VX基礎知識

 Dan Kaszeta 記者による2017-2-27記事「VX Nerve Agent: Frequently Asked Questions」。
   神経剤には、G系統とV系統がある。
 前者には、タブン、ゾマン、サリンあり。
 後者には、VX、VGあり。
 すべての化学兵器をアルファベット2字であらわすことにしたのは、NATOである。
 たとえば マスタードガスはHDである。
 Vがヴェノムから来ているというのは都市伝説だろうと思われる。
 蒸気圧〔ヴェイパー・プレッシャー=蒸発のしやすさの目安〕値は、とても低い〔=ほとんど蒸発しない〕。そして沸点は高い。
 ほぼすべての「毒ガス」は普段は液状である。ナーヴ・ガスという言い方も間違いである。神経剤(~エージェント)と呼べ。
 VXは分子量が大きい。重い。なかなか揮発するようなものではないのである。
 揮発しないから、戦場では、持続性である。
 トキシンは生物毒について言う。VXはトキシンではない。
 VXの基本性情は、米軍野外マニュアル『3-11-9』に2005年から公開されている。
 VXは油状で、シロップのような液体である。これが凍ってしまうような場所は、おそらく冬の南極点だけであろう。
 沸点は非常に高く、その化学分子構造が破壊される温度以上である。すなわち、陸上で普通に加熱しても、決して気体状に変えることはできない。
 色も臭いもない。
 しかしごくわずかずつ蒸発はする。その気体は空気より9倍重たい。
 おそらく、床にVX剤をぶちまけた室内を人が歩いて通過しても、呼吸によって致死量のVX剤を吸い込むことにはならないだろう。そのくらい揮発しない。
 ※いっぽうサリンは揮発性なので、話がまるで違ってくるから、混同せぬこと。
 VX剤を液状のまま微粒子にして大気中にスプレーすることは可能である。そのようなエアロゾルとすることで、VXは初めて兵器になるのだ。
 引火性ではないので、砲弾や爆弾に仕込んでアエロゾル状に飛散させることが可能。腐蝕性ではないので、不純物が混じっていなければ、プラスチックやガラスや金属の容器に詰めたまま長期保存してもよい(米軍は1960年代に製造したものを今も保管していて、それはいつでも使用できる)。爆発性もない。
 いちど撒布されたVXは、除染しなければ、何ヶ月もその場に残り続ける。
 VXで人を殺すには、スプレーした微粒子を呼気として吸入させるか、皮膚や目に直接塗布するか、飲食物に混ぜて嚥下させる。
 液状のVXが皮膚に付いた場合、数分から数時間で作用があらわれる。
 その場合、瞳孔収縮は、早期の段階では起こらない。
 もしエアロゾルを吸入した場合、作用は数秒から数分で生ずる。
 VXを発見したのは、英国の化学メーカーICI社の科学者たちであった。
 アミトンという類似成分の新殺虫剤が、人にも危険であると、発売の直後に知られたのだ。
 英政府はこの化学剤について米国に通牒した。そして米国でVXは兵器化された。
 米軍は、マスタード糜爛剤の代りに、このVX神経剤が使えると考えた。どちらも戦場を長期間汚染して、特定エリアへの敵軍の進入をためらわせるのに役立つ。
 あるいは、敵軍のAFVが作戦前に集結している場所に撃ち込めば、敵の攻撃発起直前にその全車両を長時間、使用困難にしてやれる。
 米国での製造はインディアナ州ニューポート市にて、1962年から68年までなされた。純度の高いものを量産するのは大変だった。
 VXは高純度のものをつくるとなると難しい。低純度のものはイラクでもオウム真理教でも作れるのだが、それらは長期保管ができない。
 ソ連のVXは、米軍のVXとはほんのわずか、組成が異なる。
 サダムフセインのイラク軍は、1980年代、地対地ミサイルの弾頭にイラク国産のVXを充填してイランに向けて発射したことがある。
 オウム真理教は1994~95にVXで三回人を襲撃し、うち一名は死亡している。
 米軍の投下式VX爆弾は「ビッグアイ」という。
 米軍は「VX地雷」も有している。踏むと起爆してスプレーが飛び散る。
 精巧に設計されたVX兵器によるエアロゾル撒布の威力は、米軍が羊6000頭をいちどに殺した実験で示されている。
 しかし反化学兵器キャンペーンの影響を受けて、米軍はVX貯蔵ストックの大半を廃棄処理している。
 もしVXに身体を暴露してしまったら?
 まず気道を確保。クリーンな空気が吸えるようにしてやる。
 専門処置をすぐに受けられない場合は、とりあえず石鹸水で洗うことが推奨される。