日本最初の「リヴォルビング・ドア」開拓者による新刊

 中央の官僚がエリートコースの国家公務員を辞め、民間でシンクタンク職員等となったあと、その研究や経験をひっさげて、ふたたび官衙で以前より低くないポストを得ることを「回転ドア」と称し、米国では野心的秀才のキャリアパスとして一般的だ。
 彼らは修士や弁護士から出発してこの回転ドアをなんども通交しながら次第に総合スキルを磨き上げて行政権力(最終的にはホワイトハウス中枢職)に近づく。
 しかし日本では官公署の次官・局長・課長・課長補佐についてのポリティカルアポインティ制が無いのと、「中央官庁そのものがシンクタンク」という構造もあるために、回転ドアの余地はこれまでなかった。
 ところが伊東寛[ひろし]氏は新例をつくった。
 近年急速に専門家需要が増しているサイバー戦争分野。どの官庁内にも「人材は間に合ってます」と胸を張れるほどな既製部署は存在しない。
 まして、身元がしっかりしているナショナルセキュリティ系の元公務員のハッカーとなれば超稀少である。
 そして政府は東京五輪の警備準備をいまから立ち上げねばならない。
 というわけで、陸自の電子戦部隊を率いていた伊東氏が、政府から頼まれてサイバー防禦の面倒を見ることになった。
 日本政府の仕事を請け負っているサイバーセキュリティの業界は狭い世界(おそらくほぼ全員が顔見知り)だ。伊東氏の身元保証によってリヴォルビングドアをくぐる人材は、これからも続くのだろうと想像される。
 快挙はいくつかの偶然のなりゆきにたすけられた。既存のセクションではなく、新設機関(室)であること。五輪のためとなれば財務省もケチなことは言わないこと。サイバーの戦場は高速に「進化」し続けているので、「官庁内新人育成システム」がこれからも当分は人材を供給し切れないこと。
 そんな伊東氏が原書房から新刊を出した。『サイバー戦争論』という。
 サイバー戦はもう平時から始まっている。しかも「守っているだけだと必ず負ける!」(p.98)と第一人者が言うのだから、読者のわれわれもぼやぼやしてはいられない。
 有効な報復策を考えねばならない。
 これについて有意義なヒントがある。『兵頭二十八の防衛白書2016』の277ページにおいて、ピーター・ナヴァロ教授が、――〈シナ製品不買運動〉は悪い保護主義ではない、正しい「自衛」である――と主張していることを紹介しておいた。
 私(兵頭)は、テロ戦争や経済戦争やサイバー戦争で「これは自衛だ」と言えるアクションはほとんどありえまいと想像する。たとえば「放火犯罪」に対する「自衛」って、聞いたことないでしょ? 「のぞき」(軽犯罪)に対する「自衛」も一般には起こり難いものだ。
 サイバー工作は、「のぞき」や「放火」に累次している。もし「予防」に失敗した場合、あとは社会による「報復(復仇)」があるのみなのではないか。
 イスラエル人やロシア人がしぜんに備えているような「永久に果てしなく続けられる報復活動」についての想像力が、庶民から政治指導者に至るまで、必要である。このセンスを持った者が「戦争のプロ」である。
 ナヴァロ教授は、米国が中共に報復できないのは、経済成長をシナ市場に依存するようになってしまったからだ、と論難している。
 しかしほんとうにそれだけだろうか?
