「核攻撃しても無駄ですよ」と隣国にアッピールできる部隊はどこにいる?

 大衆を飽きさせぬこと。これは帝国統治者の永劫の課題である。
 ロシア人民は、外敵を感じるとシャンとする、という特性があるので、プーチンはそれをとことん利用する。ロシア人にとってのサーカスは、戦争なのだ。ただし、楽しくないアドレナリン・サーカスだが……。
 出典忘失(たぶん半年くらい前のストラテジーペイジ)。
 プーチンは1980年代の東独暮らしが忘れられない。青年KGB員だった彼はそこでドイツ語を覚えた。そしてゲシュタポ=シュタジの手法を学習したのだ。
 つまりKGBはシュタージには劣っていたのだ。
 東独は、ゲシュタポの若手をそっくりシュタージに採用していた。
 プーチンには、シュタージの機能は理想的であり、ゲシュタポ以上だろうと見えた。これをプーチンは是非ともロシアで再現しようと念願しているのである。
 プーチンはフルシチョフも見習っている。フルシチョフの瀬戸際政策は、アメリカをしてロシアに一目置かせたから。
 プーチンはビスマルクにも倣おうとしている。演説で名前を挙げている。
 プーチンは、ウクライナを侵略しておいて、「これに反対すれば核戦争だ」とマジにNATOを脅迫している。
 じっさい、いまのロシアには、スペツナズ戦争(グレイゾーン・アグレッション)か、核戦争以外の「普通の戦争」は、不可能なのである。核しか頼れるものがない。
 ルーブルの対ドル・レートは下がる一方。国内のインフレは進む一方。西側の投資格付け機関は、いまロシアにカネを貸すのはカネをドブに捨てるのと同じだとのご託宣。
 しかし英国も含め、西欧はかなりロシアに貸し込んでいる。プーチンはそれが西欧の弱点だと思っている。制裁はやがて彼らの苦痛になり、彼らの方から撤回するであろう、とも。
 ロシア人口はふたたび減りつつある。モスクワ圏に職がないためだ。中央アジアからの流入人口がストップし、逆に域外への逃亡が進んでいる。ウクライナ蚕食は、何の得にもなっていない。しかしプーチンは次の侵略を考えている。その勢いを止めれば体制が再び崩壊するしかない。膨張しながら自爆して死の星になろうという変遷期。
 バルト3国とポーランドには、すくなくとも港があるので、ロシアからの侵略目標として魅力的である。(1943に死んだスパイクマンが、世界はロシアに不凍港の占領を許してはならないと叫んだ。キッシンジャーはソ連崩壊後にスパイクマン信者になった。しかしゲオポリティシャンが外し続けている事実がひとつある。ユーラシアを放置しておいてもそれが一つの独裁者により統一される蓋然性は限りなく小さい。ロシアとドイツも結局はくっついていない。まあ、これは米国が妨害したからだが。)
 ちなみに、エストニアの言語は、フィンランドやハンガリーや日本と同じ、モンゴル系だ。
 やはり少し前のストラテジーペイジによれば、手に技術のある兵隊不足に悩んでいるロシア軍は、外国人の軍隊入営を超簡素化した。とりあえず標準ロシア語が話せるならば、あとは無条件で許す。といっても、前科者とデブは不許可である。
 外人志願兵は、5年間の任期制軍人とする。ロシア空軍と海軍は技師が足り無すぎるので、もはやロシア語すらそうとういいかげんでも許している。5年つとめればロシア市民権もやろうという。
 西側の大失敗。ウクライナ軍がこんなに不甲斐なく、ロシア軍(スペツナズ)がこんなに有能だとは、事前には予測されなかった。ウクライナ軍は、グルジア軍以上の抵抗をするだろうと西側は予測していた。
 だが、その原因と結果は、おそらく逆なのである。ウクライナ軍があまりに腐敗していることをプーチンが諜報網によって熟知していたから、ここならば賭けができると踏んだのだ。ロシア人は、負ける戦争は始めないのだ。
 兵頭いわく、いま、ロシアが日本に対して低姿勢なのは、日本軍に腐敗が無いためである。
 2015-2-21の某英文記事。
 徴兵されてウクライナに行ってきたロシア青年へのインタビュー。
 義務徴兵の最終年だったのに、服役年限を延長された。20歳。すでに先遣されている空挺隊員が、おまえらの行く先はウクライナだぞと教えてくれた。上官は何も教えてくれなかった。脱走すれば刑務所だと脅かされた。
 露軍は、まずロストフ南郊の演習地に1等兵たちを送っておいてから、長期入隊契約をせよと迫る。この手管は2015-1から急増した。
 ロストフ軍管区では、2014夏以降、演習中に爆死したとする将兵の報告が数十件ある。実はすべて、ウクライナ軍との戦闘に投入された戦死者だ。
