中東メモ

 いくつかの英文メディア記事からペルシャ湾情勢を摘録すると……。
 イラクのISはモスル市およびアンバル県において守勢である(2015-7-10時点)。
 ラマディ市放棄の責任をとらされてイラク政府軍の何名かの高級将校がクビにされた。
 クルド部隊は米軍機からのCASを受け続けている。※報道では、米国人特殊部隊のJTAC(かつてFACと呼ばれていたもの)が地上に派遣されているのか、それともクルド人のJTAC班が育成されて、SOCOM支給のハイラックスに乗って任に当たっているのか、そこがわからない。しかしたぶんは後者。
 クルド部隊は北部の本拠地に対するISの攻撃を撃退しているばかりか、モスルに少しづつにじり寄っている。
 ペシュメルガとは決死隊の意味である。
 クルド人は、ソシャルメディアを使って、個人が国家の政策を左右できることを最初に立証した。スマホが、JTACの無線機になったのだ。
 イラク人が軍事的に無能なのは人種のせいではない。イラク人はセム族、つまりユダヤ人と同じだ。またシーア派政府軍が無能なのは宗派のせいではない。最も有能なイラン軍もシーア派だから。
 アンバル県の2大都市はラマディとファルージャ。
 今の焦点はファルージャだが、ISはそこを完全占領できずにいる。
 市域の半分は、2014-1以降、ISが支配しているのだが。
 ファルージャはバグダッドから60km西である。そこより西は沙漠。そこより東は、チグリスとユーフラテスの肥沃地である。その境目に位置するため、3000年前から重要都市であった。
 ファルージャにはシーア派住民も多い。しかしラマディは完全なスンニの町である。だからラマディを奪還しようとしてその町に近付くシーア派部隊は、反ISのスンニ派民兵とうまくいかない。
 精油都市のベイジ(Baiji)はまだイラク政府の手にある。バグダッドの北200kmのチグリス河畔にあり、バグダッドから見てモスルの手前。
 ISは2014年からここを攻撃しているが、いまだに占拠できない。たてつづけに自動車爆弾特攻がくりかえされているのだが。
 ※『マッドマックス2』の世界。
 イランは、シリアやイエメンやレバノンのヒズボラを只で軍事支援しているのだが、イラク政府に対する軍事支援に関しては、代価を貰っている。イラク政府はこっそりとイランに $10 billion 以上を支払っている。これは違法である。
 7月6日、イラク政府軍のスホイ25(これはA-10スキーである)が間違って爆弾を落としてしまい、バグダッド市内の家3軒が吹き飛び、住民20人死亡。機は基地に帰還するところで、着陸態勢に入っていた。
 パイロットは経験の長い男で、過去に問題もない。装備に欠陥があったらしい。
 イラク人操縦士の乗るスホイ25による対IS作戦は2014-12からスタートしている。機体は、2014-6にロシアから5機、届けられた。
 サダム時代にイラク空軍は66機のスホイ25を保有していた。パイロットも整備兵もスンニ派だけで占められていた。
 イラクの現シーア政府は、半年かけて、苦労してシーア派の整備兵とパイロットを見つけ出し、ようやく作戦させられるようにしている。
 イラクは今、総計で10機くらいの Su-25 を運用している。イランはその整備や訓練について支援をしている。イランも2014年に7機のスホイ25をイラク政府のためにめぐんでやっている。これらは湾岸戦争のときにイランに逃亡してきた、もともとイラク軍の装備だったもので、カニバリズム整備によってその一部だけを飛べる状態に戻し、ロシア製の巨大輸送機でイラクまで届けた。
 大きく観ると、中東には、3つの真の強国がある。イスラエル、トルコ、イランだ。
 金満大国が2つある。サウジアラビアとUAEだ。どちらも人口が少ないので、強国にはなれない。
 サウジは、空軍と砲兵隊には最新装備を与え、空軍には王族を配する。しかし国民は「総ナマポ」状態なので誰も陸軍に志願しない。だから歩兵はきわめて弱い。強い歩兵はサウド家に忠誠な特定部族からなる近衛部隊。これはリヤドから離すことはできない。
 人口大国が一つある。パキスタンだ。国庫歳入が少ないので、強国にはなれない。サウジのカネで原爆を作らせてもらったが、カシミールで国境が画定していないシナの言うなりである。また、インドと戦争になったとき、イランに好意的中立をしてもらいたいので、イランを怒らせることができない。だからサウジにカネで誘われても、対イエメンの歩兵部隊派遣要請は断った。
 ヨルダンは、指導層の質が高いが、小国であり、かつ、シリア難民の受け入れの負担がのしかかっている。
 サウジがISをおそれるのは、ISがとなえているカリフ制が、イスラム教圏では人気があり、このままではサウジの宗教正当性がおびやかされるから。メッカまたはメディアを支配した者が聖であり、アラブ世界を支配できる。よってイランもその支配を狙う。
 19世紀、英国は、ペルシャ湾西岸の都市国家を束ねて、トルコやイランへの防波堤とし、かつ、海賊退治の根拠地にしようとした。これがカタールやUEAの起源である。いずれも1都市1国家の交易立国であった。
