「読書余論」 2017年5月25日配信号 の 内容予告

▼土肥一夫監修『海軍 第三巻 日露戦争』S56-5
 ※明治地政学から日本海海戦の正確な解説まで、叢書の1冊として埋もれさせておくには惜しい巻。唯一、無炸填の28珊砲弾で旅順の露艦が沈んだと誤信している解説者の意見部分だけ、イタすぎる。
 『敷島』『朝日』『初瀬』『三笠』は1万5000トン。これに対抗する戦艦はスエズは通れない。
 この対抗不能性追求戦略が対露戦では、とてもうまくいった。だから戦後、こんどはパナマ通航できない大型艦で米海軍に対抗しようと考える。そうはさせじとアメリカから逆に手枷足枷をはめられてしまったのが、ワシントン軍縮条約。
 ※日本海海戦前に機雷や衝突で沈んでいる数隻の軍艦艦長と幕僚たちはその後、どんなキャリアを歩んだのだろうか? ガンルーム士官たちは自慢できない自分の戦歴を語っただろうか? 特に、鈴木貫太郎と同じくらい長生きした者は?
 追躡[ついじょう]権=Right of pursuit とは。領水内で犯罪を犯した船舶を領水内から追い始めた場合は、そのフネが公海に出たあとで拿捕して裁判にかけてもいい。ただし、フネと関係ない犯罪人が単にその船内に遁入して乗っているという理由では、追躡権は生じない。
 ロシアは1901時点で対日作戦方針を固め、旅順艦隊によって日本が黄海に入るのを阻止し、ウラジオ艦隊で日本の海上交通を破壊し、かつ日本本土沿岸を脅威すると決めた。
 1903-12の権兵衛の推定。ウラジオ艦隊は巡洋艦4隻と駆逐艦により小樽や函館を攻撃し、日本艦隊を二分しようと図るだろう。
 結果として、日本の海軍力を分散させようとしたロシア側が却って各個撃破された。
 病院船も拿捕できる。
 戦時といえども臨検した商船の郵便物を破却することは、国際法違反。
 第一駆逐隊は7月下旬、樺太側および大陸側に作業隊を上陸させて、海底電線を切断した。これは中立国相互の線だと国際法上許されないが、敵国の電纜ならば合法的な交戦権行使と認められるようになっていた。
 加藤高明はなぜ西園寺内閣の外相を2ヵ月で辞めてしまったか。(後任は林董。)
 伊藤正徳の『加藤高明伝』によれば、それは陸軍(事実上は、兒玉参謀総長)の満州支配計画と正面衝突したから。鉄道国有化など争点ではなかった。満州の門戸開放という対米公約を破ることが大問題だった。
 戦時に、中立国が、軍艦を交戦国に売り渡すことは、国際法で禁じられていた。
 中立国船が敵国に対して軍事的幇助(軍隊輸送など)を現に行ないつつある場合は、これを拿捕して没収することができる。
 そして、それを本国港まで送致しているとわが軍艦が現に従事中の作戦行動が失敗してしまうという場合には、それを破壊(撃沈)してよい。
▼デービッド・アッテンボロー著、門田裕一監訳『植物の私生活』1998-4刊
 アフリカのバグルウィードは、チョウやガの生長ホルモンに類する薬物を合成する。これを食べるとイモムシの頭は2つに増え、死ぬ。
 豪州特産のクリスマスツリー。寄生性の木本で、地下の根が「吸根」となって他の植物を襲う。こいつが地下ケーブルに触れると、地下ケーブルのプラスチック皮膜を突破。さらに導管と錯覚した銅芯を「ハサミ」で切断しようとするので、絶縁不良になってしまう。回避策は、最初に首縄状に巻き付いて引き寄せる吸根がつくる「輪」の径よりもケーブル外径を太くしておくこと。
 すべてのサボテンはアメリカ原産。
 米大陸原産のウチワサボテンを他大陸の沙漠に放つと勝手に増殖して手に負えなくなるという。
▼佐藤卓『キナバル山の植物』1991-7
▼かのよしのり『重火器の科学』2014-7
 ロシアのフロッグ7は、射程70kmだが、CEPは500m。
 ※MLRSやATACMSはフロッグの威力を超えてしまっているわけ。
 戦艦大和の46糎91式徹甲弾。装薬360kg、弾丸重量1460kg、着速500m/秒、最大射程42005mまで106秒かけて飛翔。炸薬33.85kg。弾底信管は0.4秒。
 複働信管は、時限式と着発式の2つの機能を持つ信管。
 二働信管は、瞬発式と遅働式の2つの機能を持つ信管。
 どちらも、発射の前に選択する。
▼かのよしのり『狙撃の科学』2013-2
 ロックタイム。引き金を落としてから雷管が叩かれるまでの時間。短いほど、優秀。ウェザビー・マークVは、2.9マイクロセカンド。(1万分の29秒)。
 これに対して六四式小銃は40ミリセカンドで、「論外」のレベルである。
 日米戦争中の38式歩兵銃の口径6.5ミリ弾は、初速760m/秒。
 米軍のM1ライフルは初速850m/秒。
 ところが、450m先に到達する時間は、どちらも0.7秒で同じ。日本の6.5ミリ弾は、空気抵抗が少ない、反動も小さい、よってよく当たる、至高のエコ弾だった。
▼井上雅央『イノシシ シカ サル これならできる獣害対策』2008-12
 害獣は山から来ているのではない。集落が「餌付け」同然の土地管理をしているので、集落周辺で増殖しているのだ。自然状態では猪の子は、5匹のうち1匹しか育たない。しかし放置畑等があれば、全頭が育つ。
 関西では3月から7月上旬までタケノコがある。これがイノシシの餌である。
▼藤原章生『湯川博士、原爆投下を知っていたのですか』2015-7
 津野田知重(1917~87)は、乃木の幕僚だった津野田是重少将の三男で、1944に東條暗殺を謀って逮捕されている。戦後は電源開発へ。また、日本科学技術振興財団の専務理事。
▼ダドリー・ポープ著、伊藤哲tr.『バレンツ海海戦』S56、原1958「73 North ―― The Defeat of Hilter’s Navy」
 ドイツ工業は、スウェーデンとノルウェイの鉄鉱石に依存していた。その鉱石の三分の一は、ノルウェー海岸から海送されていた。ヒトラーとレーダーは、英国がノルウェーに侵攻してそれを遮断すると恐れた。先手をとるため、1940-4-9にドイツはノルウェーとデンマークに侵入した。
 なぜドイツはなけなしの戦艦を、空襲されやすいブレストなどに置いていたか。スペインが枢軸側に立って参戦し、スペイン本土とカナリア諸島の軍港を使えるだろうと踏んでいたのだ。
 ドイツは、まずジブラルタルをスペインのために攻略してやるからと言ってフランコを誘惑していた。フランコは乗らなかった。
 9000トンの『ニューキャッスル』級巡洋艦の『シェフィールド』は燃料を1800トン積む。17ノットの巡航速度で、1時間に8トン消費。30ノットでは、毎時30トン。
 碇泊中の軍艦に長期間閉じ込められていると、ベテランの地位の高い士官でさえも、何をするにも無気力になり、出港を思うと気が滅入るようになってしまう。
 艦が沈むとき、コルクの浮きのついた太い縄を海中に落とす。浮舟の代りになる。
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 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。
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