存在しないものは出せない。

 「原爆」も「水爆」もそもそも1発も存在しないのだから、米国に提出なんかできるわけがない。
 存在するのは、ビル1棟サイズの「核爆発装置」の残骸のみ。その実情は誰にも絶対に知られたくないので、トンネルを崩壊させて証拠をぜんぶ埋めてしまうつもり。
 次。
 Ralph Savelsberg 記者による2018-5-17記事「Houthi Missiles: The Iran Connection; Scuds Are Not Dead Yet」。
 記者はオランダ人のミサイル防衛専門家。
 シーア派ゲリラのフーシがイエメン領内から発射してサウジの首都リヤドまで到達させた、レンジ950km?の「ブルカン 2-H」とはどんな弾道弾なのか。
 弾頭重量は500kgに減らされているので、サウジ側の受けた打撃はいまのところ僅か。
 しかし飛翔速度が大なので、サウジ軍が展開しているペトリオットでは迎撃ができない。フーシの発射から9分で着弾するのだ。
 サウジ率いる湾岸スンニ政府連合軍は、優勢な空軍力を使ってフーシの弾道弾を地上で爆砕しようと何年も欲しているが、成功できていない。
 フーシが発射している「ブルカン 2-H」は、イラン国内で製造されている弾道弾「キアム 1」とほぼ同じものだろう。イランは船舶によりイエメンへ弾道弾を陸揚げしてフーシを援助している。もともとは、イランが北朝鮮から買った「スカッドB」を、イラン人が小改造したものだ。
 スカッドには大面積の空力フィンがあった。「キアム1」や「ブルカン 2-H」には空力フィンは無い。
 ちなみに北鮮製のスカッドでフィン無しのものはない。
 サウジが回収した弾道弾破片には、イランで部品が製造されたことがわかるロゴの認められる部品が複数あった。
 スカッドの最も一般的なバージョン「SS-1C」または「スカッドB」は、ペイロード990kgで300km飛ぶ。70年も前にデビューした兵器だ。
 300kmではリヤドまで届かない。いったいどうやってレンジを900km以上まで延ばしたのだろうか。
 記者は「Burkan 2-H」の発射直後の上昇段階をとらえている公開ビデオ動画から加速度を解析し、そこから「推力:重量比」を割り出し、これはイラン製のミサイル「Qiam-1」そのものだと結論する。
 前例。北鮮の弾道弾はいかにして射程を増したか? スカッドBをコピーしたのが「火星5」。スカッドCをコピーしたのが「火星6」である。
 火星6は、従来はケロシンと酸化剤(赤煙硝酸=Red Fuming Nitric Acid)が2つのタンクに分けて入れられて、そのタンクが上下直列していたのを、ひとつの長いタンク内にバルクヘッド(隔壁。ただし酸化剤側へ張り出す形のドーム状)を設けて上下に仕切る設計にして軽量化し、さらに弾頭重量も750kgに軽減することで、500kmまでの射程延長を実現している。
 北鮮は1999年に「スカッドD」をリビアへ密輸出しようとしたものの、インドの税関に貨物船『Kowulsan』号を臨検されて失敗している。
 2016-9に北鮮が日本海に撃ち込んだのは、スカッドC/Dより胴径が太い「スカッドER」だった。ERは、エクステンデド・レンジ。射程1000kmと想像される。
 イランの「シャハブ1」とは火星5であり、イランの「シャハブ2」とは火星6そのものである。
 イランの「キアム1」は2010年に存在が知られた。「シャハブ2」よりも改善されている。
 内戦が起きる前のイエメン政府も、北朝鮮から「火星5/6」を買っていた。
 2002年に北鮮の『So San』号が15発の北鮮製弾道ミサイルをイエメンに搬入した。一度はアデン湾(イエメンとソマリアに挟まれた海面)でスペイン軍艦によって臨検されたのだが、当時はそれを抑留できる法的根拠がなかった。
 こうした過去があるから、フーシが発射している弾道弾に北鮮製の火星5/6が混じっていても不思議はない。しかし、火星5/6ではリヤドまでは届かない。
