時間が無くて推敲してない文章ですが……トランプ・ファンの馬鹿保守が増えそうなので緊急UP。

 米国のシンクタンク、ブルッキングス研究所に所属するトーマス・ライト氏が「Trump’s 19th Century Foreign Policy」というタイムリーな一文を2016年1月20日にインターネット上にアップロードしている。
 このエッセイは、16年11月に決まる次の合衆国大統領の選挙に、共和党の公認候補となって臨むかもしれないドナルド・トランプ候補(この時点で共和党系立候補者中の人気ナンバーワン)が、およそ地政学の教養とは無縁な人物であることをよく教えてくれる。ここで紹介する価値があると思う。
 ドナルド・トランプは思いつきで物を言っているように視聴者から思われがちだけれども、彼の過去30年の発言はいちいち記録に残されており、それを調べると、昔から確信思想のセットをブレずに保持していることが判るのである。彼の世界観は、30年間成長をしなかった。
 よく引用されるトランプの外交ポリシー。
 たとえば、
 イラクの油田はアメリカが支配してアメリカのために使おう。
 在韓米軍は撤収させる。
 メキシコ国境には万里の長城を築いてやる。
 プーチンの強い指導力は賞讃に価する。
 これって要するに、19世紀に戻りましょう、ということである。
 彼が第一に不満に思っていること。アメリカ軍は自腹を切って海外にコミットしすぎている。アメリカ国民の多額の税金がまったく外国のために使われており、アメリカ合衆国には一文の得にもなっていない。そのような税金の使われ方は不愉快である。
 米国は世界経済のせいで不利益を被っている。
 トランプは、独裁者が好きである。独裁政治が好きである。
 米国が主導するリベラルな世界秩序。そんな負担も責任ももう願い下げだ。
 1987年にトランプは10万ドル払ってNYTに全面意見広告を載せた。そこで全米の読者に向けて問うたことと、今、選挙民に向けて演説していることとは、ほぼおんなじだ。
 トランプは突然変異種なのだろうか?
 そんなことはない。彼にはよく似た先達が居る。
 1940年、48年、52年の三度、共和党から大統領選挙に立候補していずれも敗退した保守派のリーダー、ロバート・タフト上院議員と、トランプの志向性は酷似している。
 このタフト氏は1941年、ドイツと戦争中の英国に米国が財政支援することに反対した。
 WWII後は、米国の貿易を拡大しようというトルーマン政権の方針に反対した。
 反共ではあったが、西欧防衛のためにわざわざ米軍が出張してソ連を封じ込めてやる必要などはないと考えていた。西欧は自分たちで防衛すればいいし、それができなければ、アメリカが知ったことではない。だからNATO条約にも反対した。
 すなわちロバート・タフト上院議員は、現代アメリカ政治史上で、集団安全保障に本質的な疑問を投げかけた、最後の大物であった。
 独裁者に親近という点では、飛行士ヒーローのチャールズ・リンドバーグも先達だ。リンディは孤立主義標榜団体を率いていた。
 19世紀にはすべての国が輸入関税を高く設定し、自国だけ儲かれば良いという重商主義の道を邁進していた。
 2015夏にトランプは Bill O’Reilly に向かって言った。メキシコ国境には壁を築けばいい。万里の長城は1万3000マイルあったろ。〔=2万917km。しかしこの数値は中共政府による近年のフカシであり、現存遺構は6259kmしかない。ちなみにメキシコ国境は3145km〕。
 1990に米『プレイボーイ』誌は、もしあんたが大統領だったら、と訊いた。
 それに対するトランプの答え。
 俺はとにかく軍隊を強化するね。そして、ロシアを信用しないと同様に、同盟国だって信用しない。なぜ世界で最も裕福な国〔バブル末期の日本を指す〕を、何の見返りもなく、アメリカが防衛してやらなくちゃならないんだ?
 アメリカは世界一のカネモチ国になった日本を防衛しているが、これは笑いものだ。
 世界の笑いものなんだよ。
 日本だけでなく他の同盟国たちもだ。そのためにアメリカ国民が500億ドルも毎年負担し続けているなんて。これらの国々はもしアメリカが同盟国でなかったならば15分で地上から消え去るような存在だ。それがわれわれからカネを毟り取っているんだぞ。
 トランプは、アメリカが同盟国たちからいいように利用されているのだと昔から信じている。
 合衆国は他国を防衛などする必要はないし、もしそれをするのならば、しっかりと代価をその国から受け取るべきであるという。
 同盟国は、アメリカにカネを払え。防衛してもらっているカネを払え。
 過去、トランプから最も攻撃されてきた外国が日本である。
 1987の 米国民への公開書簡 の中でも、特に日本を問題視した。〔日本のバブル景気は1985から始まっている。〕
 アメリカの財政大赤字を、日本のカネで埋めるべき時だ、とトランプは主張した。
 世界防衛のためにアメリカがしている努力は、これらの国にとっては数千億ドルの価値があるはずだ。そしてこれらの国はその金額以上の利益をこうむっているのだから、数千億ドルをアメリカへ支払うべきだ。
 現在の選挙期間中もトランプはまた「反日本論」を持ち出している。日米安保条約は見直すとトランプは言う。
 誰かが日本を攻撃したら、われわれはすぐ出て行って中共と第三次世界大戦をはじめなければならない。しかしわれわれが攻撃されても日本は助ける必要はないという。これは公平か?