 文学者の伊藤整が昭和28~33年に道破した如く、「善の強制の考え方」が、キリスト教圏人にはある。
 そのゆえに、いかに異質な文化圏であれ海外市場との関係を切れないのだ。イスラム圏や儒教圏から遠ざかるのではなく、かかわろうとする。乗り込んでアメリカ風に改造しようとする。それが可能だと考えている。
 しかし伊藤整が指摘したように、我々日本人は、他者から距離を置き、他者に害を及ぼさない状態をもって、心の平安を得る。他物の影響を物理的にも感覚的にも断つことによって安定環境を得たいと願っている。
 すなわち隣国との断交である。日本人にとっては、断交は善なのである。
 日本人は、「他者を自己と同一視しようというような、あり得ないことへの努力の中には虚偽を見出す」(伊藤整)。
 だから、国交断絶も苦しくはない。むしろ、そこにこそ平和がある。日本人にとっては、正直な道徳的発想だ。
 このことが、米国政府にも不可能な「対支オフセット報復エスカレーション」が、日本政府にのみ、容易に遂行可能であることを意味するのである。
 もちろん、全世界を「上下関係」でしか把握できず、強者から特権をちょうだいすることが自己承認だと心得ている儒教圏人にも「断交」されることは打撃だ。日本人だけが、断交を苦痛としない。むしろ快楽と考える。したがってシナ人は日本の断交戦略には対抗不能だ。
 日本政府は、中共発の違法サイバー工作を受けたと思ったら、フォレンジックな証明を待たずに、オフセット報復を発動することだ。具体的には、シナ人へのビザ発給を停滞させる。留学ビザも逐次に絞り込む。
 もちろん北京は報復する。それに対してはこっちも報復を段階的にエスカレーションさせる。徹底的に関係を減らして行く。大使もとっとと召還する。大使館は相互に閉鎖してもらって構わない。それでこっちは何の不都合もない。最後は日支交流ゼロとなることがまさに理想である。我々は儒教圏人の正体を知った。地理と気候が変わらない限り、彼らのビヘイビアも変わることはない。
 交流が制限されればされるほどに、シナ人の対日違法工作もそれだけやりにくくなって、我々が隣人からわずらわされる度合いは着実に減って行く。国交断絶に近づけば近づくほどに日本人の心は平穏になる。これが日本人の強みだ。強みを活かすのが戦略だ。
 どこの国家でも罪人は罰せられている。社会から罪が憎まれているからである。罪に対する社会のヘイトは正義である。
 われわれも人を憎まず罪を憎む。他者を上下関係の中に組み込もうとする儒教圏人のビヘイビアは罪である。他者の心の中まで踏み込んでくるキリスト教圏人のビヘイビアは罪である。
 罪の方から近づいてくるのならば、日本社会は反撃しなければならない。それを遠ざけねばならない。
 われわれが「断交戦略」を明確に保持してノートレランスでそれを発動したときにのみ、われわれの敵は怯み、サイバー攻撃を控えるであろう。すなわち、報復の脅しが攻撃予防に直結するのである。
 次。
 JENNIFER McDERMOTT記者による2016-8-18記事「US Air Force to change fire foam due to water contamination」。
  航空機のクラッシュ炎上を急速に鎮火させる泡消火剤として米軍は、PFOSとPFOAという二つのケミカル薬を使っているが、これが土壌に染み込むと地下水を汚染して住民のあいだに睾丸癌、腎臓癌、奇形児、肝臓病などの健康被害が出るおそれがあるというので、まず米空軍が率先して、これからは別な消火剤に切り換えたい方針。
 これらはすでに消火訓練でもさんざん使われてきた。
 代替する新消火泡剤は、PFOS(フッ素に、硫黄が化合している)を全く含まず、PFOA(フッ素と酸が化合している)もほとんど含まないものにする。
 PFOAは、民生品にも使われている。汚れがこびりつかないフライパンとか、シミのつかないカーペット、などにだ。またこの薬剤を製造している工場の近くの水道水からも検出されるという。
 ※この夏休みには嬉しい発見と悲しい発見があった。ニセコヒルトンホテル(昔はプリンスホテルといった)に隣接したニセコヴィレッジの「ツリートレッキング」は、最高である。あの金具とワイヤーケーブルのシステムを考えたスイスのメーカーに勲章を上げたい。身長110センチ以上の小学生から「初級」コースに参加でき、身長140センチ以上だと「上級」コースに参加できる(金具もハーネスも異なる)。上級コースでは、距離は短いが高度だけは十分の「ジップライン」もどきを体験できる。もしオンシーズンの休日に行くのなら9時台の前半から乗り込みたい。待ち時間が減るだろう。そして提案だが初級コースの中にボルダリングの垂直壁トラバースも取り入れたらいいんじゃないか? 樹木伝いにこだわらずに、左右の人工懸崖のキャニオン渡りだけでコース構成したっていいわけだよ。残念だった発見は、尻別川の混雑だ。ゴムボートだらけじゃねえか! あんなのラフティングとは言えんぜよ。まあ、一生に一回しかやらないという人たちは、すべてが珍しいので満足してくれましょうけどもね……。