敵弾を喰らっている。しかし死亡したのは2009年で、死因はその戦傷とはあまり関係なさそうだ。
 映画では無名の復員兵(カイル殺人犯)がカイルを自動車に乗せて射場に向かう。事実では、カイルがその海兵隊復員兵ルースを自動車に乗せて射場に連れて行った。ルースがカイルを射場で射ち殺したことにつき、いま進行中の裁判で、ルース側は争ってはいない。ルースは精神病だったというのが弁護士の主張ポイントである。
 ところでこのクリス・カイル銃殺事件裁判は陪審法廷で進められているが、その陪審員になる者は、事前にカイルの著書を読んでいたり、それにもとづいた映画『アメリカン・スナイパー』を観ていたりしてもいけない。そのような者は自動的に、陪審員にはなれぬ――と裁判官が命じているそうである(Molly Hennessy-Fiske記者による2015-2-5記事「Judge: Seeing ‘American Sniper’ may not disqualify potential jurors」)。
 傍聴人は、セルフォンも、バッグも持ち込み不可。金属探知機と、犬の鼻検査を通り抜けなくてはならない。
 裁判所を爆破するという脅迫まであった。
 『アメリカン・スナイパー』は、クリントイーストウッドが映画化し、主人公はブラドリー・クーパーが演じている。いまだに映画館でかかっており、テキサス州では特に人気がある。
 地区判事は陪審員の候補者たちに面接審問する。そのさい、すでに被告が有罪か無罪か決めていると答えた者は、ハネられる。
 一般報道では、カイルはヒーロー扱いされている。
 被告弁護人の戦術は予測容易だ。イラクとハイチで正気でなくなり、さらに復員後のVA(退役軍人庁)の仕打ちが輪をかけたというのだ。そんな言い訳、聴く耳は持たんと、たいがいの庶民は、皆思っている。
 なお陪審候補者とされた人の中からは、病気、仕事、子供の世話、そして字が読めぬことを理由に、辞退する者が、続出。
 被告の量刑は最大で、保釈不能な終身刑となる可能性がある。郡検事は死刑は求めない方針。
 さらに補足しよう。Liz Sly記者による2015-2-3 記事「’American Sniper’ film is a misfire in Baghdad」。この映画をアメリカはバグダッド市内の映画館でも公開させたところ、それを観たイラク市民が大ブーイングだったという。
 既に終わっているイラクとアメリカの戦いをトータルすると、アメリカ人は4千人死んだ。イラク人は10万人死んだ。
 海賊ダウンロードがイラクでは可能なのだが、ある青年は言う。
 ――すべてのイラク人がテロリストのように描かれ、主人公がイラク人は野獣だと言及する、そんな映画、誰がカネを払って観たいと思うかよ。
 いたるところ、デタラメである。たとえばサドルシティではシーア派ゲリラが米軍と戦ったのだ。しかるにこの映画ではその敵がアルカイダだと描かれている。アルカイダはスンニだよ馬鹿者が。
 ※米国の脚本は話を庶民にわかりやすくするために、それは正確でないと認識していながら、わざと、庶民の知っている用語に変えてしまうことはよくあるのだと感ずる。たとえば刑事コロンボシリーズの中で、あきらかに英国のウェブリー&スコット拳銃が出てきたとき、それが米人視聴者には分からないという配慮からか「ブリティッシュ・ウェザビー」と言い換えていた。ピーターフォークのとりまきにはガンマニアも多かったので、こういうのは無知ゆえの誤記ではない。意図的にそう言わせていたのだ。クリントイーストウッドも分かっていて敢えてやってるのだろう。
 また、子供を含むイラク住民が、主人公を連れ出そうとするシーン。ありえない。米軍のスナイパーの近くは危険すぎるということを皆よく知っていた。イラク人ならみんなそいつの廻りからは充分に距離をとって逃げ隠れたはずだ。
 特に、イラクの子供がRPGを取り上げるシーンでは、バグダッドの映画館の観衆は激昂し呪いの言葉を叫んだ。「嘘をつくな!」と。