アンコール依存症

  Ryan Maass 記者による2017-3-10記事「U.S. Army seeks larger munitions stockpile, citing ‘readiness crisis’」。
  米陸軍の制服幹部が連邦下院の軍事委員会の開戦即日戦備小委員会にて、緒戦用の弾薬準備量が足りませんぜと訴えた。
 具体的には、PAC-3、ヘルファイア、GPS誘導の15榴砲弾であるエクスカリバー。
 ※政権発足から数十日。国務省からの「ご進講」もひととおり済んで、さしものトランプ氏も、中共に対しては軍事でも経済でも何もできやしねえんだよ――という己の立場の意外な無力さをかみしめているところだろう。
 こうなると彼の大脳皮質の古い記憶層が蘇る。80年代感覚の日本叩きだ。
 それには、THAADを初めとした役にも立たぬくだらぬ兵器をあれ買えこれ買えという要求も、当然に含まれてくるだろう。
 これについては日本側から対案を先制的に提示するのが、トータルで得であるし、国民の安全を真に高める由縁である。
 買って損がないのは、弾薬類である。
 バルカン半島やリビアへの干渉作戦など、いつも欧州NATOが反省させられるのは、平時の弾薬準備量が絶対的に不足していたということ。
 同じことは日本近海有事でも必ず起こる。自衛隊の弾薬はすくなすぎるのである。機雷もすくなすぎるし、クイックストライク機雷やJDAMにするためのセンサー類も、その本体となる500ポンド爆弾も足りない。それらをしこたま買っておけばいい。
 今日の弾薬は、何十年も保存が効く。買いすぎて無駄になることもない。友軍に融通してもいいのだから。ただしあたらしい保管場所が九州に必要だ。それを、この外圧を利用してついでに建設するといいだろう。
 じつは陸自の弾薬は北海道にはたくさんあるのだが、九州や沖縄方面にはまるっきり少ない。そしてたいへん困ったことに、平時に大量の弾薬を北海道から九州に運ぶ手段が、日本には無いのである。火薬輸送についての法律の縛りが強すぎるのだ。
 しかし、九州に弾薬庫を新設して、そこに米国から買い付けた弾薬を米国のフネで直接に搬入してもらえるなら、諸問題はぜんぶクリアーされる。
 戦時中みたいに、弾薬を日本国内の町工場で大量生産させるなんてことは、今はぜったいにできない。爆発的な需要に、日本の工業力は機敏に対応などできないのである。今日では、だから先進国軍隊は、弾薬を、事前に余分に製造しておいて、それを同盟国同士で融通し合うしかないのである。日本が弾薬を大量に買ってストックすることは、この点で米軍の世界経営をサポートすることにもなるだろう。誰も文句をつけようがない話だ。
 ところで朝鮮戦争中に金日成は、九州に置かれている米空軍基地がどれほどおそろしい力を持っているのか、身にしみて思い知った。
 そこで休戦いらいの北鮮軍の戦争計画の中には、開戦と同時に九州の飛行場を使えなくしてやれるハラスメント攻撃が織り込まれるようになった。この目的のために特に開発されたのが「ノドン」であった。兵頭はさいしょから、あれは日本の都市攻撃用などではないと解説してきた。
 1965-3に北鮮の大幹部が北京を訪問したとき毛沢東は「朝鮮で第二戦線をつくりアメリカを窮地に追いこめ」と金日成に伝言させた。北鮮は、日本の米軍飛行場を攻撃できるロケットを北鮮が手にすれば、北鮮から中共に対して恩を売れるのだということを知った。
 北京にとってはこれが北鮮の利用価値なのである。アジアの米軍基地を攻撃する能力の無くなった北鮮など、北京にとっては援助する価値もないのだ。
 次。
 Jim Walsh 記者による2017-3-9記事「Over and Under Estimating the North Korean Threat」。
