ウィッテル氏の新刊『無人暗殺機ドローンの誕生』を一読して

 原題は“PREDATOR:THE SECRET ORIGINS OF THE DRONE REVOLUTION”で、2014年刊。著者の Richard Whittle 氏には、『ドリーム・マシン――悪名高きV-22オスプレイの知られざる歴史』という話題作があったのだが、そっちは邦訳されていない。
 今回の最新作は、文藝春社が2015-2-25に訳刊した。体力のある同社でなければ出し得ない分量だと思う。
 原著者はこの本の取材に5年をかけたという。つまり2009から始めたわけだ。2009といえば、あのP.シンガー氏が『WIRED FOR WAR』を出した年だ。わたしはシンガー氏の出したての原書など当時最新のソースから取材して、『もはやSFではない無人機とロボット兵器』(2009)や『「自衛隊」無人化計画』(その42ページ前後を見てください)や『「グリーン・ミリテク」が日本を生き返らせる!』(その185頁前後を見てください)をまとめたものだ(レディオプレーンとマリリンモンローの関係は当時のネットで検索して承知できたが、重要ではないと考えてわたしは三部作の中には書かなかった)。
 しかしこのたびのウィットル氏のおかげで、シンガー氏も英文ウィキペディアも判っていなかったプレデターの草創期について、すっかり旧知見を改めることができた。
 おそらく、日本でこれから無人機の開発や調達やオペレートや関連法制にかかわる人には、本書は必読である。初期の失敗や、初期の法制上・運用手順上の論争が細かくフォローされているからだ。それらはいずれも、二周回以上も遅れてアメリカを追いかけることになるであろう日本人関係者にとっては、千金に値する智恵である。
 おそらくシナ人は、本書を読まぬうちに「プレデターもどき」と「ヘルファイアもどき」をつくって組み合わせ、ナイジェリア政府などに売ったのだろうから、それらはロクに機能などせぬことは、もう最初から保証付きだとも想像できた。やはりというか、そんなイージーな技術じゃないのだ。だから、プレデターもどきが近々尖閣に飛来しても、あまり焦ることもあるまい。しかし来年になったらば、もうわからない。日本人の想像力や危機意識はシナ人より乏しく、いっぺん痛い目をみてから、はじめてディシジョン・プロセスが動き始めるのだから。指導層に智恵と勇気が足りないとき、時間は日本の味方じゃないのである。
 以下、「ほー」と感心したところ など。
 イスラエルのIAIも、軍人の失業救済機関の趣きがあるんだということこと。真の発明家は、そこでは浮いてしまう。※米国の多士済々はさいぜんから承知するところだったが、イスラエルにも発明家がいたというところがニュース。
 逆V字尾翼でプッシャー・プロペラを保護しようというレイアウトは、大もとのイスラエル人の設計家の当初からの考えだった。※そのため大迎え角で着陸することはできず、機首に重いセンサーが積まれたときには、首脚が三点着地の衝撃で折れる事故が試作中に起こった。この尾翼はけっきょくリーパーで変更された。
 GPSはKAL機撃墜事件を契機に民間向けに開放されたこと。
 80年代に米陸軍が開発しようとしていた「アクィラ」無人機のどうしようもなさ。※たしかカッパーヘッドと組み合せるという案だった。われわれは、アバディーンの印象から、システマチックに新兵器を開発することが米国人は常に得意なのだろうと思ってしまうが、そんなことはないのだ。機能不全を自己修正できないダメ組織はどんな国の中にも発生し得るのだ。たとえば80年代に徹底的な比較テストの末に採用されたはずの米陸軍制式拳銃のベレッタM9も、今では悪評ばかり。海兵隊の特殊部隊もとうとう公式にグロックに変更する気だ。M9は、スライド操作のときにうっかりとセフティがかかってしまったり、埃が入りやすい切り欠きスライド形状(いまごろ気付くのかよそこに、って話)に加えて、サイレンサーが取り付けられないのが特殊部隊として困るという。陸自はDAO(double-action only)の .45オートをサイレンサー標準装備で採用して特殊部隊に持たすべきだと思う。
 RPVがUAVに変わったのは、無人機の自律性が向上したから。※ぎゃくに提案するが、RPVという70年代の呼び名はむしろものごとをずっと正確に表現していたね。われわれはむしろこの呼び名「リモート・パイロッテド・ヴィークル」を復活させてはどうか?