 2014-4以降、ウクライナでロシア兵は5600人以上死んでいると見積もられる。徴兵を最前線には送らないというのがモスクワの公的方針。だからプロ兵士として契約しなければならない。政府は国民には、誰もウクライナでは戦闘しておらず、南部で演習しているのみだと説明している。ロシアの徴兵の月給は、30ドル=3000円くらい。これがウクライナ前線勤務だと10倍になると説明されるが、数ヶ月でそのボーナスは終わる。
 飛行機もない。ロシアにはいま、わずか600機しか、戦闘機がない。※この数は中共の一線軍用機数とほぼ同じである。
 ストラテジーペイジの2015-7-6記事によれば、過去1ヵ月以内にロシア軍は5件の重大航空事故を立て続けに起こしている。スホイ24がハバロフスク基地から離陸直後に墜落したので、200機あるスホイ24は飛行停止になっている。
 ウクライナでは、あまり飛行機をとばしたくない双方が大砲に頼っている。これはストラテジーペイジの2015-2-24記事。射程120kmのSS-21や、無誘導で70km飛ぶフロッグ7も大活躍。それぞれ弾頭重量は、480kgと、390kgである。
 フロッグ7を超えているのが、口径300ミリで90km飛び、弾頭が250kgあるMLRSもどき。
 このMLRSスキーはロシアからゲリラに供給されていることは疑いもない。
 モスボール状態だった8インチ自走砲まで引っ張り出してきた。
 100kgの弾丸をRAPで55km飛ばす。
 ストラテジーペイジの2015-2-9記事「Armor: Russia Bets On Armata」。
 先の軍事パレードで見せたロシアの次期AFVコンセプト群は、まるで周回遅れじゃないかという。すなわち、重厚長大路線なのが解せない、と。
 たとえば、クルガネット25という、ブラドリーもどきのIFV。T-14戦車のシャシを利用するファミリーである。
 しかしアメリカはIEDのせいでブラドリー乗員が背骨を折られまくり、もうこんなデカいだけのデザインはダメだと2007に察して戦場出撃停止にしたというのに、それをロシアはこれから採用するのか。
 兵頭いわく。ロシアAFVの重厚長大路線は、もはや露軍が兵員数に頼れなくなったことと、核にしか頼れなくなったことを考えれば、むしろ自然である。ドンガラの大きなAFVは、兵隊にとって核シェルターになるからだ。
 たとえばストラテジーペイジの2015-3-31記事によると、西シベリアの自動車化歩兵旅団が、最新バージョンのT-72を受領した。
 FCSと、通信機が改善されている。だが大事なことは、ソ連戦車の内側にはボロン複合繊維を貼ってあって、中性子の影響を遮蔽しようとしてあること。輸出用にはこれがない。
 西側戦車は、ターレット内部に、樹脂の上に貼り付けたセラミクス層をもっているが、T-72にはそれはない。※日本の戦車にもないだろ。
 T-72は総計2万両、つくられた。これより多いのはT-54/55シリーズだけ。
 ソ連のT-72の砲塔装甲は、厚さが410ミリ。ポーランドで製造しているバージョンは、もっと薄い。
 T-72のエンジンは、T-34用の500馬力をスーパーチャージャーで780馬力にしたものである。
 主砲のあとガスを車外へ強制排気するためのメカもあり。オートローダーだからこれが可能。
 初期のT-72は、ターレットの装甲が鋳鋼の280ミリにすぎなかった。プラス、防楯80ミリ。車体前方上部は、200ミリだが、傾斜によって有効厚みを600ミリにしていた。改一型では、砲塔前面を避弾径始ではなくした。そして気泡のある鋳鋼とし、その気泡の中に水晶もしくは砂を詰めた。改二型では、気泡内にペレット状の充填物を入れた。
 これを補強するのが、軽量な爆発防禦表面アタッチメント。ソ連崩壊後にドイツで試験したところ、ソ連製のERAはメチャ優秀であった。「コンタクト5」というのだが。それであわてて、NATOは新戦車砲弾を開発したのだ。
 兵頭いわく。わが第七機甲師団は核戦争の環境下でも活動できる冷戦対応部隊として編成されていた。ところが陸幕は何ゆえかそれを政府に言わなかった。フクシマ原発事故のとき、当然、この第七師団を「いちえふ」に即座に投入するべきであった。それは中共に対するメッセージになったであろう。「日本を核攻撃しても無駄ですよ」と。
 陸自の存在意義も抑止力にあるはずだ。ところが第七師団や富士の90式戦車が福島県で何の活躍もしなかった(むしろ放射能から逃げ隠れした印象を与えた)ことによって、第七師団も90式戦車も、対中共の抑止力とは無縁のものとなった。