雹[ひょう]の季節と、見込みがない「繋留気球レーダー」

 軍隊と新兵器について考える者は、国内外の地図だけではなくて、気候・海洋気象についても、そこそこ関心をもっていなければならない。というか、「常識の在り処」についての直感が「天象」についても少しは働くようでなければならない。
 たとえば、昔から存在したシステムなのに、現在、世界じゅうであまり普及していないように見えるものに気付いたとき、あなたは、そこには何か、尤もな理由があるのではないかと、疑ってみても損はない。
 アフガニスタンでは、タリバンが2001年からNATO軍の航空機に与えたよりも多大な損害を、雹が与えている。
 ヘリコプターやC-130(戦術輸送機)は、要注意だという。
 1機のC-130に、アルミ合金の外鈑に凹みができる威力の雹弾が2000発以上命中するのだ。エルロン(主翼後縁の舵)やアンテナは特にまずい。
 小型のVIP輸送機などは、雹に打たれるて全損になることすらある。
 直径25ミリ、重さ100グラム以上の雹弾は、飛行中の軍用ヘリを墜落させる。それでアフガン政府軍には死者も出ている。
 雹の終速は、時速200kmである。最大級の雹になると、1個の重さが1kgに近い。
 雹は落下しながら溶けていくが、高度5000mくらいではまだ冷え冷えなので、航空機へのダメージもでかい。
 もうわかっただろうが、位置固定で、上げっぱなしの「バルーン」なんて、雹や暴風や落雷や結氷や紫外線や塩や酸性雨や大気汚染物質にいためつけられ続けて、各部は地上のレーダー施設よりも早く劣化する。破壊事故を防ぐために、上げたり下ろしたり、点検したり部品交換したりを頻繁に繰り返すマン・アワーと維持コストは、たいへんなものになる。
 「阻塞気球」ならば問題は少ない。洋上で台風が荒れ狂っているときに巡航ミサイルも超低空では飛来しないだろうからだ。
 テムポラルに昇騰させるだけの、戦術偵察用気球とか、通信空中線用気球も、同様である。
 だが「防空レーダー」の一翼を担わせるとなったら、寸秒の空白もつくることは許されない。そのためには予備機が何台も必要であり、人員は各ステーションに24時間途切れなく貼り付けておかねばならぬ。予備機や繋留ワイヤーも、傷む前に、次々と更新していく必要がある。その備えのための初期コスト、メンテナンスのコストはいかほどべらぼうになるか。そうした「相場値」を直観的に頭の中に思い浮かべ得なくてはならない。
 2006にカルガリーで、離陸直後のB-727が雹に突っ込み、コクピットがヒビで前が見えなくなり、引き返したことがある。
 雷撃は、数年に一度、飛行機を落としている。すべての飛行機は年に1回くらいは雷撃されている。めったに落ちないようにはなっているのだが。
 バードストライクは、年に40人くらいを殺している。雹による死者は、それよりは僅かである。
 AH-1は、ローター頂点のピッチ調節ロッドに体重1kg以上の鳥が衝突すれば、わずかな曲がりから激しい共振が発生してローターがバラバラに吹っ飛び、乗員は助からない。2011年に海兵隊のAH-1Wが堕ちた実例あり。
 双発機は四発機よりもバードストライクに弱い。2009の「ハドソン川の奇蹟」事故では、両エンジンに鳥が飛び込み、どちらも停止してしまったのだ。
 今日では、スウォームのマイクロ・ドローンによって、バードストライクと同じ効果を狙うこともできる。だから警察と海保は、ドローンを墜落させるためのECM装置やGPS攪乱装置、「ビーム・ウェポン」に類する装備を充実させなければ、大災厄が起ころうとするのを指をくわえて見ている他になくなるであろう。