やはり「JLENS」はいつのまにか海兵隊推しのど腐れ案件となっていた

  David Willman記者による2015-9-26 記事「$2.7 billion later, Pentagon’s defense airships have yet to get off the ground」。
 役に立たないことが次第にわかってきてもその予算をもはや打ち切れなくなっている軍事開発プロジェクトを「ゾンビー・プログラム」と呼ぶ。レイセオン社が主契約者であるJLENSもその仲間入りをしつつあるという事実を『ロサンゼルス・タイムズ』が暴いた。
  レイセオン社は、JLENSがボートのスウォームや爆装トラックも探知すると謳っている。しかしこれまでの試験成績はどうしようもない。
 常識で考えて、米国のような長い海岸線と陸上国境に隙間無く展開することは予算的にまったく不可能。さりとて敵地に近いところでは、かんたんに撃墜されてしまう。
 そこで陸軍上層部は2010年にJLENS計画を中止しようとした。ところが……。
 レイセオン社はロビーイストを総動員して逆襲擁護させた。その筆頭者は、当時の統合参謀本部副議長だった海兵隊大将J.E.カートライトである。
 カートライトはまんまとさらなる実験予算を獲得した。それは2011に首都上空でテストするというものだった。
 そしてカートライトはその年に退役した。5ヶ月後、彼はレイセオン社に再就職した。そして2014年末までに、レイセオン社はカートライトに82万8000ドルの現金ならびに有価証券を支払っている。
 カートライトは今でもレイセオンに雇われている身分である。そして『LAタイムズ』紙の取材からは逃げ回っている。
 ペンタゴンの新兵器実験部長を1994から2001まで努めた経験者のP.E.コイルは、繋留気球搭載のレーダーをネットして米国海岸線に近付く巡航ミサイルを見張ろうとすれば、それは気が遠くなるようなカネがかかると断言している。
 長さ242フィートの気球にヘリウムを充填し高度1万フィートでレーダーを作動させると半径340マイルを見張ることができる、というのが謳い文句。
 2機が1組として運用されるという。
 だがいまだに2コいちの運用はできない。ソフトが完成しないのだ。
 気球は自重が7000ポンドある。これを、1と八分の一インチの太さのケヴラー製のケーブルで繋ぐ。そのケーブルには電線も入っている。
 2機(1セット)の気球を運用するためには、地上には130名の兵隊が必要である。
 この計画に最初に予算をつけたのは米陸軍で、1998のことだった。
 2001-9-11が追い風となり、さらに予算がついた。陸軍は2005-11に、この気球を28機買おうじゃないかと決めてさらにレイセオン社に開発費を与えた。その追加金額は13億ドル。
 ところがレーダーを管制するソフトウェアが一向に仕上がらない。
 そのあたりから、陸軍の内部で、これは詐欺案件じゃないかという疑いが抱かれ始める。
 このシステムは戦場へも素早く移動展開させられらると宣伝されていた。だがそれは最初から怪しかった。繋留場には「アンカー」となる分厚いコンクリートが埋設された土地が必要であり、しっかりした発電&給電設備もなくてはならないのだ。
 そもそも米軍は巡航ミサイルを探知できるAWACSを既に有している。
 2010-9-30には、嵐のために民間の気球の繋留索が切れて吹き流され、それが地上にあったJLENSに衝突して、1億8200万ドルの損害を与えた。
 その時点までにペンタゴンはJLENS計画に20億ドルをつぎ込んできたが、レイセオンいわく、モノになるまでにはあと数十億ドルが必要だと。
 そこで陸軍参謀次長のPeter W. Chiarelliは、まず28機購入予定をとりやめ、さらに計画自体をキャンセルしようと準備した。
 チアレリ(すでに退役)にいわせると、陸軍が保有を優先すべきシステムはRAM、すなわちロケット弾、野砲弾、迫撃砲弾の飛来を警報してくれるシステムであって、巡航ミサイルの警報システムではないからだ。
 これに対してレイセオンが動員したロビーイストたちがすごい。前の上院議員のロット(ミズーリ選出、共和党)、同じくジョン・ブルー(ルイジアナ選出、民主党)が含まれていた。
 そしてレイセオンはそれまではJLENSはイラクのような戦場で米軍を守るシステムだと言っていたのに、それ以降は、米本土で市民や都市を守るシステムだと強調するようになった。
 のみならず、ドローン、小型飛行機、陸上で動くAVFやトラックまでも探知する多機能レーダーだとレイセオンは強調し始める。
 気球を製造して納入している下請けメーカーはメリーランド州にあるが、同州選出の上院議員ミクルスキ(民主党)は、もちろんJLENSを首都防空のために使うというレイセオンの最近の宣伝に賛同するようになっている。
 とはいえ陸軍首脳はまだ正気の者が揃っているようだ。彼らは、カートライト一派があくまでJLENSを推進するならば勝手にやるがいい、しかし陸軍は予算は出さないから、と言っている。
 これまでのところJLENSはただの一回も、試験場において、連続30日間のレーダー監視運用を実現できていない。レイセオン社はそれを天候その他のせいにしている。
 そしてペンタゴンは2012年の報告で、JLENSのソフトウェアは敵味方の識別ができないと言っている。
 ではいったい どのくらいならば連続昇騰できているのか? ユタ州での試験ではなんと、平均すると、一回の昇騰が21時間しか持続していないという。
 JLENSの地上繋留場にはコンクリート舗装が必要である。これはアンカーが揚力でひきぬかれないようにするために、かなり分厚く重くしなければならない。首都近くでの試験におけるその舗装工事費用は、2000億ドル近くかかった。
 ※9-25に、海兵隊のダンフォード大将が陸軍のデンプシー大将から統合参謀本部議長の椅子を譲られた。ダンフォードはかつてアフガン戦区の総司令官だった。さすがに米四軍の長の地位に就いた者が一軍需メーカーの手先になって外国に筋悪な兵器を売りつけるようなマネはできない。要警戒なのは、その次位の者や、4軍の制服の長たちである。