 2016年、イエメンのフーシの「国防大臣」が「ブルカン1」について発表した。それは全長12.5m、全重8トンで、射程が800km、ペイロードは500kgである、と。このスペックは「スカッドD」とピタリ一致する。
 リヤドにフーシのミサイルが1発着弾した最初の日は、2017-11-4である。着弾点は、リヤド市北郊の「キング・ハリド空港」。
 2017-12-19にはもう1発、リヤド市に着弾。2018-3-25には、複数の弾道弾がリヤドに降った。
 3月25日のミサイル空襲についてはサウジが「迎撃」したというビデオをSNS上に公開している。ところがペトリオットの1発目は発射直後に自爆しているし、続いて発射されたもう1発は大きくコースが曲がって地面に着弾している。
 これら迎撃ミサイルの爆発破片も加わって、地上ですくなくとも1名が死亡している。
 フーシはさらに、4月11日、そして5月9日にもリヤドをミサイル攻撃した。
 ブルカン2Hは、胴径は88cmで、これはスカッドC/Dとそのコピー品(シャハブ1/2、キアム1)の共通サイズである。
 スカッド系のミサイルの筒体の外面には、どれも同じように、金属製の配線用ダクト(raceway)が長々と縦に貼り付いているのが見える。これは、孔をあけたりしたくないケロシンタンクと酸化剤タンクを避けて、弾頭部の誘導システムと、尾端部ブースターの推力調節システムを結線するために必要となっているケーブルの経路で、この長さは、「ケロシンタンクの長さ+酸化剤タンクの長さ」とイコールである。
 このダクト長を比較すると、「キアム1」のケロシンと酸化剤は、「火星6/シャハブ2」よりも増量されていることが分かる。タンク全長が、より長い。しかし、胴径そのものはすべて同じと看做して可い。
 フーシのアンサル・アラーという男が2017-12にビデオフッテージを公表した。弾道弾ブルカン2Hが発射されて上昇する初期段階を横から撮影したものだ。
 この動画からは、ブルカン2Hの初期の加速度を計測できる。
 音声と映像がマッチしていることから、動画に細工がされているようには見えない。捏造加工は無いものとする。
 誤差5%で、初期加速度は「12.2m/秒二乗」だと言える。
 ここから、発射時の推力と重量の比は、2.25だと言える。
 スカッドBのモーター燃焼特性は細かいところまで既知である。
 ダクト長および外鈑溶接痕線からタンク長も推定できる。
 不確定要素は、タンクの実際の形状。またタンク内にはいくぶんの空隙を残しておくものだが、その実際の容積。またケロシンを尾端燃焼室まで導くパイプが酸化剤タンクを縦貫しているものだが、その容積。また、バーンアウトさせる時点でどのくらいの燃料を余らせる設定になっているのか、等。
 結論。キアム1およびブルカン2Hは、スカッドBより25%増しの燃料を搭載できる。
 全体寸法と全重はスカッドBとほぼ変わらないと推定ができるので、搭載燃料を増やしたぶん、弾頭重量はトレードオフとして減らしているはずだ。
 スカッドBの筒体にはスチールが使われていた。これをアルミ合金に替えて軽量化する努力もした……としよう。
 空力フィンをなくすることでも軽量化されるし、それは空気抵抗も減らす。
 レンジ300kmのスカッドBの全重を軽量化させ、990kgの弾頭重量を500kgまで減じ、総燃料を増量し、所定残燃料も切り詰めるなどすると、「キアム1」は、レンジ918kmを達成できそうだ。だが、それでもイエメン領内からリヤド市まで届かせるには、ちょっと足りない。
 ただしそれは海抜0mから発射した場合だ。
 フーシはイエメン北西部の山岳地(標高1800mぐらい)からSSBMを発射した。これだと空気抵抗がずいぶん減る。
 さらに重要なのは、イエメン北西部の射点から見れば、リヤド市はほんのわずか「東」寄りなのである。よって、地球の自転力も加味することができる。
 これまで、ブルカン2Hは、北鮮の火星6をブースターに転用したイエメンの国産品だと思われてきた。
 しかし記者は結論する。ブルカン2Hはイラン製である。
 スカッドDでもないし、スカッドERでもない。