隣の国を滅ぼす作戦を書いた本が3万部も売れるとは、日本もまだ捨てたものじゃない!

 Ashley O’Keefe 記者による2017-2-1記事「Sea Control 127 ―― Dr. Tom Fedyszyn on Russian Navy Ops, Acquisition, and Doctrine」。
  ※以下、Fedyszyn 教授による講演のトランスクリプションの概要。
 ロシア潜水艦の活動は、過去25年間で最大になっている。今。
 2001年から2003年までのあいだ、ロシア潜は大西洋には1隻も無かったのに。
 現在、全世界で、年間に延べ「1500・隻×日」のロシア潜水艦の外洋活動が確認されている。
 『クズネツォフ提督』号について。こうした空母を含めたロシアの巨艦建造技術は、伝統的に、悪い。
 学校の通知表で言うならば「D」から「Dマイナス」の水準だ。
 ロシアのマスコミは、20年前は自由に近かった。今はもはや自由ではない。プーチンのプロパガンダツールとして統制されている。
 プーチンは行政官としては失格である。プーチンはロシアGDPの右肩下がりをずっと止められないでいるからだ。ロシアのあらゆる分野で予算が緊縮されている。
 地方自治体の予算が、半額カット。
 年金受給者の年金額が、半額カット。
 そんな中、唯一、海軍予算だけがカットされていない。しかしロシア経済が回復しなかったら、海軍予算も早晩、カットされるはずだ。
 ロシア空母は、対内的にだけ、ものすごく意義がある。その遠洋活動がロシア国内のプレスで宣伝されることにより、ロシア国民が喜ぶのだ。それがロシア空母の唯一の効能である。
 だから、プーチンは軍艦好き、海軍大好きである。
 じっさいには、シリア沖で、公称定数である艦上機数のわずかに四分の一が、かろうじて発着艦したにすぎない。そもそも積んでいった数が、公称定数の半分(20~25機)だったのだ。そのうちの2機がシリア沖で海中に墜落している。
 しかしロシア国内では、『クズネツォフ』がシリア空爆に大活躍したと報道されていて、ロシア国民はその大本営発表を聞いて喜んでいる。したがってプーチン先生にとっては「A+」の評価となる。
 同空母が北海を南下して地中海に入る間、ずっと英海軍の4杯の駆逐艦が追躡監視していた。異常な黒煙や白煙が出る様子も逐一、英国では、報道されている。
 ロシアからの兵器輸出は、ロシア経済の分母が小さいために、彼らにとっての意味は大きい。今月はじめ、『シュトーム23000E』とかいう新型空母を建造してインドに売り込むという話が『ディフェンスニューズ』で報じられた。
 こうしたセールス活動の一環としても、『クズネツォフ』を実働させる必要があるのである。シリア沖の映像とプレスリリースが、生きた販促展示となるのだ。こんな技術を持っているんですよ、っていうね。インド人に見せているのである。
 インド海軍の七割は、ロシア製の輸入品である。
 モスクワには米軍士官よりもおおぜいのインド海軍士官がいる。90年代に、わたしは彼らに尋ねたことがある。なぜロシア製を買うのかと。ロシア製の品質に問題があることはインド人もよく承知していた。だが、ロシアは米国と違って高度軍事技術の輸出にいちいちうるさいことを言わない。しかも、限られた予算で、十分に調達できるのが、ロシア製なのである。
 ロシアからインドに売られたスキージャンプ型空母『ヴィクラマディティヤ』は納期を4年もオーバーし、コストは3倍に膨れ上がった。それでも、インドが買える空母はロシア製だけだから、しかたがないのである……と、インド人士官たちが異口同音に答えてくれた。
 とはいえインドは今、純国産の原子力空母も建造中だから、もしこれがうまく行けば、ロシア造船界にとってはバッドニュースとなる。ただし、竣工がおそろしく先になることは、既往から推して確実だが。
 『シュトルム』型空母を3隻以上建造するなどといったロシア人の話はフカシだ。6万5000トンをいちどに建造できるドックはないので、2箇所で半分づつ建造してそれを最後にひとつに溶接しなければならない。今のロシアの造船技術ではまず無理である。
 しかも、例によって、主機を核にするのか非核にするのか、それが定まっていない。核にするならフラットデッキ空母にできるが、非核ならスキージャンプだ。主機が定まらないでは上構デザインも決まらないし、中層以下の甲板に納めるカタパルト用のスチーム設備も何も決められない。