 2013には韓国を攻撃した。
 いったいいつまでわれわれは韓国を無償で北鮮から守ってやるのだ? 韓国人はいつ防衛費をアメリカに払ってくれるんだ?
 現在のキャンペーンでも、NBCのインタビューに答えて、北のキチガイから韓国を守ってやるために2万8000人の米兵を無償で韓国に貼り付けているが、その費用に見合った米国の利益は実質何も無い、と言っている。
 数年前には同様のことを在欧米軍についても言っていた。
 ここで Thomas Wright 氏いわく。しかし同盟国は米軍基地を守るためのコストを負担しているんだが。
 また米軍の事前展開により地域が安定化されているという絶大なメリットがあるんだが。
 危機のたびに米本土から軍隊を派遣していたら、コストはこんなもんじゃすまない。
 トランプが昔から言い続けている台詞。アメリカは勝っていない〔損を得が上回っていない〕ぞ、と。
 アメリカがカネと人を出しながら、その対価を金銭で得ないことを、事業家のトランプは「敗北」と考えるわけである。
 海洋および空、宇宙をグローバルコモンズとしておくためのコストも、トランプは負担したくない。
 トランプにいわすと、FONOPも無料でやるべきではない。
 では被保護国はアメリカに幾ら払えばいいのか。オプラウィンフリーに1988に答えたところでは、クウェートは原油収入の25%をアメリカに払うべきであると。
 そしてもし彼が大統領になったら、これら諸外国からみかじめ料を取り立てまくるつもりであると。
 1987の彼の宣言。これらの被保護国にこそ、アメリカは税金を課せ。アメリカ国民にではなく。
 彼はNAFTAにも反対だしTPPにも反対。
 もし19世紀の関税政策に戻ると、世界経済は降下スパイラルに入る。しかしトランプは気にしない。
 興味深いのは、トランプはロシアと中共を敵だと言っていない。ISやイランは批判するが、露支へは悪口を言わない。
 ※ケリーの最近の本でも中共のことはスルーしてるし、ロシアはすでに獲得した領土を守りたいだけだから「ミュンヘンの教訓」などあてはまらないと主張している。
 トランプは、強くてタフな指導者を愛するのである。
 1990にトランプはゴルバチョフは弱いと批判し、天安門の措置は称揚した。
 これに対してプーチンは2015-12に、トランプが大統領になれば歓迎だと発言。
 TV番組“Morning Joe”での、 Joe Scarborough とのやりとり。
 プーチンは反対派のジャーナリストを殺しているというが、アメリカだっていろいろ殺してるだろ。
 もしトランプが大統領になったら、ロシアに中東テロを鎮圧させ、見返りに欧州をくれてやるだろう。
 トランプは『NYT』記者に、シナ商品には45%関税をかけてやる と言ったが、その後、撤回。
 彼が大統領になったら、バルト海も尖閣もアラビア半島も守らないだろう。 そして日本は核武装するだろう。
 大統領ニクソンは、ブレトンウッズ体制を守るコストを嫌い、単独でそれを破棄した。
 すなわち、スタグフレーションを止めようと、1971に彼は、どの同盟国にも相談なしに、金ドル兌換を停止したのだ。
 これでブレトンウッズ体制は終わった。
 ニクソンもキッシンジャーも、ストロングマンスタイルの政治や政治家が大好きだった。
 しかし中共を「開国」させたことで、地政学的にソ連を追い詰めた。これはニクソンの手柄。
 1940の予備選挙では、国際関係重視派のウェンデル・ウィルキーが予想外に共和党の大統領候補に選ばれた。ウィルキーが勝っていなかったら、タフト上院議員が大統領になっていた。
 ※日本の馬鹿保守が「イギリスの陰謀」とか言ってる選挙ね。けっきょくFDRが続投。
 どうも民主党候補もダメ揃いなので今回、ひょっとするとトランプが来るかもしれない。
 もういちどアメリカは、なぜ健全な国際システムが必要なのか、一から説明されなくてはならない。
 ※というわけで今年は地政学論争が起きる。トランプは「米支密約」を知らない。またスパイクマンが強調した「空軍基地をユーラシアに近い島国に置かせてもらうメリット」、そしてマハンが強調した「海軍基地を敵交通線の近傍に保持することのメリット」も学んでいない。2月末に徳間書店さんからとてもわかりやすい兵頭二十八の地政学を出しますので、ご期待ください。