断熱革命

 Hope Hodge Seck 記者による2017-4-5記事「These ‘Swimming Bullets’ Can Obliterate a Target Underwater」。
        ノルウェーのDSGテクノロジー社は米海軍に、12.7mm以下の火器から普通に発射できる水中弾「CAV-X」を売り込み中だ。
 CAVとはもちろんキャヴィテーションの略。
 タングステン弾芯を銅で被甲してあるが、形状と質量が絶妙に調節されており、水中突入時にちょうどよい泡が生じ、それに包まれることによって水の抵抗を最小限にしながら突き進む。
 陸上での有効射程2200mといわれる12.7mm弾の場合、水中をさらに60mも進んでくれる。これは、ヘリコプターから視認できる潜水艦をも攻撃できることを意味する。
 7.62ミリ弾なら22m。5.56ミリ弾なら14mだ。港湾警備艇の乗員たちには重宝だろう。
 次。
 ケミカル工業系の学会誌の『Chemistry & Chemical Industry』(日本語)の2017-2月号の、「シリコーン系のエアロゲル」の特集記事。
 これは1931年に米国で発見されている素材で、可視光線を歪み無く透過させる一方で、熱伝導率が空気よりも小さい(固体物質中では最も低い)。
 家庭の窓や壁や天井用としては理想的な断熱素材たり得る候補物質だ。
 遺憾ながら物理的な応力には弱くて、大きくすると自重でも壊れてしまうほどに脆い。その欠点がながらく克服されなかったのだが、そろそろ問題の解決に近づいているようだ。
 もしもそうした弱点がなくなり、やがて安価に大量生産されて、たとえば窓ガラス代わりに普及すれば、住宅の断熱性は格段に改善され、理想的な省エネ住宅ができる――などと特集記事では書かれているのだが、兵頭おもうに、どうして日本の科学者の発想はこんなに小いせェんだ?
 この素材が「農業革命」に結びつくということに、どうして誰もピンと来ないのだ!?
 この新素材でビニールトンネルを織り出せるようになれば、北海道の荒地でサツマイモが栽培できるではないか。
 それで日本のカロリーベースの食糧自給率は100%を達成してしまう。しかも、国全体では石油を大幅に節約しながらである。
 逆に南国の低地で高原野菜も栽培できる。(長野県のハウス農家には Bad News か……。)
 ビルの断熱材としてこれが普及すると、ビルのクーリングのために冬以上にたくさんの石油を燃やすという、これまでの都市部での悪循環を止めることができる。
 これは年中クーラーをガンガン効かせている天下のヒートアイランド国家サウジアラビアにとってはじつに朗報となるのだから、サウジの大金持ちたちに投資させることも考えたらいいぢゃねェか。
 商店街の「モール」や商業ビルのエントランス部分が、この素材の屋根材と壁材によって、冬は寒くなく、夏は暑くなく、光だけが充溢した空間となる。
 乗用車の断熱材に使えば、クーラーを回すエネルギーは節約される。日本にはますます石油は要らなくなる。
 夕方に風呂を一回沸かすと、それは深夜までも冷めなくなる。
 冬服と冬靴を、おそろしく薄手にできる。もちろんダイバーのドライスーツも。「人間トド化」計画……とでも呼ぼうか。
 もちろん話はそんなレベルでは終わらない。この素材で、災害避難村用の「テント」をこしらえればどうなるか? それがそのまま、普通の木造住宅と遜色のない断熱性を発揮してくれる。ということは、周年、そこに居住しても、寒暑をしのぐ上で、なんの不便も感じないで済むのだ。
 北海道の厳冬期の雪原中で、ロクな暖房設備もないのに、気楽にテント生活が送れるようになる。
 世界には、「ホームレス」はありえなくなるのだ。
 ……ようこそ、ビニールシート御殿へ……!
 夢のマイホームが幕舎では格好悪すぎるという方々には、薄いベニヤ板とこのシリコンアエロゲル膜のコンパウンドがオススメだろう。見た目は豪邸だがじつのところはガレージレベルの造作で(したがって地震で圧死するおそれ無し)、快適そのものの平屋が数百万円くらいのポケットマネーでドーンと建つのだと想像してみ。
 太陽黒点が急にゼロになっても、この素材があれば人類は氷河期を生き残れる。
 誇張抜きに、こういうのが「世界を救う技術」ではないのだろうか。
 ※中学時代に、「鑑識の結果が出ました!」「何だった?」「乾燥剤シリカゲルです」……という『大陽に吠えろ』コントをやっていたのを急に思い出しましたわい。