 ロシア海軍は海洋ドクトリンを更改する。前回は2015年、その前は2001年だった。
 2001年版ドクトリンは、あきらかに、海軍将官が草案に関与させられていなかった。
 通商と観光業とエネルギー産業の役人がほとんどドラフトをまとめてしまい、最後の仕上げで海軍がちょこっとだけ意見を訊かれたのだとわかるようなつくりだった。
 しかし2015版海洋ドクトリンは、プーチンがフリゲート艦『ゴルシコフ提督』の上級士官室内で署名しているところがテレビで宣伝されている。場所はカリニングラード軍港内。その場には軍関係の高官しか立ち会っていなかった。
 このドクトリンにはとんでもないことがいろいろ宣言されている。まず、ロシア海軍のミッションは、北極海で他国の軍艦には自由に活動をさせないことであると。
 NATOはロシアの筆頭脅威であり、NATO海軍がロシア本土に接近しないようにロシア海軍を大西洋に展開する、と。
 また、地中海にロシアの小艦隊を常在させねばならぬ、とも。
 全編、「NATOの脅威」ばかりだった。太平洋方面に関しては、中共やインドの海軍と良い関係を築くということしか書いてない。
 回顧すれば、ワシが『ウィリアム・V・プラット』の艦長であった1989年に、最後の露艦が地中海から去っていくのを見送ったものだ。これがソ連のトリックではないと分った後、わが艦隊司令官は麾下艦長たちに訊ねた。おれたちはこれから何をすればいいんだ、と。ワシは提案した。「15の港に親善訪問して廻るというのはどうです?」。誰もそれ以上の名案は出せなかったよ。ラヴトレインならぬラヴボートの巡航が、こうして決まったのだ。
 決して馬鹿にしているわけではないが、ロシアは「大きなナイジェリア」なのである。
 ロシア経済は、国際エネルギー価格に依存している。
 2008に、西側では無名のセルドュコフが国防相に任命された。彼はロシア海軍からは感謝されている。装備調達費の4割を海軍建設に回してくれたから。
 セルデュコフの大改革は、徴兵は艦隊に勤務させないと決めたことだった。艦内厨房や、海軍基地には、まだ徴兵がいる。しかし他の分隊の水兵は志願兵だけとした。冷戦期のソ連水兵は文盲に近かった。それでは近代戦はできないと彼は認識している。
 どん底の2001年頃、フリゲート1隻つくるのにロシアの造船所は14年も必要とした。冗談ではなく。今は5~6年で竣工できるようになった。
 国際油価が上がって懐が暖かくなると、ロシアはまずSSBNに投資する。
 『ボーレイ』級(955型)SSBNはイイ線を行っている。
 いま、3隻が就役していて、5隻は建造中/計画中だ。
 ただし、プラットフォームができているのに、ミサイルができていない。SLBMブルヴァの固体燃料がダメなのだ。試射は、失敗の連続だった。
 しかし現在では、半数が成功するところまで来ている。
 『デルタ3』『デルタ4』『タイフーン』も少数あるが、いずれも信頼できぬSSBNでしかない。
 SSNに関しては、まだまだ静粛性において、ロサンゼルス級やヴァジニア級には追いつけていない。
 昨年、カスピ海からミサイル艇が巡航ミサイル「カリブル」を発射した。1000トンの『ブヤン』型に8基搭載できる。それが1500海里も飛翔する。26発を射ち、途中で落下したのが3発だけ。あとは目的地まで到達した。これは大したものだ。
 プラットフォームは他にもあった。黒海に配備されている『キロ』型。これが地中海まで出てきて、そこからも「カリブル」を放ったのだ。
 プーチンは、海軍や軍艦が好きだと考えられる。それはクールなのだ。
 ロシアからアサドへの補給物資は99%が、黒海を発してタルトゥス港に入るルート。そのシーレーンをプーチンはロシア海軍に確保させている。
 米外交団がキューバで話し合っているときにも、プーチンは巡洋艦をハバナ港に寄港させた。
 ロシア海軍は、制海海軍でもないし、接近拒否海軍でもない。
 しかし、黒海、バルト海、大西洋では、手ごわい敵手である。特にロシア本土の海岸線に近いところならば。
 ※今月末には徳間書店から、インドとロシアの間の兵器ビジネスを詳しく取り上げた面白い本が出ます。同書では久々に、今後の日本の国産軍用機の展望についても語らせていただきます。乞うご期待。