 UAEがつくられたときは、サウジと国境線画定で揉めた。とうぜん、砂で揉めたのではなく、油田で揉めたのである。
 イエメンもクウェートもオマーンも、サウジをアラブの盟主として支持してはいない。
 大づかみに見ると、UAEが盟主か、サウジが盟主かという争いがある。アラブの小国はUAEを立てている。GCC創立はUAEが音頭を取った。
 世界一、ひとりあたりGDPが巨額なのは、カタールだ。なんと8万ドル以上。
 カタールの王は、40年以内にカタールに知識産業を樹立して、石油ガス枯渇後に備えようと考えている。
 米軍はカタールに2014までにアル・ウデイド空軍基地を造った。地下バンカーには、ペルシャ湾で戦争になったときの司令部も設置できるように、通信設備が充実している。
 米空軍が頼りにしているISR機はF-15Eに偵察ポッドをつけたもので、やはりカタールから飛ばしている。充実したセンサーポッドで事前に脅威と価値を急速収集できる。それから空爆という流れ。 ※シリアにS-300があるのが気になって、オバマ政権側近は対シリア空爆をためらっていたのかもしれない。
 米軍にあって英仏等欧州列強にないもの。航空ISR、特にゲリラの無線発進点と交信内容を把握する装備。それとタンカー。それとJDAM/PAVEWAY。90年代のバルカン介入、2011のリビア介入、最近のシリア介入、仏特殊部隊のマリ作戦、すべて米軍がISR機とタンカーを提供してやって、はじめて可能になっている。2013に欧州のイニシアチブでシリアに介入できなかったのも、米軍が兵站の面倒をみてやらなければどうにもならなかったから。
 バーレーンは、島国だ。
 イランから守ってもらえるので、昔から親西欧だった。
 いまでは第五艦隊の基地もあり。
 バーレーンは、かつてのベイルートから、中東の銀行の地位を奪った。それは1975から1990までレバノンで内戦が続いたからである。
 バーレーンでは、堂々と酒も飲める。だから金持ちのサウジ人も、ここへやってきて、初めてくつろげるのである。
 バーレーンには米兵3000名が詰めている。
 バーレーンのシェイク・イサ飛行場(Shaikh Isa)には米軍機100機を容れる余地がある。英空軍もタンカー機をバーレーン内に置いている。
 2014-9時点でオマーンには、ムスナナー空軍基地(Musnanah)が建設された。他にもオマーンには七箇所くらいも空軍基地があって、英米で使っている。
 2014-9時点英国は、ISに参加した英国民からはパスポートをとりあげるといっている。つまり二度と英国には帰れないし、そこから他国へも旅行はできない。
 これに対して米国の情報収集屋は違う意見。こいつらが帰って来たとき、徹底訊問すれば、すごい情報を集められるだろうと。
 世界のインテリジェンスコミュニティも同意見。帰国したいやつは全員帰国させ、インタビューし、それから処断せよ。闇に潜られるよりはいいから。
 古諺にいわく。君がレモンしか得られなかったのならば、そこからレモネードをつくるべし。
 イスラエルは2007にシリアの核施設を破壊した。そのあと、ロシアがシリアに新しいSAM(S-300系)を提供した。
 イスラエル人いわく。最重要情報は「キーパーソン」の特定。誰が良い爆弾を造るテクニシャン/エンジニーアなのか。そいつを拉致または暗殺すれば、あとは、低性能な爆弾テロしか起きなくなる。その成果が挙がっていることは、たとえばガザ地区で爆発事故が増えることでモニターされる。素人技師が爆弾製造に失敗した兆候なのだ。
 自爆テロはひとりではできない。12人くらいで支援しないと成功しない。現場の偵察。そして、イスラエル軍警の関門をどうすりぬけるか。
 データベースのデータがすぐにリトリーヴできるようになっていなかったら、意味はない。これが情報戦のインフラの要諦。
 『USA TODAY』の2015-7-11記事「Roadside bombs remain insurgents’ top gun」。
 かつてJIEDDOと言っていた対IEDの専門組織は、7-13からJIDAと改名され、ペンタゴン内での地位は霞む。ほぼ、用済みとなった次第だ。しかし組織として存在価値を主張したいので、いろいろ言っている。
 振り返ると、IED被害のピークは2007のイラクで、米兵死傷者の七割にも達した。
 イラクからアフガンに兵力シフトしたのが2009で、その結果こんどはアフガンでのIEDが最盛期に。
 これを制圧した過程は省略する。
 いま、IEDの脅威はないのか? ある。
 ISは塩素ガスも武器として使用している。
 ISはドローンを先行させて自爆自動車のドライバーを正しい目標点へ誘導するようになった。
 アフガンでもIEDは進化している。アスファルト道路にも、踏み板式で、仕掛けられる。炸裂するとMRAPはくちゃくちゃになり、5×3フィートのクレーターが残る。
 以上、もっと詳しい解説は『兵頭二十八の防衛白書 2015』をご覧ください。