「Sino-」は、ギリシャ語でシナ人のことを「Sinai」と呼んだのが語源である。

 Matthew Moss 記者による2016-10-27記事「How Churchill Paved the Way for NATO’s Standard Ammunition」。
   英国の第21軍が1945年に文書をまとめている。「WWIIのノルマンディ上陸からドイツ降伏までの西部戦線における小火器弾薬威力についての最終報告」。今では王立造兵図書館で読める。
 ドイツの突撃銃が採用した「中間サイズ弾薬」の合理性を彼らは認めた。
 ちなみに戦中のドイツの突撃銃のタマは7.92×33ミリ。ソ連の新弾薬はそれを基にして7.62×39ミリとしていた。
 そこで1949に英国も0.303=7.7ミリのリーエンフィールド槓桿式ライフルを更新する自動小銃のための新弾薬を開発した。0.280インチ弾である。
 中間弾薬の模索はWWII直後からスタートし、1947には「理想口径委員会」が0.280インチを推奨していた。
 これは発射反動が0.303インチ弾薬の半分だった。
 1951の実射比較実験。セミオートで標的を狙って射撃をする場合の現実的な最大レートが判明する。.303のリーエンフィールドボルトアクションだと毎分27発が限度。.30-06のガランドだと毎分43発。そして.280のEM-2は84発。
 英国はもちろんこの0.280がNATO弾として正式採用されることを望んだ。
 ところが米国も秘密裡に独自の新弾薬を複数研究していた。そのひとつが7.62×51ミリの「T65」である。
 米国は英国よりもストッピングパワーと射程にこだわった。それで.30-06をベースに薬莢を軽量化しようとしたのだ。
 T65実包は0.280弾よりも銃口エネルギーが4割も強く、フルオートにした場合、銃身の踊りを抑えられない。
 1949から1954まで、英米は公然と競った。
 他のNATO諸国は、英米間の決着がつくまで、待たされた。
 英国スプリングフィールド造兵廠は0.280用の複数の小銃を試製している。
 そして労働党首相アトリーは1951-4に、.280を用いるブルパップ型の野心的な「EM-2」小銃の採用を宣言した。
 野党の議員となっていたチャーチルは、それはマズイと考えた。英国の小火器弾薬系統は、WWII後はもう米国に完全に一致させるべきなのだ。さもないと次の有事に無尽蔵の弾薬補給は受けられないであろう。
 チャーチルは議会で真正面からアトリー政府批判を展開した。0.280のEM-2の採用は、米国およびカナダの弾薬体系と英国を切り離してしまうではないか、と。
 そのチャーチルは1951-10から首相にカムバックした。
 英国と米国の弾薬体系が違っては、欧州防衛そのものが危うくなる。だから欧州の安全のために、コストを度外視して、いったん採用と決まったEM-2を、保守党政権では見直す、とチャーチルは決めた。
 野党労働党は、採否を決める前にチャーチル自身がEM-2を射撃してみろと迫った。
 そこで1951-11に人前で射撃したのである。
 チャーチル77歳だった。
 チャーチルはEM-2で100ヤード先を狙って20発発射し、9発を的に当てた。
 腰ダメのフルオートも試した。
 次にチャーチルはT65弾薬を発射する米国製のT25試作銃(のちのM14)を試射した。11発射ったところで、その反動のキツさに、チャーチルは射撃を中止した。
 だがチャーチルの判断は覆らない。われわれはすばらしい弾薬のためにソ連との戦争に負けるわけにはいかないのだ。0.280はすばらしい。だがわが国は7.62×51ミリを選ぶ。
 米国、カナダと弾薬のサプライチェーンを合一化しておくことは戦争に勝つために死活的に重要だからである。
 チャーチルは野党に返答した。わたしは米軍が0.280を採用するようひきつづき働きかけよう。しかし米国人がわたしに説得されなかった場合、われわれが1国だけで.280を採用することはしない。
 1952-1にチャーチルはDCへ飛び、トルーマンと会合した。
 ここでEM-2推しは終了した。
 1953後半、英国はT65弾薬を採用し、それを発射する小銃としては、ベルギー製のFN-FALを選んだ。
 じつはEM-2とFALは同時併行で開発されており、英国は、EM-2がダメならFALだと早くから考えていたのだ。
 英国がFALを採用したのは1953-12である。T65弾薬は「7.62×51ミリ」NATO弾となり、今も5.56ミリとともにNATO弾だ。
 FALは、カナダ、ドイツ、オランダ、オーストリーも採用した。が、米国だけは他国製を嫌い、M-14を採用した。
 ところが米国人たちもすぐに、M14はリコイルがキツすぎてダメだと認める。それで1964に真の「中間弾薬」である0.223インチ=5.56ミリ弾とM16自動小銃を採用したわけ。
 0.280を選ばなかったのは、やはり、見栄と意地なのであろう。