「読書余論」 2017年12月25日配信号 の 内容予告

▼山路愛山『足利尊氏』S24-8イワブン、原M42-1
 山路が日本史を数人の個人で代表させると、まず日本武尊。ついで藤原鎌足、菅原道眞、藤原道長、源頼朝、足利尊氏、徳川家康、徳川吉宗、西郷隆盛と伊藤博文。
 これが模範的日本人で、この英雄たちがその時代を作った。
 ノーと言えるのは男らしさなのだと、カーライルが言った(p.29)。
 『朝野群載』によれば、対馬の山の北向き斜面から、湿気の無い晴天時に半島方向を見れば、肉眼で、「金海府」の牧野の馬の群れや、船に掛けた帆の布まで見えたと。
 文永以降、日本国内では誰も北條氏を困らせようとはしなかった。蒙古が迫っている以上、国内は団結しなければいけないと皆思っていた。だから鎌倉政権は、国内治安に煩わされずに済んだ。
 北條時代の武家の特色。兄弟がほぼ同格に並び称されていた。足利尊氏と直義。新田義貞と義助、高師直と師泰、菊池武重と武敏。
 一族の長者の家督といえども独裁権がない。これも鎌倉時代の特徴。
 侍は、御成敗式目によれば、土地をひとつでも持つ者。土地をもたない者は「凡下の輩」と区別される。
 古代ローマの共和政は、元老や代官たちが、属国の君主たちから賄賂を貰うようになってから、衰滅が止められなくなった。属国は軽侮するようになり、各地で一斉に叛乱が。
 神皇正統記には、新田義貞は足利高氏の一族だと書いてある。『保暦間記』にも。
 新田義貞は尊氏の命令によって挙兵したにすぎない。
 世人も、義貞は足利一族だと承認していた。尊氏の子の義詮は4歳で新田軍に加わっている。北條高時が滅亡した後、関東の将士は、新田義貞ではなく、足利義詮に属した。
 尊氏は、足利家にとって本国とも言うべき三河を通るときに、在地の吉良良義に相談した。そこで手兵をさらに集め、近江で先帝の綸旨を得、入京した。
 尊氏は、苦心惨憺なしとげるという人ではない。生まれつきのブルーブラッドで、苦労を知らないので、他者に寛大だった。誰も憎まなかった。
 努力してそういう性格になったのではない。ナチュラルにその性格だったのである。
 尊氏は人を信じることが自然にできた。
 また一面で運命論者で、生命の危機が迫ったときも心に余裕があった。
 巻末解題。
 日本の英雄として愛山は源頼朝を最初に取り上げる心組だったが、硬直右翼どもが日本の言論を統制しようとする空気があり、出版制約をかけられてしまう前に尊氏のまともな評価を出しておこうと山路は判断した。
 じっさい、M43以降、南北正閏論で日本の史学はムチャクチャになった。
 父の山路一郎は、榎本武揚に従って出奔。
 『防長回天史』を3年で仕上げた愛山は、信濃毎日新聞社の主筆になり、M26に信毎に「露国恐るるに足らず」「非非戦論」を寄稿。
 M41以降、日本の社会義者らは、マルクス主義の正当性を日本歴史で証明しようと考え始めた。幸徳秋水は室町時代史の研究に着手した。
▼野村喬『評傅眞山靑果』1994-10
 綿谷雪は早稲田を出たあと、S6から青果のもとで筆耕等の助手を勤めた。 綿谷の筆名が、戸伏太兵。S14から時代小説を書く。S36に『日本武芸者小伝』。そののち『日本武芸流派大事典』。
 漢学者の家に育った青果は、芝居=娯楽=悪 という刷りこまれた価値観から、死ぬまで逃れられなかった。
 徳川氏は足利氏から出たので、元禄時代にあっては、むしろ北朝贔屓の学者が少なくなかった。
 硬骨の政治家・赤城宗徳は、自分でも『平将門』を著している。赤城は大正末期の水戸高校時代に、青果の戯曲『平将門』を読んで共鳴した。真山はヒューマニストだと思った。
▼津軽海峡海難防止研究会ed.『津軽海峡の天気とことわざ』H1-12
 松前ではカモメのことを「ゴメ」という。カモメは時化の前には大食いになる。
 時化の前にはウニが砂に潜ろうとする。アワビは岩に強く吸着する。ナマコは、ちぢこまる。
 ◆  ◆  ◆
 「読書余論」は、主に軍事系の古本を、兵頭が注目した一斑の摘記や読書メモによって紹介し、他では読めないコメントも附しているものです。
 あまりに多すぎる過去の情報量の中から「兵頭はここは珍しいと思いました」というポイントだけ要約しました。
 大きな図書館に毎日通えない人も、最低費用で、過去の軍事知識のマニアックな勘所に触れることが可能です。
 また、ミリタリーしか読んで来なかった人には、他分野の情報が、何ほどか有益かもしれません。
 「読書余論」は、毎月25日に「武道通信」から最新号が配信されます。1号分の購読料は500円です。
 バックナンバーも1号分が500円で、1号分のみでも講読ができます。
 過去のコンテンツは、配信元の「武道通信」のウェブサイト
http://www.budotusin.net/yoron.html
 で、タイトルが確認できます。
 電子書籍ソフト対応の「一括集成版」もできました。詳細は「武道通信」で。
 「読書余論」は、2018年6月25日配信号以降は無料化されます(購読者登録だけが必要)。これから数ヶ月分の購読料をまとめて振り込まれる方は特にご注意ください。詳細は「武道通信」で。
 ウェブサイトでわからない詳細なお問い合わせは、(有)杉山穎男事務所
sugiyama@budotusin.net
 へどうぞ。