  ※インタビューに答えた形式だが、ここ1週間の北鮮ミサイル関連の記事ではおそらくいちばんまともで秀逸な内容。MITのなかに軍事研究プログラムがあって、話者はそこの上級研究員(博士)である。核と中東と東アジアの専門家。北鮮入りしたこともあれば、脱北者からも話を聞きまくっている。
 日本海軍はミサイルの残骸を海から拾うだろう。それと米軍の衛星写真を結合させると、また何らかの情報も得られるだろう。
 韓国人は、米軍の戦術核の半島内再配備は欲してはいない。
 中共は、THAADが将来的には進化して、中共のICBMを破壊できると妄想している。
 THAAD用のXバンド・レーダーも今から15年とかしたら、どこまで進化すか知れないわけである。
 THAADのレーダーは、中共によるSLBM試射/実射を見張る道具でもあるのだ。
 ※これがいちばん問題の核芯を衝いている解説だろう。黄海内または海南島近傍から北米東部を狙って発射された中共海軍のSLBMを米軍が早期に探知追跡するためには、Xバンドレーダーを韓国内に配備しておくことが、日本の経ヶ岬や車力のレーダーよりもずっと飛翔コースに近くなり、便利なのだ。『朝鮮日報』はXバンドレーダーの警戒正面角度が北向きに限定されていることを強調していたけれども、それは将来はどうなるかはわからないわけである。ついでに言うと、西オーストラリアで運用開始したCバンド・レーダー基地は、基本的には中共の極軌道周回衛星の打ち上げを見張るものだろうが、FOBS、すなわち南極廻りで米国を攻撃しようとする中共の奇襲的ICBM攻撃も警戒することができる。中共のICBMだって、進化するからである。
 北鮮がいつ、北米を攻撃できるICBMを手にするのか。そこばかり気にする米マスコミは、北鮮の技倆を過大評価し且つ現に在る真の危険を過小評価しているのである。
 まず、とてもじゃないが北米を攻撃できるICBMなどつくれる段階ではない。北鮮は。
 ペンタゴンは、北鮮が2015までにICBMを持つと予想していたのだ。しかし2015年は何事もなく過ぎた。北鮮はいまだにRVの大気圏再突入実験すらできていない段階なのである。
 では北鮮は米国の無視できる脅威か? とんでもない。韓国に駐留する2万人の米兵に対して北鮮はいつでも核爆弾をポンと投げつけられるのだ。炸裂すれば米兵数千人は死ぬだろう。だから脅威は現にあるのである。
 ※韓国に持ち込まれるTHAADは、米国のカネで、米陸軍の半島最南部の拠点を防護するために、半島に展開される。THAADが準中距離~中距離弾道弾に対するBMDとしてぜんぜん頼りにならないことはすでに米会計検査院GAOのペーパーで指摘されている。しかし射程900km未満のスカッド級にはTHAADは有効である(これならば既存のPAC-3でも有効)。北鮮が核を使うと公言している以上、せめてTHAADぐらい追加で展開しておかないと、それこそ米大統領は、数万人の米国人の命を守る措置を講じなかった、と、あとから米国内で非難されてしまいかねない。
 米韓条約や米日条約により、北鮮が韓国や日本を攻撃したときは、米国は、それを米本土に対する攻撃と同じように看做さなければならないことになっている。
 ※韓国政府はTHAAD部隊のための土地を提供するだけ。それを買うわけでも、運用経費を分担するわけでもない。韓国軍がTHAADを運用するわけでもぜんぜんない。さて一方で、日本の岩国基地の米海兵隊を、これから米大統領はどうやって防護するのか? 海兵隊のためには、すでに米海軍のBMD対応イージス艦があるから、わざわざ米陸軍のアイテムであるTHAADで守らせる必要はない。そして日本ももしそのために一肌脱ぐとすれば、米海軍や海兵隊との連接が取りやすい「イージス・アショア」が合理的な選択だろう。THAAD押売りの片棒をかついぎ、太鼓を叩き歩いている日本側の「輸入応援団」は、頭がおかしいのではないか。もし日本がTHAADを導入すれば、韓国人はかならず、地域の対支関係が悪化したのはすべて日本のせいだと責任転嫁に励み出す。よってわれわれは韓国とはいかなる装備も共通化すべきではないのである。