Philip Ewing 記者による2017-6-19記事「How Could The Navy Destroyer Collision Happen?」。
月は無かった。深夜2時半。ほぼ凪。
2012には『フィッツジェラルド』と同型駆逐艦の『ポーター』がホルムズ海峡でタンカー『オトワサン』と衝突している。
この事故の原因は、周囲の多数の艦船がどこに行くのかにばかり注意をしていて、自分のフネのコースについての注意がおろそかになっていたためだった。今日の艦船は、進むコースをたいがいあらかじめ航法ソフトでセットして自動航進しているので、ブリッヂで誰かが常に舵を握っている必要がないのだ。
『オトワサン』が急に前方に見えたので、座乗していた准将が、左転舵を命じた。
しかしその発令タイミングは遅く、しかもまた、「機関全速」も命じなかった。
2009年に、揚陸輸送艦『ニューオリンズ』にSSNの『ハートフォード』が衝突した。その調査では、『ハートフォード』の側がぶったるんでいたことが判明した。
ホルムズ海峡のような混雑海域を通るときは艦長は制御室に常在していなければならないのにずっと不在だった。航海長は上級士官室でアイポッドで音楽を聴いていた。
ひとつ確かなこと。フィッツジェラルドの艦長は、事故当時、船室に居た。
艦長室は右舷にあった。そのためベンソン艦長は部屋ごと潰されて負傷し、日本の海保のヘリで本州まで運ばれた。
※大昔は船長室は必ず艦尾の左舷側にあった。なぜなら港には常に左舷から着岸させたから。今日の軍艦では艦尾は音がうるさいので士官室も置かない。
兵員室はもっと低層のデッキにあった。そこが『クリスタル』のバルバスバウで突き破られ、ドッと海水が流れ込んだ。
発電用ガスタービンが入った機械室も、そのとき塩水に完全に漬かった。
『フィッツジェラルド』は自航で横須賀までたどりつけたが、なんと発電機の関係で電子機器は使えなくなっており、「磁石コンパス」で針路を定めたという。スクリューは2軸のうち1軸が動かないという。
次。
Bryan McGrath 記者による2017-6-19記事「How Could This Happen? The Fitzgerald, the U.S. Navy, and Collisions at Sea」。
わたしはよく似た駆逐艦『バークレイ』の艦長を2年勤めた経験がある。
洋上の2隻の関係。
「スタンドオン」は、譲る必要のない側。
「ギブウェイ」は、譲らねばならぬ側。
そして海上の任意の2隻の接近コースは3種類に分けられる。
ミーティング(ヘッドオン)。
クロッシング(横合い)。
そしてオーバーテイキング(追い越し)。
問題は、クロッシングとオーバーテイキングの境目なのだ。ここが現実には、あいまいで混乱するのだ。
「追い抜き」をかけられているフネAは、「スタンドオン」の立場なので、コースも速度も変えてはいけない。衝突回避義務は、追い越しをかけているフネBにある。
しかしAの右方のちょっと後方から接近してくるフネBが急に認識されたばあい、直進船Aは、逆に「ギブウェイ」の立場となり、Aに衝突回避の義務が生ずる。
Bが追い抜きをかけていく途中で、Aとの立場関係が逆転する可能性が、リアルな海では、しばしばあるのだ。殊に「指定航路幅」が狭く、混雑しがちな海面では。それで、両船のブリッヂに、混乱やとまどいがもたらされる。
まして夜間となったら……。
この、クロッシングか追い越しかの境目をはっきりさせてくれるライトシステム(電燈の色によって、相手船の相対角度がわかる)が、船舶には備わっているのだが、夜間にはどうしても視認し難い。霧の夜となったら、お手上げである。
レーダーは全周の距離8マイルまでの他船の動きを教えてくれる。その同じ画像を、艦長居室のベッド脇のミニモニターで見ていることもできる。
海面が荒れていると、しかし、クラッターのために、レーダーは小型船を見逃すようになる。
1996-10に、空母『TR』と、巡洋艦『レイテ湾』が衝突した事故があった。
『TR』は後進してきた。しかし『レイテ湾』のブリッヂでは、そのレーダー表示が信じられなかった。空母がバックしてくるとは思えなかったから。それで回避が遅れ、ぶつかってしまった。
2万9000トンのコンテナ船が15ノットで走っているとする。いっぱんに、このフネが行き脚を止めるためには、さらに2.5海里も走らねばならぬ。また、旋回するには、最小で0.5海里の回転半径が必要だ。
駆逐艦は9000トンで相当に機敏なれども、自動車のようにキキッとは停まってはくれぬもの也。
だから洋上では、衝突回避の決心と命令は、とにかく早めに、うんと遠くから発しないと間に合わないわけさ。