制空聖人

 どうやら次に陸自(ひょっとして海自も?)が買うことになるUAVはこいつが本命じゃないかという最新関連情報だ。
 Richard Tomkins 記者による2015-7-31記事「Insitu building more small UAVs for Navy, Marines」。
 ボーイング社が株式を保有するUAV部門子会社である「インスィトゥ」社が、RQ-21A「ブラックジャック」を米海軍と海兵隊のために製造すると発表。
 初期徐行生産ロットの「4回目」として、6機を製造し、その代金として $78 million をメーカーは受領する。初期徐行生産の「1回目」は2013から始まっている。※それを陸自がテスト中なのだと思われる。しかし陸自は正確な型番や機種名を公表していないので日本の報道は混乱している。
 RQ-21Aは、全長8.9フィート。最高時速86マイル。上昇可能高度19500フィート。滞空24時間可能。
 電子光学センサー、遠でも近でもない中庸波長の赤外線センサー、レーザー測遠機、そして赤外線マーカーがコミである。
 他方、ノースロップグラマン社は、豪州のフェラ工学社(Ferra Engineering)にMQ-4Cトライトンのための部品を製造させるという契約を結んだ。
 トライトンは豪州軍が採用を決めている。
 トライトンは2013年に初飛行しており、高度6万フィートを24時間滞空できる。
 ブリスベーンに本社がある豪フェラ社が分担製造するのは機械部品と一部の構造材で、電子部品やエンジン系ではない。
 ※解説しよう。レイヴン級とプレデター級の中間サイズの無人機がメイドインUSAとして不存在であることは商機であるとしてベンチャー企業インスィトゥ社が「スキャンイーグル」を開発した。既存の海兵隊のRQ-7「シャドウ」は、回収のためには普通の滑走路(プラス、空母のようなアレスティング・ワイヤー)が必要で、不便すぎる。そこでインスィトゥ社は、トラック車載カタパルトから発射でき、ポール&ワイヤー方式でキャッチ可能な最大重量を狙った。その開発コンセプトは冴えていた。大手ボーイング社はそこに目をつけ、会社まるごと買収してしまったのである。スキャンイーグルにはRQ-21という型番が与えられ、海兵隊も買っている。
 その「スキャンイーグル改」を陸自がテスト中と伝えられているのだが、「インテグレーター」と「ブラックジャック」のどちらであるのか不明であった。日本の報道では「スキャンイーグル」と言っていたが、それはもう廃用に向かいつつある古い機体(サイズも形状もまるで別モノ)であって、常識的に、ありえない。もしも旧型の「RQ-21 スキャンイーグル」を掴まされるのだとしたら、またひとつ「防衛省の調達スキャンダル」が増えるだけである。
 今回のUPIの報道で、陸自が買いそうなのは「ブラックジャック」なのであろうと見当がついた。
 詳細は不明なのだが、RQ-21AのエンジンはHFE(heavy-fuel engine)だという。ちなみにこれを「重油」と訳しては致命的な間違いになり得るから気をつけよう。今日の米軍の航空機が話題である場合は、ヘヴィー・フュールとはまず灯油=ケロシンのことである。ガソリンではないという意味だ。RQ-21のエンジンが、灯油系のジェット燃料「JP-8」をピエゾで噴射して電気点火する特殊レシプロ・エンジンなのか、それともターボプロップなのかは、イマイチはっきりしない(速力から推してジェット推進ではないだろうが、艦載を考える場合、米海軍はプロペラ系を嫌う。取り扱う水兵が危なくてしょうがないので)。ともあれ、米四軍は「ガソリン」は徹底して追放しつつある。小型UAVなら電池だから無問題だが、大型UAVなら「JP-8」一択だ(艦載となるとより高額で安全なJP-5燃料も考えられる)。陸自がそれに合わせないわけにはいかない。海自も、ミッドウェー海戦の空母の丸焼けという二の舞をしたくなければ、艦載無人機にも「JP-4」(半分ガソリン)が使えるかも…などとは間違っても思わないことだ(このたびの『だいせつ』火災事故はいろいろ参考になるだろう)。米陸軍ではプロペラ・プッシャー式の「グレイ・イーグル」のエンジンを特殊ディーゼルにしてまで、「JP-8」にこだわる。ディーゼルは、灯油でも回るのだ。
 無人機は、程度の差異はあるが、基本的に、消耗の激しい装備だ。たとえば「インテグレーター」は、実戦運用では5機1組である。翼端フックでひっかけてポールに宙吊りになるなどという変則的なランディングを繰返していれば、機体の構造部材からしてじきにガタガタであろう(レイヴンだともっと凄い。強制墜落である。そのためモジュール式にしてある)。なのに陸自はそれを評価テスト用に2機しか調達しなかったらしいので、試験といっても遅々として進まないのではないかと懸念する。案の定、2014-11に1機がオシャカになり(それ自体はよくあること)、今は1機しかないはずだ。それでどうやって十分な調査ができるのだ?
 ※余談。『更級日記』には、足柄山は四、五日行程前からおそろしげに暗がりわたって見えた、とある。さすれば、東国では早くから樹林は伐採され尽くしていたのに、足柄山のあたりではいつまでも森林が残っていたのだと考えていいのだろうか?