日本も海保が「洋上抑留場」となる中古客船をチャーターできる仕組みを整えておくと、次の半島有事に便利だろう。

 Traci Tong 記者による2017-11-28記事「U.S. Coast Guard operating secret floating prisons in Pacific Ocean」。
      米コーストガードが中南米の麻薬密輸業者を太平洋の公海上で捕まえたとき、沿岸警備船艇は臨時の長期留置場にされる。
 米国の司法体系の外側で米政府が外国人を抑留できる施設としてはキューバのグァンタナモ基地が知られている。
 しかしそれ以外にもあったのだ。「浮かぶグァンタナモ」が。
 NYTのすっぱ抜き。ボートごと太平洋上で抑留し、本土から護送命令が来るまで、そこで延々と数ヶ月も留置し続けることがあるという。
 テクニカルには、領海外であれば「逮捕」したことにはならないらしい。
 だから合衆国憲法が保証する、行政による私人の身柄拘束から起訴・公判までのタイムリミットは、そこでは無視できる。
 ※米当局は「麻薬に対する戦争」だと考えており、「容疑者」でも「捕虜」でもない「国際法違反の不法戦闘員」として時間無制限に訊問したい。
 米国務省はこれについて南米諸国政府と合意している。また、合衆国海上麻薬取締法(U.S. Maritime Drug Law Enforcement Act)というのもあって、それが適用されるから合法だという。
 米コーストガードは今日では、太平洋岸を南下して、コロムビア、エクアドル、中央アメリカ沿岸を見回っており、コカインがメキシコに揚陸される前に阻止しようと活動中。メキシコから、あらためて北米に持ち込まれるのだが、その段階ではもう遅いのだ。
 典型的な密輸屋。エクアドルの漁民で、カネが欲しくなり、麻薬密輸を志願する。1隻のボートに、別なエクアドル人やコロンビア人らと乗り組み、コカインを満載して、中央アメリカに近づき、さらにグァテマラに近づいたところで米コーストガード船に臨検される。
 ボートはコーストガード船に繋留され、運び屋たちは70日間、足首に鎖をつけられた状態で洋上のコーストガード船内に抑留される。90日という例もあったそうだ。
 ただし同一の船艇にずっといるのではない。複数のコーストガード船艇がリレー式に抑留場所を提供する。
 彼らはずっと起訴されない。
 じつは、抑留船となっている沿岸警備船艇が給油や需品積み込みのため陸岸に寄港することもちょくちょくある。そんな日は、捕らわれの「運び屋」たちは水線下の船室、もしくはヘリコプター格納庫内の「隠し部屋」に押し込められたまま。補給が済めば、船艇はまた沖へ戻って行く。
 運び屋どもの洋上での抑留期間は、平均すると18日だという。
 最終的には、フロリダの裁判所へ引き出される。
 この流儀は、トランプの首席補佐官であるジョン・ケリーの仕切りだ。
 ケリーは2012から16まで、「中南米コマンド」の司令官だった。その主任務は、対麻薬戦争であった。
 退役後にトランプ政権の本土防衛省の長官になった。そこが沿岸警備隊を統轄している。
 ケリーの主張。対麻薬戦争では、最前線をもっと外側へ大拡張しなくては米本土は守れやせぬ。だからコーストガードよ、敵の海岸の領海線ギリギリまで行け!
 いちおう、臨検は公海上でなされているが。
 下っ端の漁民の運び屋どもは、密輸ルートの全容なんか知らない。中米に荷渡ししたところで、彼らの請負仕事は終わりなのだ。その先は関知していない。ただし、直接北米へ向かう船がないとも言い切れない。
 ※コーストガードの警備が緩くなれば、直航するに決まっている。
 加州巡回法廷は、そのコカインの最終仕向け地が米国であると証明されぬと運び屋を有罪にできないと言っている。
 フロリダ州の法廷では、そのような面倒な立証は必要とされない。だからコーストガードは運び屋を必ずフロリダ州へ引っ立てる。
 洋上留置場で70日過ごした男は、フロリダに送致される前に、中央アメリカで上陸させられる。そして「麻薬取締局に身柄を引き渡す」と告げられる。そこからフロリダへ空輸される。
 そこから合衆国の刑法で裁かれ、裁判所で懲役十年の判決を言い渡され、NJ州の連邦監獄に入れられる、といったパターンだ。
 ところで抑留船艇の側では、「エクアドル地震で経済が不況だから麻薬密輸屋に志願した」とかぬかすこんな屑どもとの長期同居を歓迎しないのは当然である。よってトイレは使わせない。監禁部屋の中にバケツが置かれる。バケツの中身は運び屋自身が舷側から海に捨て、自分で掃除しなければならない。
 次。
 Phil Stewart 記者による2017-11-28記事「China racing for AI military edge over U.S.: report」。
   中共軍内の思想家は、「バトルフィールド・シンギュラリティ」が来ると予測している。人間の将兵が、戦闘中、マシンによる意思決定の速さについて行けなくなる時が来るというのだ。
 ※ここんところ北鮮核関係の雑誌記事註文がたてつづいたせいで『AI戦争論』(飛鳥新社)の執筆が遅れています。が、これから挽回します! 刊行は来年です。お待ちください。
 次。
 謹告。『日本史の謎は地政学で解ける』の訂正について。
 ほとんどの要訂正箇所は2刷で直っているのですが、なぜか2箇所、わたしの指示に反して直されていないところがあります。
 まずp.122のうしろから4行目、(しかも、~~ きわめて高い) とある文は編集者氏が挿入した一文で、わたしはそんなこと書いてませんので、読者の方でここを削除してお読みください。
 もうひとつは、初版のp.153のうしろから5~4行目、行長・清正の二名が~~偶然ではない。 とある一文です。これも同様で、わたしはそんなこと書いてませんので、読者の方でここを削除してお読みください。