 イスラエルの「パイオニア」の前に「マスティフ」と「アンバー」というのがあったこと。
 ボスニアへ送り込んだ最初のCIAの無人機は「ナット750」というものだったこと。ジェネラルアトミクス製だがプレデターの前駆。
 ジェネラルアトミクスがどのようにして無人機メーカーになったか。それは行き詰まったベンチャーを投資好きの男が買収した結果だったこと。
 米本土からアフガン上空のプレデターを操縦する場合、無線だけに頼ると衛星を二度中継しなければならない。それではディレイが長くなりすぎて危険であるので、まず大西洋横断の光ファイバーでドイツの基地までつなぎ、そこから衛星経由でアフガン上空を飛ばした。
 プレデターを空軍の所管にしようという動きは1996-4。このときラングレー基地の会議室でスライドを映写したら、戦闘機や爆撃機やU-2の少佐パイロット2名らが一斉に軽蔑の念を露わにした。馬鹿にしたような笑い声を出し、ヤジを飛ばし、鼻を鳴らし、敵意に満ちた質問をし、ボスニアでプレデターを運用していた陸軍の大佐の説明を嘘よばわりした(p.135)。※この本でいちばん感心した箇所です。そうだったのか……。U-2の関係者が無人機に敵意をもっているという話は前々から漏れていたのだが、現場はリアルにこんな感じだったとは……。
 ライトパターソン基地の「ビッグサファリ」のドアに銘盤あり。「不可能だと言う者は、実行する者の邪魔をしてはならない」。この第645航空システム群が、空軍内でのプレデター推進集団になった。他のモットー。〈既製品を活用せよ〉〈改造せよ。開発するべからず〉。
 プレデターにヘルファイアをとりつけさせたのは、CIAではなくて、空軍のジョン・P・ジャンパー大将だったこと。
 2000年頃には、軽量小型のレーザー誘導爆弾がなかったので、陸軍のヘルファイアが選択されたということ。
 プレデターを自爆特攻機にすると、それはINF条約にひっかかってしまうこと。地上発進型の巡航ミサイルだと看做される。
 291頁に「船艦」という誤記がある。これは「戦艦」のつもりだろうが、それでも大間違いである。『コール』は駆逐艦だ。『もはやSFではない無人機とロボット兵器』92ページにもちゃんと書いてあるだろう。
 2001にブッシュ大統領が、CIAに、プレデターでビンラディンを爆殺する許可を与えていた。9-11時点ですでにヘルファイア発射の実験中であった。CIAはモスク誤爆を特に恐れていた。※イスラミックテロリストたちは今後、「どこでもモスク」という隠れ蓑を開発して米軍の航空攻撃を逃れようとするだろう。それに対する方途は、シナ製の安っぺー巨大仏像に自爆装置を仕込んで空から投下してやることだ。巨大偶像を彼らは放置できない。破壊せんとすれば、轟爆する。地蔵BOMBが地獄へ案内する。
 プレデターからヘルファイアを発射すると、必ず、目標付近に飼われている犬が命中の数秒前にそれに気付き、一目散に逃げ出す(p.341)。※支那事変中、漢口爆撃にSB-2が高度5000mでやってきて投弾し奇襲になったが、犬だけが着弾より前に吠えたという。擦過音の急接近に気付くのだろう。
 2002-11-3のイエメンでの成功例が、5年前の段階では、初期例としてよく知られていた。しかし実際にはその前に2001-10-7にすでにヘルファイア発射がアフガン上空のプレデターからなされていたこと。その詳細。
 「無人機技術はすでに人間の死に方を変えた」(p.385)。※マルチコプターの宅配便に爆弾が仕込まれていたら、たいへんです。あと、良導体のワイヤーもしくはファイバーを、吊るすか放出できるUAVのスウォームで、高圧送電線を狙われたら、もう防禦なんてしようがない。ギャロッピング現象の短絡で広域同時停電して長野新幹線も止まったのと同じになっちまう。ワイヤーをひっぱる小型ロケットも考えられる。爆発弾頭がついていないから、ヘタレの極左もこしらえやすい。
 プレデターの革新要素は長時間の滞空性であったこと。※だからスピードを追求した「アヴェンジャー」はリーパーの後継になってねえ。
 本書はセンサーその他にはあまり頁を割かない方針のようで、だからゴルゴンステアがなぜ必要かとかスルーしてしまっているが、その方が賢明だ。機体と通信システムに集中したので、名著になっている。
 余談。自衛隊の文官統制が正式に廃止になった。事情を想像すると、こうだろう。ヴィトーの権利は、外務官僚(米国務省の伝声管)と、自衛隊制服に握られている。中間の防衛省背広は、外務からの注文を安請け合いしては制服に拒否られ、制服からの注文を外務に諮っては拒否られという、さんざんな情けない目に遭ってきたのだろう。だから参事官制度の廃止に部内からは誰も反対しなかったのだろう。